本記事の紹介

本記事では、国税庁が財務省主税局に対して提出した「令和6年度税制改正意見」の内容を整理し、主要な改正意見について紹介します。

国税庁では、納税者の利便性の向上や適正・公平な課税・徴収を実現する観点から、制度上の対応(税制改正)が必要と考えられる事項について意見を申入れています。これらの意見は、主税局との事務的な調整を経た後、与党税制調査会で審議され、毎年度の税制改正大綱に反映されます。


令和7年度の税制改正意見では、

一定の資本関係がある法人間で行われる取引に係る課税の適正
✅解散の場合の期限切れ欠損金の損金算入制度の見直
✅外国子会社合算税制(租税負担割合の計算方法)の適正化
✅国外所在情報の収集
✅暗号資産等の差押手続の整備
✅事業者のデジタル化促進のための所要の措置
✅報告金融機関等による国際基準に沿った本人確認(CRS関係)
✅居住者・非居住者の判定の見直
✅措置法40条の非課税承認の取消しの申請制度の創設
✅収益事業に係る課税の適正
✅減価償却資産の範囲及び償却方法の見直し
✅独立企業間価格の算定手法である取引単位営業利益法の拡充(営業資産営業利益率(ROA)の追加)


など、多岐にわたる改正が提案されています。

資料もダウンロード可能です。

(参考1) スケジュール
主に8月下旬主税局に対する当庁意見の提出
9~10月主税局との事務的な調整
11月上旬~ 与党税制調査会(当庁意見を踏まえた改正事項は「納税環境整備」の分野で議論)
12月上中旬与党税制改正大綱
12月中下旬政府税制改正大綱(閣議決定)

(参考2) 当庁意見を踏まえた改正事項
・各種申請等の簡素化等
納税地の異動、変更に関する届出書について、その提出を不要とした。また、修正申告書等の記載事項から、その申告前に係る更正前の計算の基礎となる税額等を除外するほか、所要の整備を行った。
・記帳水準の向上等に資する施策の導入
事業所得等の収入金額が300万円を超えるものが、隠蔽仮装行為に基づき確定申告書等を提出していた場合、総収入金額を得るために直接に要した費用等の額は、一部を除き、所得の金額の計算上、必要経費の額に算入しないこととした。
・給与所得の源泉徴収票の提出方法の見直し
・個人事業者等の各種届出書の簡素化
・ダイレクト納付の利便性向上

以下、主たる改正意見の抜粋です。

一定の資本関係がある法人間で行われる取引に係る課税の適正化

現行制度

法人税法上、一定の資本関係がある法人間で取引を行った場合には、通常とは別の要件による課税や、一定の課税の減免等の特例を受けることが可能となっている。例えば、剰余金の配当は、受取配当の元本となる株式等の保有形態により、益金が一部(完全子会社株式であれば、全部)不算入となる(法法23) 。また、適格組織再編成税制の適用にあをたって、その要件の一部が緩和されている(法法2) 。
記載する。1 また、我が国が締結した租税条約の多くは親子間配当の課税を減免しているが、このうち、損金に算入された配当について減免しないこととしているのは一部の条約(日英租税条約10⑤等)に限られている。

課題

法人税法上、一定の要件を満たす場合には、その支払う配当について損金算入が認める制度が設けられている。なお、これまでも累次にわたり、課税要件の適正化が行われてきているが、そうした制度の間隙を縫って悪用している事例も認められる。

・法人税法上、適格組織再編成税制の適用を受けた場合には、資産負債が簿価で移転等するとともに、支配関係が一定期間ある場合には、繰越欠損金を引き継ぐことができる。一定の資本関係がある場合には、適格組織再編成税制の適用要件が緩和されるところ、組織再編成を行う経済合理的な理由がないにも関わらず、組織再編成税制を適用し、繰越欠損金を引き継いでいる事例が把握されている。

上記のほか、一定の資本関係がある法人間で行われる取引について課税上の問題がある事例が散見されている。

改正意見

一定の資本関係がある法人間で行われる取引に係る課税に関して、近年、税務調査等において把握した事例を踏まえ、租税条約の改正を含め、租税回避等が疑われる事例についての対応策を講ずる。

解散の場合の期限切れ欠損金の損金算入制度の見直し

現行制度

内国法人が解散した場合において、残余財産がないと見込まれるときは、清算中に終了する事業年度(適用年度)前の各事業年度において生じた期限切れ欠損金額を損金算入できることとされており、適用年度終了の時における資本金等の額が零以下である場合には、そのマイナスの資本金等の額を欠損金額と同様に損金算入できることとされている(法法59④、法令117の5) 。

課題

???

