本記事の紹介

本記事では、国税庁が財務省主税局に対して提出した「令和6年度税制改正意見」の内容を整理し、主要な改正意見について紹介します。

国税庁では、納税者の利便性の向上や適正・公平な課税・徴収を実現する観点から、制度上の対応(税制改正)が必要と考えられる事項について意見を申入れています。これらの意見は、主税局との事務的な調整を経た後、与党税制調査会で審議され、毎年度の税制改正大綱に反映されます。


令和6年度の税制改正意見では、税務手続のデジタル化、暗号資産取引に関する調書提出の義務化、相続税電子申告の利便性向上、消費税の免税店制度の適正化、不正還付への対策強化など、多岐にわたる改正が提案されています。

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(参考1) スケジュール
主に8月下旬主税局に対する当庁意見の提出
9~10月主税局との事務的な調整
11月上旬~ 与党税制調査会(当庁意見を踏まえた改正事項は「納税環境整備」の分野で議論)
12月上中旬与党税制改正大綱
12月中下旬政府税制改正大綱(閣議決定)

(参考2) 当庁意見を踏まえた改正事項(過去の改正の主な例)
・各種申請等の簡素化等
納税地の異動、変更に関する届出書について、その提出を不要とした。また、修正申告書等の記載事項から、その申告前に係る更正前の計算の基礎となる税額等を除外するほか、所要の整備を行った。
・記帳水準の向上等に資する施策の導入
事業所得等の収入金額が300万円を超えるものが、隠蔽仮装行為に基づき確定申告書等を提出していた場合、総収入金額を得るために直接に要した費用等の額は、一部を除き、所得の金額の計算上、必要経費の額に算入しないこととした。

・給与所得の源泉徴収票の提出方法の見直し
・個人事業者等の各種届出書の簡素化
・ダイレクト納付の利便性向上

以下、主たる改正意見の抜粋です。

目次
  1. 処分通知等の電子交付の拡充等
  2. 相続税専用利用者識別番号(代理送信用) の新設
  3. 中小法人の電子申告の推進に係る措置
  4. 国外所在情報の収集について
  5. 消費税の輸出物品販売場制度(免税店制度) の適正化
  6. 消費税不正還付への徴収面からの対応
  7. 暗号資産交換業者を通じて行った暗号資産の交換等取引に係る調書提出の義務化
  8. 外国子会社合算税制(租税負担割合の計算方法) の適正化
  9. 非上場会社の株式等の異動に関する調書の新設
  10. 仮装隠蔽に基づく更正の請求への重加算税の適用
  11. 虚偽の更正の請求等による消費税不正受還付への消費税法による罰則の適用
  12. 時の経過により価値の減少しない資産に係る措置
  13. 再保険に係る適正課税を確保するための総合的対応
  14. 財産債務調書に係る罰則規定の創設
  15. 国外財産調書・財産債務調書の法定監査権限の拡充
  16. 居住者・非居住者の判定の見直し
  17. 寄附金控除の申告手続の簡便化
  18. 租税特別措置法第39条《相続財産に係る譲渡所得の課税の特例》の改正
  19. 公益法人等に係る課税所得の範囲の適正化
  20. 繰上保全差押えに係る交付要求の要件緩和等
  21. 長期間にわたり債権者への配当がされない事態へ対応する仕組みの創設
  22. 外国子会社合算税制( 適用対象金額の計算における法人所得税額の取扱い) の適正化
  23. 参考資料(ダウンロード可)

処分通知等の電子交付の拡充等

現行制度

①電子交付の対象となっている処分通知等の範囲が現状限定的であるところ、納税者利便の向上や行政事務の効率化のため、処分通知等の電子交付の更なる拡充を図る必要がある。
なお、令和5年度税制改正大綱やデジタル社会の実現に向けた重点計画(令和4年6月7日閣議決定)などの政府方針においても、処分通知等(税務署からの通知)の電課題1 子化・デジタル化の推進に取り組む旨記載されている。
② 処分通知等の電子交付を受ける旨の表示を申請の都度行う必要があるため、納税者の利便性を欠くほか、申請等に基かない処分通知等の電子交付を行うことができない。

課題

電子交付の対象とする処分通知等の拡充のため、オン化省令について次の内容の措置を行う。なお、電子交付された処分通知等の納税者の見落としを防ぐため、e-Taxにおける納税者又は関与税理士のメールアドレスの登録の必須化を検討する。
※ 改正の施行時期については、次世代システムの導入のタイミングに合わせる必要
① 電子交付を行う処分通知等の拡充
※ 費用対効果等の面から電子化が妥当でない通知や手続の性質上電子化になじまない通知を除く。
② 処分通知等の電子交付を受ける旨の納税者の表示について、個別の処分通知等に係る申請等に併せて行う形式から、あらかじめ一括的に行う形式へと変更する。

