研究計画書と研究テーマ、修士論文の作成

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研究計画書の作成

研究計画書の形式は大学院によって異なります。東洋大学大学院法学研究科公法学専攻を受験する場合は、以下のポイントを参考に研究計画書を作成すると良いでしょう。同大学院を受験される方で不安がある場合は、お問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。

研究目的
(背景・問題意識・意義)


  • なぜそのテーマを選んだのか、どのような背景があるか、その研究にどのような社会的・学問的意義があるか。
  • 法的に何が問題で、研究によって、何をどこまで明らかにするのか。
  • 関係法令や裁判例、先行研究を踏まえて、どのような法的問題があるのか(研究の目的で簡記した問題視点をもう少し丁寧に展開するイメージ)。
  • 国税庁の通達等ばかり記載し、根拠条文を記載しない、検討しないことのないように気を付けましょう。

研究内容
(方法・方向性・特徴)


  • どのような研究方法で研究を進めるか。
  • 現時点で、どのような方向性になるか、どのような成果が得られると予想されるか、どのような意義があるか。
  • 先行研究と比較した場合の特徴や独自性は何か。
  • 研究に実現可能性はあるか。

研究計画


  • 1年次、2年次にそれぞれ具体的にどのような研究を行う予定か。
  • 実行可能性のある予定が組まれているか。

参考文献リスト


  • 主要な先行研究や参考文献のリスト

参考文献・引用文献等の表記は、次のものに従っておけばよいでしょう。

「法律文献等の出典の表示方法〔2014年版〕」

「東京大学法科大学院ローレビューにおける文献の引用方法」

外国文献や外国の裁判例の表記について、簡易的には、生成AIで「以下の文献(判決)を最新のBluebookフォーマットに従って表記するには、どうすればよいですか。」などと入力するといいでしょう(ただし、最終的にはBlueBookフォーマットに従っているかどうかを自分の目で確認してください)。
いずれにしても、同一の書類・論文の中で表記を統一してください。

大学院入学後は指導教授の指示に従ってください。

研究テーマの選択

これまでの学習や実務経験から、ある程度研究テーマが決まっている方は良いですが、決まっていない方も多くいらっしゃいます。

研究テーマの選定に迷っている方は、次の方法を試してみると良いでしょう。

まずは①から始めると、租税法の全体像がつかめ、効率的に研究を進められるようになります。

01

専門誌・専門書等を読みあさる

02

税金に関係するニュース、
記事、ブログ等に目を通す

03

研究者や税理士などの
専門家に相談する

04

将来、税理士として強みを
持ちたい分野や税目を検討する

05

税理士試験の受験科目と
研究テーマの税目を一致させる

06

税務大学校論叢租税資料館賞受賞論文集
掲載されているテーマからヒントを得る

先行研究や関連する裁判例等ある方が研究しやすいのですが、
これらの文献には先行研究の引用や整理が丁寧にされている場合が多く、
研究の足がかりとなります。

07

生成AIを使ってアイデアを得る。

上記の方法に加えて、興味があるテーマでないと筆が進まない場合もあります。その場合、租税法以外で関心があることを書き出し、そのテーマに関連する税金の問題をインターネットで検索してみましょう。

文献等の検索に有用なサイトはこちら

例えば、オンラインゲームが好きであれば「ゲーム 税金」、音楽が好きなら「音楽 税金」と検索するのが良いでしょう。生成AIに尋ねるのも一つの手です。

租税法は取引や関連分野が非常に広いため、一見、税金に関係がないように見えるテーマでも実は税の問題が絡んでいることが多々あります。

また、入試の際に提出した研究テーマと実際に大学院入学後に研究するテーマが異なることもありますので、入学後は指導教授に相談することをお勧めします。

こちらでは、「修士論文テーマ・研究計画書テーマ参考」の記事も随時アップしています。

研究の方向性等の検討

おおまかな研究テーマが決まったら、そのテーマが研究として成り立つかどうか、どのような方向性に進めるか、独自性をどのように出すかを確認するために、さらに掘り下げて検討する必要があります。