改正意見

???

外国子会社合算税制(租税負担割合の計算方法)の適正化

現行制度

外国子会社合算税制では、特定外国関係会社の各事業年度の租税負担割合が30%以上(対象外国関係会社及び部分対象外国関係会社については20%以上)の場合には、本税制を適用しないこととされている(措法66の6⑤、⑩一)。
※令和5年度税制改正施行後の特定外国関係会社に係る租税負担割合は27%以上
この租税負担割合の計算における分子である「外国法人税の額」については、外国関係会社の本店所在地国の外国法人税の税率が所得の額に応じて高くなる場合には、複数税率のうち最も高い税率で算定した外国法人税の額とすることができる特例(以下「複数税率特例」という。)が設けられている(措令39の17の2②四)。

課題

実質的に税負担の著しく低い国に所在する外国関係会社が外国子会社合算税制の対象とならない事例が生じている。
(事例)

???

改正意見

このような事例について外国子会社合算税制の適用対象外とならないよう措置する必要があることから、租税負担割合の計算方法における複数税率特例を廃止する。

国外所在情報の収集について

現行制度

質問検査権に係る規定等(国税通則法74条の2等)

課題

税務調査において、関連資料が国外に所在する情報等(以下「国外所在情報」)については、執行管轄権の制約により反面調査を行うことができず、課税関係の判断に必要な事実関係の収集に苦慮するケースが存在。

なお、諸外国では、例えば、サモンズ(米国)、情報入手に係る協力義務(ドイツ)、情報提出要請及び証拠排除措置(オーストラリア)など、国外所在情報を収集するための規定を有する国も存在する。

改正意見

要件、手続等を具体化した上で、居住者・内国法人に対して国外所在情報の提出を求めるための規定及びその実効性担保措置を設ける。併せて、現行制度で対応困難な検査忌避行為等に対応するための見直し等を行う。

暗号資産等の差押手続の整備

現行制度

① 暗号資産等のブロックチェーン技術に表章される財産については、国税徴収法上、「第三債務者等のない無体財産権」に該当する(徴法72①)。


② 「第三債務者等のない無体財産権」の差押えの効力は滞納者に差押書が送達された時に生じ、その権利の移転につき登記を要するものを差し押さえた時は、関係機関に登記現行制度を嘱託しなければならない(徴法72②③)。

③ 差し押さえた「第三債務者等のない無体財産権」については、公売等により換価しなければならない(徴法89①、94)

課題

暗号資産等の差押えについては、その保全(処分禁止)に当たって、ブロックチェーン上の名義の書き換えを防止する措置が必要であるが、現在、具体的な方法及びその法的根拠について必ずしも明確となっていない。

改正意見

ブロックチェーン技術に表章される財産権等に係る没収保全手続等と同様に、
① 当該財産権等について国税当局に移転を求める権限について明文化し、
② その財産権等の移転について、公売等による換価までの国税当局における受入れ体制を整備し、
③ 上記①の移転の求めに応じない場合は、現行の国税徴収法に規定する罰則の対象となる旨を明確化する。

事業者のデジタル化促進のための所要の措置

現行制度

事業者の業務とそのデジタル化に関連して、例えば電子帳簿保存法において「電子帳簿等保存」「スキャナ保存」「電子取引データ保存」が規定されている(電子帳簿保存法4、5、7)。
青色申告特別控除では、55万円の青色申告特別控除の要件に該当した上で、電子申告を行うか一定の電子帳簿の要件を満たした帳簿を保存した場合には65万円の控除が受けられることになっている(租税特別措置法25条の2④二)。
・大法人の行う法人税、消費税の申告は電子申告により行うこととされている(法人税法75条の4等)。