改正意見

処分通知等の電子交付に関して、次の措置を行う。なお、処分通知等の電子交付の拡充に際して、処分通知等を確実に納税者が認識できるよう、e-Tax における納税者又は関与税理士のメールアドレスの登録をこれまで以上に強く促す必要がある。
①電子交付可能な処分通知等の範囲について、原則として、税務署長が法令に基づいて行う処分通知等の全てとする。
②処分通知等の電子交付等に係る納税者の同意の方式について、個別の処分通知等ごとに同意を行うものから、あらかじめ一括して同意を行うものへと変更する。

相続税専用利用者識別番号(代理送信用) の新設

現行制度

相続税の電子申告を行う場合、あらかじめ税務署長に届出を行い、識別符号及び暗証符号(以下、これらを併せて「利用者識別番号」という。)を取得する必要がある(国税オン化省令4①②)。
税理士が代理送信により申告手続を行う場合、相続人の電子署名を行うこと及び当該電子署名に係る電子証明書を送信することを要さないが、相続人の署名に代えて、利用者識別番号を入力の上、送信する必要がある(国税オン化省令5①、6①)。

課題

相続税の申告は、臨時・偶発的な手続であり、税理士関与割合が高いことから、電子申告を行う場合、税理士が代理送信で行っているところ、当該代理送信に当たっては、全ての相続人の利用者識別番号の取得状況を確認する必要がある。
相続人が利用者識別番号を取得しているか明らかではないケースが多いところ、当該確認作業に時間を要し、スムーズな申告手続を行えないことが、相続税の電子申告の普及・拡大の妨げとなっている。
相続税申告のみに関与する税理士は、既存の利用者識別番号が廃止されることを懸念し、開始届出書の提出を躊躇するケースが多いことから、相続税専用の利用者識別番号(以下「相続税専用利番」という。)を求める声が多い状況である。
> 所得税申告等で既に利用者識別番号を取得していた場合、開始届出書を提出することにより、既存の利用者識別番号は廃止されるため、過去のメッセージボックスの内容を確認できなくなることを懸念。
相続税申告は、相続人の連署により申告手続を行うため、利用者識別番号を取得しているか明らかではない相続人が一人でもいる場合、全ての相続人が書面申告となってしまう傾向にある。

改正意見

相続税の電子申告の普及・拡大のため、次の措置を行う。
オン化省令第4条(事前届出)に基づき、あらかじめ税務署長に届出を行う際に、相続税専用利番の届出を可能とするとともに、被相続人の住所地の所轄税務署に一括提出できるようにする。
税務署長は、電子情報処理組織を使用する方法により当該届出を受理したとき、相続税専用利番を相続人及び税理士に通知する。
改正意見I. オン化省令第5条(電子情報処理組織による申請等)に基づき、税理士が代理送信により相続税申告を行う際に、相続人の署名に代えて入力するものとして、オン化省令第6条(申請等において氏名等を明らかにする措置)第1項第二号に規定する利用者識別番号に相続税専用利番を含めることとする。

中小法人の電子申告の推進に係る措置

現行制度

資本金の額等が1億円を超える法人などの一定の法人が行う法人税等の申告について現行制度1は、電子情報処理組織を使用する方法(e-Tax) により行うこととされている(法法75の4) が、中小法人などのその他の法人は、法令上、法人税等の申告をe-Taxにより行うこととされていない。

課題

経済社会のICT化や働き方の多様化が進展する中、政府全体として行政手続きの電子化を進めてきているところ、税務手続においても、ICTの活用を推進することで、利便性の高い納税環境を整備するとともに、社会全体のコスト削減及び企業の生産性向上を図ることが重要であるとされている。
この方針を実現させるためには、中小法人に対して電子申告をより推進していく措置が必要である。
これは「経済社会の構造変化を踏まえた税制のあり方に関する中間報告② (平成29年11月20日政府税制調査会)」における「法人の基本的な手続は原則としてe-Tax で行われるという姿(法人税等の電子申告利用率100%) の実現を目指すべき」との指摘とも方向性を同じくするところである。
他方で、税理士関与のない中小零細法人には、自らで電子申告を行える財務基盤も人材もないとの意見もあり得るため、一気に電子申告を進めることも妥当ではないことから、まずは、法人の選択により適用しても適用しなくても構わない一定のインセンティブ措置について、電子申告を行うことをその逸用要件にすべきではないかと考える。