以下の点に注意しましょう。

その1

 自分が論じたい内容が、既に先行研究によって十分に論じられている場合、新たな見解を加えたり、学説や裁判例の新たな整理を提案したりするなど、独自性を出すことが難しいと感じるなら、そのテーマは研究に適していないかもしれません。

 独自性を見出すためには、(どんな小さなことでも構いませんが)新しい視点を付加する必要があります。

その2

 当該テーマに関する先行研究や裁判例に対し、疑問を提起したり批判的に検討したりすることが重要です。

 しかし、疑問や批判が浮かばず、自分なりの仮説を立てることができない場合、研究が進みにくくなることも考えられます。

テーマが決まったら、そのテーマに関連する文献や資料を片っ端から集めて読みましょう。

 情報の整理や後からの引用作業を容易にするため、早い段階から収集したデータを整理して保存し、内容や自分の見解をWordなどでまとめておくことをおすすめします。文献はOCRなどを使ってデジタル化し、検索性を高めておくと効率的です。

また、あらかじめ、あるいは文献を読み進めながら、そのテーマに関する自分の関心事項や疑問点を明確にしておくとよいでしょう。

 このような意識を持つことで、どの論者がどのような根拠でどのような見解を持っているのか、学説をどう整理すべきか、自分の疑問点に対する明確な回答を示す文献がどれか、または学説や裁判例で何がまだ解明されていないのかに気づけるようになります。

この過程を繰り返すことで、数多くの文献の中から、自分のお手本とすべきものやターゲットとすべきものが見えてくるでしょう。

修士論文の作成

修士論文の作成方法については、まず指導教授に相談しましょう。参考として、以下の手順を示します。

01

準備作業・仕込み

準備作業の段階では、
次の作業を進めます。

1

資料収集・
裁判例の整理

2

先行研究の整理

3

論点・疑問点・
立法経緯・改正の歴史の整理

4

自説の整理

この段階で、元資料をPDF化しつつ、Wordなどを利用して、以下のノートを作成します。

  • 学説・裁判例整理ノート(上記①に関連)
  • 裁判例整理ノート(上記②に関連)
  • 論点整理ノート(上記③④に関連)

資料の収集と整理には相当な時間がかかるため、遅くとも1年生の秋学期ごろから取り組むのが無難です。

とりあえず、コンメンタールなどを利用して、③の立法経緯・改正の歴史を整理することから始めてもよいでしょう。
その際、条文を何度も呼んで、論点や疑問点を書き留めます。

02

執筆第1段階

準備がある程度整ったら、自分が論じたいことを中心に
論文の構成・あらすじを作成し、執筆を開始します。
執筆中は、上記の3つのノートを
随時修正・更新します。

03

執筆第2段階

執筆が進んだ段階で、再度、3つのノートを見直し、その内容を原稿に反映させます。。

04

執筆第3段階

一通り書き終えたら、以下の重要な点を確認します。

自説の立場と論拠が明確か

(自説を批判するか、批判してもらいましょう。通説にとらわれていないか、通説に盲目的に従っていないかを確認しましょう)

学問的意義や社会的意義が明確か
独自性が明確か
先行研究・関係裁判例を十分に検討しているか
反対説や他説を考慮しているか
整理ノートに照らして論点の取りこぼしや検討漏れがないか
論文構成が冗長でないか
検討したけど後々の議論で使っていないものがないか

(立法経緯を記載したけどその後の議論では一切使われていないなど)

抽象的な議論を具体例などで補っているか
剽窃がないか、自説と他説の区分が明確か

これらの点を確認する際には、ゼミ、修士論文の中間報告会、研究会、生成AIなどを活用すると良いでしょう。

最後に、研究目的・問題意識と結論が対応しているかを確認します。例えば、各章の序論→各章の小括→結論を通して読み、論理的でわかりやすい内容・文章構成になっているかを確認するために、全体を通して読み直します。

05

仕上げ

最後に、本文や脚注の表記などを含めて、修士論文全体を見直し、仕上げます。

修士論文の作成に当たっては、
酒井克彦『フォローアップ租税法』(財経詳報社)の一読をおすすめします。