課題

「デジタル社会の実現に向けた重点計画」(令和5年6月9日閣議決定)において、「IT導入補助金を通じて、電子インボイスヘの対応を含む取引全体のデジタル化、会計・経理全体のデジタル化、会計・経理全体のデジタル化等を強力に推進し、クラウドサービス利用やハードの調達を支援するとともに、複数社で連携した取組や、人手不足への対応も含む労働生産性の向上を目的とする業務効率化やDXに向けて行うITツー
ルの導入を支援する」とされており、事業者の取引全体のデジタル化や会計・デジタル化を強力に推進することは政府全体として取り組む重要な課題の一つとされている。こうしたことから、国税庁としては、電子申告の推進等を含む税務手続のデジタル化のみならず、事業者の取引のデジタル化の促進にも取組むことしている。令和5年6月に公表した「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション一税務行政の将来像20 23」では、電子申告の推進はもとより、「社会全体のDX推進」にも貢献する観点から「事業者のデジタル化促進」を主要な取組として位置付け、デジタル関係施策の周知・広報や他省庁と連携・協力したデジタルインボイスの普及、事業者のデジタル化を支援する施策の広報等を行っている。

他方で、電子申告の更なる推進やデジタルインボイスの普及を始めとした事業者の取引のデジタル化については、様々な課題があるため、予算・税制を含む様々な政策ツールによりその推進を図る必要がある。

改正意見

上記の課題に沿って、電子申告の更なる推進や事業者のデジタル化促進に必要となる税制上の措置を設ける。

経済のデジタル化を踏まえた報酬・料金調書の対象拡充

現行制度

居住者又は内国法人に対し、国内において、所得税法第204条第1項各号(報酬、料金等に係る源泉徴収義務)に掲げる報酬、料金等の支払をする者は、その支払の確定した日の属する年の翌年1月31日までに、当該支払に関する調書を税務署長に提出しなければならないこととされている(所法225③)。

課題

近年、経済社会のデジタル化により、プラットフォーム事業者を活用した副業やフリーランス、アフィリエイトなどの働き方・収入形態の多様化が進展しているほか、ICT関係業種のニーズが一層高まっているなどの環境変化が生じている。

国際的に見れば、OECD においては、デジタルプラットフォーマーの情報申告に係るモデルルールが採択され、EUのDAC7などの各国法制が整えられ、非居住者情報の交換などの対応が進んでいるところ。
ICT技術の発展により、マイナポータル連携などを用いて、調書情報を本人に還元し、申告利便の向上等に役立てる環境が整いつつある。

改正意見

経済社会の変化や国際的な動向も踏まえ、調書制度の対象を拡大する等の調書制度のアップデートを行うとともに、マイナポータルを活用した情報連携など、納税者の申告利便及び申告水準の向上に活用できるよう、必要となる税制上の措置を行う。

国税通則法上の犯則調査手続のデジタル化

現行制度

現行の刑事訴訟法における捜査・公判手続は、書面を前提とした規定ぶりとなっているところ、国税通則法に規定する犯則調査手続(令状請求・質問調書等の作成・検察官への告発事務等)についても、刑事訴訟法に規定する捜査手続同様に、(署名押印など、書面を前提とした規定を含め)書面で行うことが義務付けられている。
【例】国税通則法第11章「犯則事件の調査及び処分」
(調書の作成)
152条1項当該職員は、この節の規定により質問をしたときは、その調書を作成し、(中略)その陳述を調書に記載し、質問を受けた者とともにこれに署名押印しなければならない。ただし、質問を受けた者が署名押印せず、又は署名押印することができないときは、その旨を付記すれば足りる。
(検察官への引継ぎ)
159条2項第155条(間接国税以外の国税に関する犯則事件等についての告発)の規定による告発又は前項の告発は、書面をもつて行い、第152条各項(調書の作成)に規定する調書を添付し、領置物件、差押物件又は記録命令付差押物件があるときは、これを領置目録、差押目録又は記録命令付差押目録とともに検察
官に引き継がなければならない。

課題

国税通則法に基づく租税犯の犯則調査は、刑事訴訟法上の捜査手続に類似する手続であり、国税、国税当局が犯則事件を告発した後は、刑事訴訟法の規定に基づいて検事捜査・公判が行われている。
この点、刑事訴訟法上の捜査・公判手続については、令和5年6月閣議決定「デジタル重点化計画」等に基づき、必要な刑事訴訟法の改正を行った上で、令和8年度中に捜査・公判のデジタル化を目指すこととされている。
国税当局及び検察当局による租税犯の調査・捜査・公判手続を円滑に進めていくためには、令和8年度中に実現する捜査・公判手続のデジタル化に合わせて、国税当局における犯則調査手続のデジタル化を実現する必要がある。国税通則法上の手続規定には、書面を前提としたものが多数存在するところ、令和7年度税制改正において当該部分を改正し、国税当局のシステム開発、事務運営の見直し等を行う期間を確保した上で、改正刑事訴訟法の施行後、速やかに改正国税通則法を施行する必要がある。
また、「税務行政のDX」を推進する国税当局として、刑事手続のデジタル化は、犯則調査に残存している紙媒体特有の手続(膨大な書証の出力や割印等)の効率化を進める機会でもあり、業務効率化の観点からも推進が必要。