改正意見

将来的な中小法人の電子申告の義務化を導入するまでの過渡的な措置として、税制措置の中でも、一定のインセンティブ措置(例えば、租税特別措置の適用状況の透明化等に関する法律に規定する法人税関係特別措置)については、電子申告を行っている場合に限り適用できることとする。

国外所在情報の収集について

現行制度

質問検査権に係る規定等(国税通則法74条の2等)

課題

税務調査において、関連資料が国外に所在する情報等(以下「国外所在情報」)については、執行管轄権の制約により反面調査を行うことができず、課税関係の判断に必要な事実関係の収集に苦慮するケースが存在。
また、新たな国際課税ルールの導入等により、国外所在情報の収集の必要性は増大すると考えられる。
なお、諸外国では、例えば、サモンズ(米国)、情報入手に係る協力義務(ドイツ)、情報提出要請及び証拠排除措置(オーストラリア)など、国外所在情報を収集するための規定を有する国も存在する。

改正意見

要件、手続等を具体化した上で、居住者・内国法人に対して国外所在情報の提出を求めるための規定を設ける。

消費税の輸出物品販売場制度(免税店制度) の適正化

現行制度

消黄税の輸出物品販売場制度(免税店制度)とは、税務署長の許可を受けた輸出物品販売場を経営する事業者が、法令に定める所定の免税販売手続きを行うことにより、外国人旅行者等(免税購入対象者)に対して通常生活の用に供する物品(免税対象物品)を譲渡現行制度する際に、当該譲渡についての消費税を免除する制度(消贄税法第8条第1項) 。
免税対象物品を購入した免税購入対象者は、税務署長の承認がない限り、当該免税対 物品を国内において譲渡してはならないこととされ(同条第 4項)、当該承認を受けずに国内において譲渡した場合には、当該譲渡した者(免税購入対象者)に対して、免除に係る消費税相当額を直ちに徴収することとされている(同条第5項) 。

課題

令和3年10月以降免税販売手続が完全電子化されたことにより、国内において転売されていることが疑われる多量・多額な免税販売の実態が顕在化しており、国税当局においては、輸出物品販売場を経営する事業者のほか、購入側の免税購入対象者に対しても調査を実施しているところ。
その結果、不正な国内転売の事実を認定できた場合には、消費税相当額を賦課決定しているが、対象者が国外に出国してしまい、国内に十分な資産等も有しないなど、徴収が困難なケースがある。
こうした状況について執行のみで対応していくことは一定の限界があり、制度的な対応についても検討する必要がある。

改正意見

付加価値税を導入している諸外国の制度も参考としつつ、輸出物品販売場制度の適正化に向けた必要な措置を講ずる。

消費税不正還付への徴収面からの対応

現行制度

現行、滞納者の国税につき滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合において、その不足すると認められることが、当該国税の法定納期限の一年前の日以後に、滞納者がその財産につき行った政令で定める無償又は著しく低い額の現行制度1対価による譲渡、債務の免除その他第三者に利益を与える処分に基因すると認められるときは、これらの処分により権利を取得し、又は義務を免れた者は、これらの処分により受けた利益が現に存する限度(これらの者がその処分の時にその滞納者の親族その他の
特殊関係者であるときは、これらの処分により受けた利益の限度)において、その滞納に係る国税の第二次納税義務を負う(国税徴収法39条)。

課題

消贅税の不正還付事案は、還付金が還付され次第贅消等がされ、その後、調査・滞納処
分を行う段階では既に残存していない場合が散見される。
また、???人に財産がない場合は、現行の第二次納税義務制度(徴収法39条等)をもってしても対応に苦慮する場合がある。

このような問題に対応するためには、滞納法人以外の者に対する新たな納税義務の拡張等について検討する必要がある。

改正意見

会社法429条及び597条の規定を参考に、滞納法人の不正行為及び会社法上の取締役の責任に着目し、その法人の意思決定機関である取締役等に対し、第二次納税義務を賦課するといった方途を検討する。
具体的には、滞納者が偽りその他不正の行為により消費税の還付を受けた場合において、その還付を受けた国税について徴収不足となったときは、その役員等に対し、不正に受けた還付金の額を限度として第二次納税義務を賦課することができることとする。

暗号資産交換業者を通じて行った暗号資産の交換等取引に係る調書提出の義務化

現行制度

暗号資産取引については、全ての取引形態について、従来、法定調書の対象とはされていなかったが、金融商品取引法の改正により、「暗号資産」が金融商品として位置づけられ、金融商品取引法上のデリバティブ取引に「暗号資産デリバティブ取引」※ が追加されたことに伴い、暗号資産デリバティプ取引については、「先物取引に関す根拠条文をる支払調書」の提出対象とされた(令和3年1月施行) 。【所得税法224条の5、所記載する。得税法225条】
一方、暗号資産の売買や交換などのいわゆる現物取引については、法定調書の提出対象とはされていない。