改正意見

刑事訴訟法の改正に合わせて、国税通則法に規定する各種調書の作成、告発関係書類の検察官への引継ぎ等の書面を前提とした犯則調査手続について、以下のようにデジタル化を可能とする改正を行う。
・当該職員が作成する調書・告発書等のデータ化
・裁判所・検察庁へ送付する書類等のシステム連携による発受
・???

報告金融機関等による国際基準に沿った本人確認(CRS関係)

現行制度

租税条約実施特例法(以下、「実特法」という。) 10条の5第1項では、報告金融機関等に、実特規16条の2第1項各号規定の報告事項の確認を求めている一方、実特規16現行制度条の2第3項では、報告金融機関等に、「その者から提出又は提示を受けた他の書類の内容と合致していることを確認」と範囲を限定している。

課題

国際基準であるCRS (共通報告基準)では、報告金融機関等に、自己宣誓書の記載内容の確認(証拠書類等との照合など合理性の検証含む)を義務付けているが、実特法上の金融機関による届出書記載事項の確認(実特法10条の5第1項)は、実特規16条の2第3項に基づき「その者から提出又は提示を受けた他の書類の内容と合致していることを確認」となっており、実務上、犯罪収益移転防止法4条(及び規則7条)の本人確認資料の範囲内での確認に留まる建付けとなっている。
このため、特に、非居住者の居住地国の住所や、住所上の居住地国と税務上の居住地国が異なる場合の理由、納税者番号、特定法人(実特法10の5条8項4号)該当性(実特令6の9条第1項10号の判定)など犯罪収益移転防止法及び同規則に規定のない記載事項については、金融機関は顧客に確認を求めるための法令上の根拠がないため、金融機関は実特法10条の5第1項に規定のある確認義務を果たせない状況にある。

改正意見

実特規16条の2第3項に規定されている本人確認書類の範囲を、「その者から提出又は提示を受けた他の書類」から、「届出書記載事項の確認に必要な書類」に改正するなど、金融機関が国際基準に沿った本人確認義務を果たすための法令上の根拠を整備する。

居住者・非居住者の判定の見直し

現行制度

「居住者」とは、国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて一年以上居所を有する個人をいうこととされ、「非居住者」とは、「居住者」以外の個人をいうことされている(所法2 ①三・四)。
上記の国内に住所を有するか否かについては、
(1) その者が国内において、継続して一年以上居住することを通常必要とする職業を有すること
(2) その者が日本国籍を有し、かつ、その者が国内において生計を一にする配偶者その他の親族を有することその他国内におけるその者の職業及び資産の有無等の状況に照らし、その者が国内において継続して一年以上居住するものと推測するに足りる事実があること

に該当する場合には、その者は、国内に住所を有する者と推定することとされている(所法3②、所令14、15)

課題

近年、日本人・外国人を問わず、国内外に住居、職業及び資産等を保有する者が増加する中、納税者、源泉徴収義務者及び国税当局において「住所」又は「居所」を有するかどうかの判断が困難な状況にある。
このため、居住形態の判定にあたり、滞在日数という明確な基準を設け、納税者及び源泉徴収義務者の予測可能性を高めるとともに、法的安定性を確保する必要がある。

改正意見

居住者・非居住者の判定において、諸外国でも日数基準により判定している例があることに倣い、日本に居所を有する期間が183 日以上である場合には、居住者とする規定を設ける。

I措置法40条の非課税承認の取消しの申請制度の創設

現行制度

租税特別措置法第40条第1項後段の規定による国税庁長官の承認(以下「非課税承認」という。)については、非課税承認後に、寄附を受けた公益法人等(以下「受贈法人」という。)が非課税承認に係る財産(以下「寄附財産」という。)をその公益目的事業の用に直接供しなくなった場合など一定の事実(以下「取消事由」という。)が生じた場合に、国税庁長官が取り消すことができることとされている。
なお、非課税承認の取消しがあった場合には、取消事由の態様に応じて、寄附者又は受贈法人に対して取戻し課税がされることになる。
【根拠条文】租税特別措置法第40条第2項、第3項
租税特別措置法施行令第25条の17第10項~第13項、第15項~第18項

課題

非課税承認を継続するためには、受贈法人が、寄附財産を継続してその公益目的事業の用に直接供する必要があるものの、時の経過や事業環境の変化により、寄附財産を処分せざるを得ない場合がある。
青色申告のとりやめ(所法151) をはじめとした税制優遇措置には、自己の都合によりその取りやめを求める手続規定が設けられているところであるが、措置法第40条の非課税承認制度については、このような手続規定が設けられていない。
そのため、寄附財産を処分した受贈法人から自発的に税務署等に相談があった場合であっても、取消事由の1つである「寄附財産をその公益目的事業の用に直接供しなくなったこと」に該当するものとして、国税庁長官が取消処分を行う必要がある。
当該取消処分に当たっては、他の課税処分と同様、取消事由に該当しているかの事実認定及び証拠保全等を行う必要があるため、受贈法人等に対する現況確認調査等を実施することになるが、既に取消しと税額の納付の意向を示している受贈法人等であっても当該現況確認調査等に対し受忍義務を負うことになる。したがって、手続きの合理化を図り、受贈法人等の負担を軽減する必要がある。
※ 青色申告のとりやめ以外の自己の都合によって税制優遇の取りやめを求める手続規定の例として、特定の医療法人の法人税率の特例(措法67の2、措令39の25⑥)、農地等を贈与した場合の贈与税の納税猶予及び免除(措法70の4①四)など。

改正意見

寄附者及び受贈法人が、非課税承認後に自己の都合によって非課税承認の取消しを求めることができる規定を措置する。具体的には、取消事由に「非課税承認の取消しの申請があったとき」を追加する。
この改正が実現した場合には、非課税承認の取消しの申請したことをもって取消処分を行うことが可能となるため、証拠保全等を行うための現況確認調査等が不要となる。
※ 公益認定法における公益法人が自ら公益認定の取消しを求める場合の規定(公益認定法29①四)を参考とした。
【改正対象条文】租税特別措置法施行令第25条の17第10項、第13項

収益事業に係る課税の適正化

現行制度

公益法人等については、その行う事業の公益性から、収益事業(法人税法施行令で定める34事業)から生じた所得のみが課税の対象とされ、それ以外の所得は課税の対象から除外されている(法法4、2十三、法令5) 。

課題

公益法人等に対する課税は、公益法人等が法人税法施行令に限定列挙された収益事業を行った場合になされる。収益事業課税の趣旨は、営利法人と公益法人等との間のイコールフッティングであり、その趣旨からすれば、営利法人が適正な対価を取って行うような事業は、全て課税対象とするのが本来の姿であると考えられる。しかしながら、現行制度の下では、営利法人等が行う事業を公益法人等が非課税で行っており(注1) 、同一事業を行う営利法人と公益法人等との間における不公平のほか、収益事業を行う公益法人等と
同種の事業で収益事業でないものを行う公益法人等との間にも不公平が生じている。
また、昨今、公益法人等が様々なサービスを組み合わせた事業を行っているケースが多く、実務において34事業のいずれの範疇で判断すべき事業であるかの判定が困難になっている(注2) 。
(注1) 例えば、公益法人等がスポーツ教室や語学教室、パソコンなどの技能教室を行うことで所得を得ていたとしても、技芸教授業(法令5①三十)に該当せず、課税の対象にならない。
(注2) 例えば、認可保育園は収益事業に該当せず、単なる託児やシッターサービスは請負業であると整理しているところ、乳幼児や児童向けの英語教室、リトミック、自然学校といったものは、本来、技芸教授業に該当するかどうかで検討するものであるが、近年、保育サービスの形態が多様化しているため、請負業か技芸教授業かいずれの範疇で検討すべきかを判断することが困難になっている。