課題

上記のとおり、暗号資産デリバティブ取引に係る支払調書の提出については措置されたが、現物取引については現時点において法定調書の提出対象とはされていない。
暗号資産取引の過正申告を担保するため、平成30事務年度において、暗号資産取引業協会に対し、顧客への年間取引報告の交付を依頼し、当該仕組自体は確立しているところであるが、未だに無申告等が散見されている状況であり、当局による取引情報の把握が必要。
また、非居住者の暗号資産取引に関する自動的情報交換の国際標準となる枠組み(CARF) が2022年8月にOECDの租税委員会で承認され、今後、非居住者の取引に関しては報告義務が発生することとなるが、他方で居住者の取引は、依然として把握できないこととなり、バランスを欠くものと考えられる。

改正意見

暗号資産交換業者に対し、利用者(顧客)の暗号資産交換等取引について、税務署へ調書の提出を義務付ける。

外国子会社合算税制(租税負担割合の計算方法) の適正化

現行制度

外国子会社合算税制では、特定外国関係会社の各事業年度の租税負担割合が30%以上の場合には、本税制を適用しないこととされている(措法66の6⑤一) 。
この租税負担割合の分子となる「外国法人税の額」について、外国関係会社の本店所在地国の外国法人税の税率が所得の額に応じて段階的に商くなる場合には、これらの税率のうち最も高い税率であるものとして算定した外国法人税の額とすることができる特例(以下「複数税率特例」という。)が設けられている(措令39の17の2②四) 。

課題

実質的に税負担の著しく低い国に所在する外国子会社が外国子会社合算税制の対象とならない事例が生じている。
(事例)

???

改正意見

このような事例について、外国子会社合算税制の適用が免除されないよう措置する必要があることから、租税負担割合の計算方法を見直し、複数税率特例を廃止する。

非上場会社の株式等の異動に関する調書の新設

現行制度

現行制度上、株式等(所法224の3②に掲げる株式等をいう。以下同じ。)の異動を把握するための法定調書としては、「株式等の譲渡の対価等の支払調書」(所法225①十、十一)がある。・当該調書は、①個人から法人への有償譲渡、②金融商品取引業者等への売委現行制度託による譲渡又は③会社による端数株式等の競売を原因とする株式等の異動があった場合に、対価等の支払者が提出するものである(所法224の3①ー~三)。

課題

所得税、贈与税及び相続税の税務調査においては、連年、非上場会社の株式等の譲渡や贈与に係る非違が継続的に把握されている。これらの非違は、上記調書又は種々の情報に基づき把握しているが、端緒把握の安定性に欠けるのが現状である。
非上場会社の株式等の譲渡や贈与に係る課税の遥正性・公平性を維持するためには、課税庁が非上場会社の株式等の異動を安定的に把握することを可能とする枠組みが必要である。

改正意見

所得税、贈与税及び相続税の課税の適正性を確保する観点から、非上場会社の株式等の異動を正確に把握するために、非上場会社において株主等の異動があった場合に、当該非上場会社がその情報を記載して提出する法定調書を新設する。

仮装隠蔽に基づく更正の請求への重加算税の適用

現行制度

過少申告加算税(更正予知前の修正申告に係るものを除く。) (又は無申告加算税(更正等予知前の申告に係るものを除く。))が課される場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実に仮装・隠蔽があり、その仮装・隠蔽したところに基づき納税申告書を提出していたとき(又は法定申告期限後に納税申告書を提出していたとき等)は、過少申告加算税(又は無申告加算税)に代え、35% (又は40%) の重加算税を賦課することとされている(通法68①②)。

課題

重加算税の賦課要件の一つは「仮装・隠蔽したところに基づき納税申告書を提出していた場合」とされるが、この「納税申告書」には「更正の請求書」は含まれていない。
そのため、仮装した事実に基づき「更正の請求書」が提出され減額更正をしていた場合、その後の更なる調査において当該仮装行為を把握して増額更正をしたとしても、上記の賦課要件を満たさず、重加算税を賦課することができない。
重加算税制度は、納付すべき税額の計算の基礎となる事実について隠蔽又は仮装という不正手段があったときに、特別の行政制裁を課し、適正な申告をした納税者との権衡を図るものである。
仮装隠蔽したところに基づき「納税申告書」を提出することと、仮装隠蔽したところに基づき「更正の請求書」を提出することは、実質として、納税のための手続か、減額更正を請求するための手続か、という差異があるのみで、納付すべき税額の計算の基礎となる事実について仮装隠蔽という不正手段を講じて不当な利益を得たことに変わりはない。
(注)更正の請求書が提出された場合には、税務署長は更正をすべきかどうか必要な調査を行い、更正をすべき理由がない旨を通知することも可能であるが、更正の請求に基づく還付金は、法令上、遅滞なく還付しなければならないこととされ(通則法56①)、???