改正意見

近年問題となっている事例を踏まえ、公益法人等に係る課税を適正化する。

減価償却資産の範囲及び償却方法の見直し

現行制度

法人税法上、減価償却資産とは、棚卸資産、有価証券及び繰延資産以外の資産のうち法人税法施行令第13条に掲げるもの(事業の用に供していないもの及び時の経過によりその価値の減少しないものを除く。)とされており(法令13) 、減価償却資産の耐用年数現行制度等に関する省令においてその細目が規定されている(耐令別表一~六)。
また、法人が中古資産を取得した場合、その中古資産に対する資本的支出が取得価額50%を超えない限り、耐用年数を簡便な方法により算出することが認められている(耐令3①二)。

課題

固定資産の市場価値(時価)はその時において第三者間で取引される場合に通常付される価額をいうところ、市場価値は時の経過により減少するとは限らず、中には投機の対象となるようなものも存在する。???

租税特別措置の中には、特定の資産の取得に対して税額控除や特別償却等の措置を認めるものが多く存在する。適用対象となる資産の判定、とりわけ複数の用途及び機能がある資産の判定については、実務上疑義が生じることが多く、課税の現場においては、その使用実態等を踏まえ個別に判断しているのが実情であるが、基準がないため線引きが難しく、争訟に発展することが少なくない。

改正意見

減価償却資産の償却方法について適正な償却費が算出されるよう見直す。また、租税特別措置の対象となる減価償却資産の範囲について、課税の現場で問題となっている事例を踏まえて対応策を講ずる。

非適格合併等により移転を受ける資産等の調整勘定の損金算入等の明確化について

現行制度

法法62の8①は、要旨、内国法人が非適格合併等により当該非適格合併等に係る被合併法人等から資産又は負債の移転を受けた場合において、当該内国法人が当該非適格合併等により交付した金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額(非適格合併等対価額)現行制度が当該移転を受けた資産及び負債の時価純資産価額(当該資産(営業権にあっては、独立取引営業権に限る)の取得価額の合計額から当該負債の額の合計額を控除した金額をいう。)を超えるときは、その超える部分の金額(当該資産の取得価額の合計額が当該負債
の額の合計額に満たない場合には、その満たない部分の金額を加算した金額)は、資産調整勘定の金額とする、とされている。

課題

平成30年度税制改正で無対価の非適格合併等の資産調整勘定の計算につき明確化がなされた(法令123の10⑯ー・ニの規定の創設)が、例えば、株主構成が等しくない法人間の非適格合併で、一定の資産評定により負債超過の被合併法人に営業権(企業会計上ののれんに該当し、独立取引営業権に該当しない。)が算定され、当該営業権を含めた移転資産と移転負債が等価のため無対価で行われた場合には、(法令123の10⑯ー・ニのいずれにも該当しないことから)法法62・の8①により資産調整勘定について検討すること
となる。
法法62の8①の適用要件を“非適格合併等対価額が移転資産負債の時価純資産価額を課題I超えるとき” (上欄の下線部分)と解すると、時価純資産価額の計算方法が“控除”方式改正意見
であって負の金額を認識できないため、上記の非適格合併の場面では、当該適用要件を満たさず(非適格合併等対価額= 0円、時価純資産価額= 0円で「超えるとき」に該当しない。)、資産調整勘定を計上できないとも考えられる。
法法62の8①の基本的な考え方(企業会計上ののれんとの調和)や、無対価の非適格合併等の差額負債調整勘定と資産調整勘定の計算(法法62の8①③)は整合的であるべきと考えられることを踏まえると、上記の非滴格合併の場面では、資産調整勘定の金額が生ずることが整合的であると考えられるが、文理上、そのように解することができない。

改正意見

法法62の8①の時価純資産価額の計算方法が“控除”方式であって負の金額を認識できないことが問題の根幹であると考えられるため、計算方法を‘‘減算”方式に改め、負の金額を認識できるようにすることも一案であると考えられる。
※ 「時価純資産価額」の用例として、法令113①ー・⑧ー及び法令123の9①ー・④ーがあり、そのいずれも‘’減算”方式で計算方法が定められている。

減価償却資産の償却方法について適正な償却費が算出されるよう見直す。また、租税特別措置の対象となる減価償却資産の範囲について、課税の現場で問題となっている事例を踏まえて対応策を講ずる。