また、「納税申告書」が修正申告書である場合には、仮に仮装隠蔽行為を行った時期が法定申告期限後であったとしても、条文上、重加算税の賦課対象に含まれていると考えるべきであり、その場合には、仮装隠蔽行為のタイミングも「納税申告書」と「更正の請求書」で一致している。
以上を踏まえると、「仮装隠蔽に基づく更正の請求書を提出した者」は、「仮装隠蔽に基づく納税申告書を提出した者」と同一の不正行為を講じた者であり、また、納税申告書が修正申告書である場合には、その不正行為の時期も同一であることから、同様に重加算税の対象とし、適正な申告をした者との権衡を図るべきであると考える。
[具体的な事例】※令和4年10月28日政府税調説明資料16頁(事例4)
〇納税者は、法人税の確定申告書を提出後、外注費の計上漏れを理由とした更正の請求を行った。
〇更正の請求書には外注費に係る領収書等が添付されていたため、机上調査により減額更正を行ったが、その後の実地調査において反面調査を行ったところ、当該領収書は、印紙添付・取引先の社判を模造して使用するなど巧妙に外形を整えて作成された架空領収書であることが判明。
〇不正に還付金を受領することを意図した仮装隠蔽行為が認められるが、本事案は、「仮装隠蔽に基づく更正の請求書の提出」であるため、重加算税を賦課できず。

改正意見

重加算税の賦課要件に、「仮装・隠蔽したところに基づき「更正の請求書」を提出していた場合」を加える。
また、調査忌避や検査妨害等により実態解明を困難にし、不当に納税額を減少させようとする者等のように、現行制度で十分に対応できていない行為に対応するための加算税制度の見直し等を行う。

虚偽の更正の請求等による消費税不正受還付への消費税法による罰則の適用

現行制度

消費税の不正受還付については、消費税法64条1項2号において、偽りその他不正の現行制度行為により、控除対象仕入税額の控除不足額又は中間納付額の控除不足額により還付を受けた者に対して、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科することとされている。

課題

前述の消費税法64条1項2号は、不正受還付犯の主体を、「第52条第1項又は第53条第1項若しくは第2項の規定による還付を受けた者」、すなわち、確定申告書等の提出により消費税の還付を受けた者に限定しており、更正等により消費税の還付を受けた者は含まれないため、虚偽の更正の請求等による不正受還付は、消費税法上の不正受還付犯には該当せず、詐欺罪として処理せざるを得ないと思料される。
しかしながら、虚偽の更正の請求等による不正受還付は、消脅税法上の不正受還付犯の保護法益である累積課税回避を目的とする還付制度の適正な運用の確保を侵害するものであり、法益侵害の観点からは、申告書の提出における不正行為との間に違いはない。
また、過去の査察事件において、ほ脱事件ではあるものの、虚偽の更正の請求に基づき納付額を減額する更正が行われた事例の判決では、既に確定した具体的租税債権(納付額)の範囲内での還付について、ほ脱犯が成立するとされている。(東京高裁昭62.3. 16、東京地裁昭61.3. 19)
さらに、詐欺罪は国税通則法上の「国税に関する犯則事件」に該当しないため、虚偽の更正の請求による不正受還付は、実質的には租税犯でありながら国税当局による犯則事件の調査の対象とはならず、査察調査による証拠収集等が行えないこととなり、租税犯の特殊性に鑑みて国税職員に犯則調査権限を付与している国税通則法の趣旨を没却することとなる。
以上を踏まえれば、虚偽の更正の請求等に基づく不正受還付についても消費税法上の不正受還付犯として処罰することが租税法体系上整合的である。
なお、所得税法及び法人税法における受還付犯は、純損失の繰戻しによる還付(所得税法142条2項(非居住者に準用する場合を含む。))、欠損金の繰戻しによる還付(法人税法80条10項(外国法人に準用する場合を含む。))に限定されており、消費税法と同様に、更正の請求に基づく更正による還付は含まれていないが、純損失又は欠損金の繰戻しによる還付後に純損失又は欠損金が増加する場合には、各税法の基本通達にて翌年度(期)以降の申告において控除することとしているため、更正の請求により欠損金又は純損失の繰戻しによる還付額が発生することはなく、更正の請求による不正受還付犯は成立しないものと思料される。また、相続税法上、受還付犯の規定は置かれていない。

改正意見

消費税法64条1項2号消費税不正受還付犯の主体に、更正の請求に基づく更正により還付(54条1項及び55条1項、2項)を受けた者を追加する

時の経過により価値の減少しない資産に係る措置

現行制度

法人税法上、棚卸資産、有価証券及び繰延資産以外の資産で、時の経過によりその価値の減少しないものは減価償却資産に該当しないこととされている(法令13本文括弧書)。

課題

「時の経過により価値の減少しない資産」とはどのようなものが該当するのか法令上明らかにされていないところ、資産の中古市場が形成されており、時の経過によって価格の低下が観察されない減価償却資産が見受けられる。???

改正意見

時の経過により価値の減少しない資産の範囲について、法令によりその範囲を明らかにする。???

再保険に係る適正課税を確保するための総合的対応

現行制度

???ところ、現行法令上、国外関連者に対する支払保険料の損金算入を制限に関係する措置として以下のものがある。
1.寄付金課税
国外関連者に対する寄む金の額は損金不算入となる(措法66の4③、法法37②)。
2.移転価格課税
再保険に特別に配慮した規定は導入されていない。
3.行為計算否認規定
法人の行為又は計算を容認した場合に、法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるときは、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、法人税の課税標準等を計算することができる(法法132①)。
4.CFC課税
保険会社が、海外の子会社に再保険した場合には、その子会社の所得はCFC課税の対象となり得る(措法66の6②-)。
5.国内瀕泉所得該当性
再保険料については、PEに帰属するものを除き、国内源泉所得に該当しない(法法138①-、所法161①-)。

課題

???

改正意見

???

財産債務調書に係る罰則規定の創設

現行制度

現行制度上、国外財産調書については、「偽りの記載をして税務署長に提出した者」及び「正当な理由がなくて…提出期限までに税務署長に提出しなかった者」に対して、1年以下の懲役又は五十万円以下の罰金という罰則規定が設けられている(国送金等調書法10①②)が、財産債務調書については同様の罰則規定は設けられていない。

課題

国外財産調書及び財産債務調書は、自己の保有する財産等に関する情報について本人からの提出を求める制度であることから、一般的な制度の周知・広報にとどまらず、提出を要すると見込まれる者や記載不備の者に対して、書面照会等の行政指導や法定監査を行うなど、本制度の適正な執行に努めているところである。
しかしながら、財産債務調書については、国外財産調書には規定されている虚偽記載及課題び不提出に対する罰則規定がないため、提出義務者の協力が得られず、十分な財産等の実態解明を行うことが困難となる場合がある。
適正に財産債務調書の提出を行っている納税者との間で公平性を損なうことがないよう、制度的対応が必要である。

改正意見

財産債務調書の適正な提出を確保するため、虚偽記載及び不提出について、国外財産調書と同様に罰則規定を設ける。

国外財産調書・財産債務調書の法定監査権限の拡充

現行制度

現行制度上、国外財産調書及び財産債務調書の法定監査における質問検査権の対象は、「国外財産調書若しくは財産債務調書を提出する義務がある者(当該国外財産調書又は財産債務調書を提出する義務があると認められる者を含む。)」とされており、第三者に対する行使(いわゆる反面調査としての行使)は認められていない(国送金等調書法7②)。

課題

国外財産調書及び財産債務調書については、提出を要すると見込まれる者や記載不備の者に対して、書面照会等の行政指導や法定監査を行うなど、本制度の適正な執行に努めているところである。
しかしながら、国外財産調書及び財産債務調書は、自己の保有する財産等に関する情報について本人からの提出を求める制度であることから、提出義務者本人の協力が得られない場合には、十分な財産等の実態解明を行うことが困難となる。
適正に国外財産調書及び財産債務調書の提出を行っている納税者との間で公平性を損なうことがないよう、制度的対応が必要である。

改正意見

国外財産調書及び財産債務調書の法定監査の実効性を確保するとともに、提出義務者に適正な提出を促すため、質問検査権の行使対象に、第三者を追加する。

居住者・非居住者の判定の見直し

現行制度

「居住者」とは、国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて一年以上居所を有する個人をいうこととされ、「非居住者」とは、「居住者」以外の個人をいうことされている(所法2 ①三・四)。
上記の国内に住所を有するか否かについては、
(1) その者が国内において、継続して一年以上居住することを通常必要とする職業を有すること
(2) その者が日本国籍を有し、かつ、その者が国内において生計を一にする配偶者その他の親族を有することその他国内におけるその者の職業及び資産の有無等の状況に照らし、その者が国内において継続して一年以上居住するものと推測するに足りる事実があること

に該当する場合には、その者は、国内に住所を有する者と推定することとされている(所法3②、所令14、15)

課題

???