差押財産に係る任意売却手続の整備

現行制度

①差し押さえた財産(金銭、債権等を除く。)については、原則、公売により換価しなければならない(徴法89①、94)
② ただし、その差押財産について、公売に付することが公益上適当でないと認められるときや、取引相場があるとき等は随意契約による売却が認められている(徴法109①)。
③ また、いわゆる「任意売却」については、極限定したケースのみ、運用上対応している。

課題

法令上、差し押さえた財産については、原則、公売により換価することとされていることから、運用上、ごく限定したケースのみ任意売却を行っているが、高価売却を一定程度保障するために公売制度を採用しているにもかかわらず、同一財産で、任意売却提示額より、公売における売却決定金額が下回る事例が散見されている。
また、破産手続や民事執行手続においては、任意売却が法令上も許容されているにもかかわらず、国税徴収手続においては、任意売却について法令上規定がない。

改正意見

現行においても、ごく限定したケースにおいて、差押解除の規定の枠組み(徴法79②二、徴基通79条関係9) を使用して任意売却を行ってきているところ、現在、公売制度が担保している公正性と高価売却の条件が整った場合について、任意売却を認めることを法令上規定する。

独立企業間価格の算定手法である取引単位営業利益法の拡充(営業資産営業利益率(ROA) の追加)

現行制度

① 移転価格税制の適用において、独立企業間価格は、措法66の4②各号に定める方法のうち、国外関連取引の内容及び国外関連取引の当事者が果たす機能その他の事情を勘案して、当該国外関連取引が独立の事業者の間で通常の取引の条件に従って行われるとした場合に当該国外関連取引につき支払われるべき対価の額を算定するための最も適切な方法により算定した金額であるとされている。(措法66の4②)

② 独立企業間価格の算定手法である取引単位営業利益法では、「売上高営業利益率」、根拠条文を記載する。「総費用営業利益率」及び「営業費用売上総利益率」を用いる方法がそれぞれ定められている。(措令39の12⑧二~五及び七)

課題

① 移転価格の執行に関する国際的なコンセンサスであるOECD移転価格ガイドライン(以下「TPガイドライン」)では、平成22年(2010年) 7月改正において、取引単位営業利益法の利益水準指標として「営業資産に対する営業利益の比率」(ROA) が明記され、製造活動や資産集約的な活動の場合(すなわち、資本の投下による営業資産と営業利益の間に相関関係がある場合)適切な指標となり得るとされた。(TPガイドライン(2022年版)パラグラフ2.103)

???ひいては納税者の予測可能性を担保する観点からも、法令上利益水準指標としてROAを明確化する必要がある。
② ROAの導入については、平成25年度税制改正時の「営業饗用売上総利益率」導入時においても検討されたものの、当時OECDにおいて無形資産(TPガイドライン第6章)に関する議論が行われている最中であり、ROAの分母となる資産、すなわち、無形資産の定義、範囲及びその評価方法等についてTPガイドラインが改定されてから改めてROAの導入検討を行うこととされていた。
その後、2017年にTPガイドラインに無形資産の定義等が明記されており、また、ROAを利益水準指標として認めている国もあることから、我が国においても取引単位営業利益法における利益水準指標にROAを追加することにより選択肢を拡充し、複雑化・多様化する国外関連取引について国際標準に即した対応を行う必要がある。

改正意見

平成16年度税制改正で導入された取引単位営業利益法の利益水準指標として、現行の「売上高営業利益率」(措令39の12⑧二)、「総費用営業利益率」(措令39の12⑧三)及び「営業費用売上総利益率」(措令39の12⑧四、五)に「営業資産に対する営業利益率」(ROA) を追加する。

外国子会社合算税制(適用対象金額の計算における法人所得税額の取扱い)の適正化

現行制度

外国子会社合算税制の適用対象金額は基準所得金額に一定の調整を加えて計算することとされており(措法66の6②四)、外国関係会社の納付法人所得税額は基準所得金額から控除することとされている(措令39の15⑤二)。

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課題

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改正意見

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外国子会社合算税制(適用対象金額の計算における法人所得税額の取扱い)の適正化

現行制度

外国子会社合算税制の適用対象金額は基準所得金額に一定の調整を加えて計算することとされており(措法66の6②四)、外国関係会社の納付法人所得税額は基準所得金額から控除することとされている(措令39の15⑤二)。

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課題

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改正意見

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参考資料(ダウンロード可)

国税庁「令和7年度税制改正意見」.pdf