改正意見

居住者・非居住者の判定において、諸外国でも日数基準により判定している例があることに倣い、日本に居所を有する期間が183 日以上である場合には、居住者とする規定を設ける。

寄附金控除の申告手続の簡便化

現行制度

寄附金控除の遥用を受けるためには、
(1) 寄附金を受領した者の証明書
(2) 特定事業者(ふるさと納税に係るポータルサイト事業者)の発行する証明書を添付した確定申告書を提出する必要がある(所法120、所令262①六、所規47の2③)

課題

企業において、寄附金を給与から天引きするとともに、被用者の申告を簡便化したいとのニーズがある。

改正意見

従業員が勤務先を経由して寄附をした場合の寄附金控除について、勤務先を寄附金除証明書の発行者に追加する。

租税特別措置法第39条《相続財産に係る譲渡所得の課税の特例》の改正

現行制度

相続税額の取得費加算の特例(措置法第39条)の適用を受けた者が、相続税法第32条の規定(分割確定等の後発的事由)による更正の請求を行ったことにより相続税額が減少し、それに伴い所得税の修正申告書を提出した(又は更正があった)ことによって生じた新たに納付すべき所得税に係る延滞税については、計算期間の特例が設けられており、その延滞税は免除される(措置法39⑨)。

課題

相続税法第32 条第1項に規定する事由により相続税の修正申告を行う場合であっても、相続税の課税価格に占める譲渡資産の相続税評価額の割合が減少することにより、取得費に加算すべき相続税額が減少する事象が生じるが、租税特別措置法第39条第9項の規定は、更正の請求の場合のみを対象としていることから、修正申告の場合は延滞税の計算期間の特例が適用されない。

改正意見

相続税法第32条第1項に規定する事由により所得税額が増加することは、更正の請求だけでなく修正申告を行った場合にも生じ得るが、現行法令においては、更正の請求のみを対象としているため、課税上の整合性を図る観点から修正申告を含める旨の措置を講ずる。

公益法人等に係る課税所得の範囲の適正化

現行制度

公益法人等については、その行う事業の公益性から、収益事業(法人税法施行令で定める34事業)から生じた所得のみが課税の対象とされ、それ以外の所得は課税の対象から除外されている(法法4、2十三、法令5) 。

課題

① 公益法人等の課税所得の範囲の適正化
公益法人等に対する課税は、公益法人等が法人税法施行令に限定列挙された収益事業を行った場合になされる。収益事業課税の趣旨は、営利法人と公益法人等との間のイコールフッティングであり、その趣旨からすれば、営利法人が適正な対価を取って行うような事業は、全て課税対象とするのが本来の姿であると考えられる。しかしながら、現行制度の下では、営利法人等が行う事業を公益法人等が非課税で行っており(注) 、同ー事業を行う営利法人と公益法人等との間における不公平のほか、収益事業を行う公益法人等とそうでない公益法人等との間にも不公平が生じている。
(注)例えば、公益法人等がスポーツ教室や語学教室、パソコンなどの技能教室を営むことで所得を得ていたとしても、技芸教授業(法令5①三十)に該当せず、課税の対象にならない。
② 請負業の範囲及び非課税要件の明確化
イ収益事業の1つである請負業は「請負業(事務処理の委託を受ける業を含む。)」(法令5①十)と規定されており、請負(民法632) のほか委任(民法643) や準委任(民法656)をも含む広い概念であると解されている。そのため、収益事業として特掲されている事業の中に請負業的な性格を有するものが少なくなく、特掲されている事業に該当しない場合において、請負業に該当するかしないかが明確でない。
(注)例えば、野外で行う保育活動の委託を受けた場合において、それが幼児教育の要素があるときは、技芸教授業として判断するのか、請負業として判断するのか明確でない。
ロ公益法人等が国・地方公共団体から事務処理の委託(請負業)を受ける場合であっても、それが「法令」の規定に基づき、かつ、実費弁償的に行われるなど一定の要件を満たせば非課税となる(法令5①十イ、法規4の2)。しかしながら、事務処理の受託としての性質を有する事業の中には、「法令」の規定に基づかなくても、実費弁償的な対価で行われるものも少なくない。

改正意見

① 公益法人等に係る課税所得の範囲を「対価を得て行う全ての事業から生じた所得」に拡大する。
② 請負業の範囲を明確化するとともに、非課税となる実費弁償的な要件を適正化する。

繰上保全差押えに係る交付要求の要件緩和等

現行制度

国税通則法38条第1項各号に掲げる繰上請求事由に該当する場合において、次に掲げる国税(納付すべき税額が確定したものを除く。)でその確定後においては当該国税の徴収を確保することができないと認められるものがあるときは、税務署長は、その国税の法定申告期限(課税標準申告書の提出期限を含む。)前に、その確定すると見込まれる国税の金額のうちその徴収を確保するため、あらかじめ、滞納処分を執行することを要すると認める金額を決定することができる。この場合においては、その税務署の当該職員は、そ
の金額を限度として、直ちにその者の財産を差し押さえることができる。
一納税義務の成立した国税(課税資産の譲渡等に係る消費税を除く。)
二課税期間が経過した課税資産の譲渡等に係る消費税
三納税義務の成立した消費税法第四十二条第一項、第四項又は第六項(課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れについての中間申告)の規定による申告書に係る消費税上記の場合において、差し押さえるべき財産に不足があると認められるときは、税務署長は、差押えに代えて交付要求をすることができる。この場合においては、その交付要求であることを明らかにしなければならない。(国税通則法38条1、3、4項、国税徴収法159条9項) 。

課題

徴収法159条9項は、第1項の場合において、差し押さえるべき財産に不足があると認められるときに、差押えに代えて交付要求をすることができることを規定したものであるが、同項の規定は、債権の場合の二重差押えが想定されていないと思われるため、条文の文言どおりに考えた場合、実務上不都合が生じる場合がある。
例えば、滞納者の唯一の財産が不動産である場合において、先行の差押えがされているときは、税務署長は、その不動産につき交付要求(参加差押え)をするほかなく(当該不動産の売却代金の残余金を差し押さえることができる場合はあり得るが、このような差押えを行わなくてもよいよう同項の規定が設けられている(国税徴収法精解))、同条の適用上混乱は生じない。
他方で、滞納者の唯一の財産が債権である場合において、先行の差押えがされているときは、税務署長としては、実務上、当該債権の二重差押えを行い、併せて交付要求を行うべきであるが、単純に本項の規定を当てはめた場合、「差押えに代えて」との文言から、差押え又は交付要求のいずれか一方しか行うことができないのではないかとの疑義が生じ得る。
このような考え方をとった場合、仮に差押えのみを行ったときは、先行の差押えの取立てにより後行の差押えは効力を失うこととなり、また、仮に交付要求のみを行った場合で、その後破産手続開始決定がされたときは、残余金は破産管財人に交付されることになり、いずれの場合においても徴収上支障が生じる事態があり得る。

改正意見

国税徴収法第159条第9項を改正し、繰上保全差押えに係る交付要求の制限を撤廃し、破産手続開始決定時においても、確実な国税債権の確保を図る。

長期間にわたり債権者への配当がされない事態へ対応する仕組みの創設

現行制度

税務署長は、配当異議等により換価代金等を交付することができない場合には、その換価代金等を供託しなければならないこととされている(国税徴収法133条、同法施行令50条1項) 。
また、確定判決、異議に関係を有する者の全員の同意その他の理由により換価代金等の交付を受けるべき者及び金額が明らかになったときは、これに従って追加配当しなければならないこととされている(国税徴収法施行令50条2項) 。

課題

この規定は民事執行法におけるいわゆる配当留保供託と同趣旨の規定と解されているところ、民事執行法においては、債権者が必要な手続を行わないためにその追加配当等を実施することが出来ない事態に対応するため、一定の場合には、必要な手続を行わない債権者を除外して配当手続を進めることを可能とする改正について、第211回国会(本通常国会)に提出される予定( 「情報通信技術の活用等による民事関係手続等の改善のための民事執行法等の一部を改正する法律案」) 。国税徴収法においても同様の事態に対応する必要がある。

改正意見

国税徴収法においても、民事執行法の改正と同様に、債権者が必要な手続を行わないためにその追加配当等を実施することが出来ない事態に対応するため、一定の場合には、必要な手続を行わない債権者を除外して配当手続を進めることを可能とする。

外国子会社合算税制( 適用対象金額の計算における法人所得税額の取扱い) の適正化

現行制度

外国子会社合算税制の適用対象金額は基準所得金額に一定の調整を加えて計算することとされており(措法66の6②四)、外国関係会社の納付法人所得税額は基準所得金額から控除することとされている(措令39の15⑤二) 。

???

課題

???

改正意見

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参考資料(ダウンロード可)

国税庁「令和6年度税制改正意見」.pdf