消費税法上の「事業」概念の問題と関連しますが、金地金が、免税事業者になる直前に棚卸資産を有していた場合に当該課税期間の課税仕入れ等の税額に含まれないこととしている消費税法36条5項の「棚卸資産」に該当するか否かが争われた裁決(国税不服審判所裁決令和6年4月25日)を紹介します(同項については、東京高判令和6年4月11日も参照)。今後の訴訟の行方も気になります。

本件では、金地金が棚卸資産に該当するか否かが争点となりました。審判所は、取引の目的、取得時の状況、資金調達の実態を総合的に判断し、金地金の取得が売却を目的としたものであると認定し、原処分を維持しました。

消費税法36条5項(納税義務の免除を受けないこととなつた場合等の棚卸資産に係る消費税額の調整)

事業者が、第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除されることとなつた場合において、同項の規定の適用を受けることとなつた課税期間の初日の前日において当該前日の属する課税期間中に国内において譲り受けた課税仕入れに係る棚卸資産又は当該課税期間における保税地域からの引取りに係る課税貨物で棚卸資産に該当するものを有しているときは、当該課税仕入れに係る棚卸資産又は当該課税貨物に係る消費税額は、第三十条第一項(同条第二項の規定の適用がある場合には、同項の規定を含む。)の規定の適用については、当該課税期間の仕入れに係る消費税額の計算の基礎となる課税仕入れ等の税額に含まれないものとする。

1. 事案の概要

  • 本件は、請求人が免税事業者となる課税期間の前日に取得した金地金について、取得時の消費税額を控除対象仕入税額に含めるべきと主張した事案です。
  • 原処分庁は、この金地金を消費税法上の「棚卸資産」と認定し、仕入税額控除を否定する更正処分を行ったため、請求人が異議を申し立てました。

2. 争点

  • 本件金地金が消費税法第36条第5項に規定する「棚卸資産」に該当するか否か。

3. 原処分庁の主張

  • 消費税法上の「棚卸資産」とは、売却目的で取得された資産を指します。
  • 本件金地金は、短期間で売却され、取得目的が売却にあることが明らかであり、棚卸資産に該当します。

4. 請求人の主張

  • 金地金の取得・売却は不動産管理・賃貸業とは無関係であり、営業目的には該当しません。
  • 請求人は金地金の売買を反復継続しておらず、単発的な取引であるため棚卸資産には該当しません。

5. 審判所の判断

(1) 棚卸資産の解釈
  • 消費税法上の棚卸資産は、事業者が営業目的で所有し、売却を予定する資産を指します。
  • 形式的な会計処理だけでなく、資産の取得目的や使用方針、事業者の実態などを総合的に判断します。
(2) 本件金地金の該当性
  • 本件金地金の取得は売却を目的としており、取得から売却までの期間が短期間であることからも明確です。
  • 金地金の取得資金の大部分を借入金で調達し、売却代金を借入金の返済に充てている事実も、売却目的を裏付けます。
  • 金地金の取引規模が事業全体に与える影響が大きく、補助的な活動ではなく事業の一環と認定されます。
(3) 請求人の主張の否定
  • 反復継続性の欠如をもって棚卸資産の該当性を否定する理由は乏しいと判断されます。
  • 本件金地金は請求人の営業目的に沿った資産であり、消費税法上の棚卸資産に該当します。

6. 結論

  • 本件金地金は棚卸資産に該当し、その取得に係る消費税額は仕入税額控除の対象外です。
  • 原処分庁の更正処分及び賦課決定処分は適法であり、請求人の審査請求は棄却されました。

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が消費税の課税事業者から免税事業者となる課税期間の初日の前日に取得した金地金の取得価額に係る消費税額を当該前日の属する課税期間の控除対象仕入税額に含めて消費税等の確定申告をしたところ、原処分庁が当該金地金は消費税法上の棚卸資産に該当するから当該消費税額は控除対象仕入税額に含めることができないとして消費税等の更正処分等をしたため、請求人が、当該金地金は棚卸資産には該当しないとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等

関係法令等は、別紙のとおりである。
 なお、別紙で定義した略語については、以下、本文においても使用する。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
 なお、以下、事業年度については、その事業年度の終了年月をもって、例えば、平成30年3月1日から平成31年2月28日までの事業年度を指す場合、「平成31年2月期」と表記する。

  • イ 請求人等について
    • (イ) 請求人
       請求人は、平成29年7月○日に設立された、不動産管理・賃貸業、不動産に関するコンサルティング、有価証券等の取得・保有・売却、飲食業及びこれらと附帯関連する一切の事業を定款の目的に掲げる合同会社であり、代表社員は、設立以来、Fである。
       また、請求人は、令和4年5月〇日、本店所在地をd市e町○-○から肩書地に移転した。
    • (ロ) H社
       H社は、平成29年2月○日に設立された経理事務代行業及び飲食店の経営等を定款の目的に掲げる株式会社であり、代表取締役は、設立以来、Fである。
  • ロ 消費税課税事業者選択届出書及び消費税課税期間特例選択届出書の提出
     請求人は、平成30年11月8日、適用開始課税期間を同年12月1日から平成31年2月28日までの課税期間として、消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の課税事業者となることを選択する旨の消費税課税事業者選択届出書を提出するとともに、適用開始日を平成30年12月1日として、課税期間を3月ごとの期間に短縮することを選択する旨の消費税課税期間特例選択届出書を提出した。
  • ハ 消費税課税期間特例選択不適用届出書の提出
     請求人は、令和2年11月4日、課税期間特例選択不適用の開始日を同年12月1日として、課税期間の短縮の適用をやめたい旨の消費税課税期間特例選択不適用届出書を提出した。
  • ニ 消費税課税事業者選択不適用届出書の提出
     請求人は、令和4年2月28日、基準期間である令和3年2月期における課税売上高が〇〇〇〇円であったとして、課税事業者を選択することをやめたい旨の消費税課税事業者選択不適用届出書を提出した。その結果、請求人は,令和4年3月1日から令和5年2月28日までの課税期間については免税事業者となった。
  • ホ 令和4年2月期における金地金の取得
     請求人は、令和4年2月28日、J社から、金地金67kg(以下「本件金地金」という。)を523,638,500円(税込み)で取得した。
  • ヘ 令和5年2月期における金地金の売却
     請求人は、令和4年3月3日、J社に対し、本件金地金を524,744,000円(税込み)で売却した(以下、本件金地金の取得及び売却を「本件金地金取引」という。)。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、令和4年6月24日、令和3年3月1日から令和4年2月28日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税等について、本件金地金の取得価額523,638,500円(税込み)を課税仕入れに係る支払対価の額に含めて控除対象仕入税額を算出したところに基づき別表の「確定申告」欄のとおり記載した確定申告書を提出して、確定申告をした。
     なお、請求人は、令和4年6月24日、本件課税期間の消費税等の確定申告及び納付の期限につき同日まで延長を申請する旨の「災害による申告、納付等の期限延長申請書」を提出したところ、原処分庁は、この延長申請に対して、やむを得ない理由があったとして、国税通則法第11条《災害等による期限の延長》に基づき、当該期限を同日まで延長し、同日に提出された本件課税期間の消費税等の確定申告書を期限内申告書として受理した。
  • ロ 原処分庁は、これに対し、令和5年2月24日付で、原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)による調査の結果に基づき、本件金地金は消費税法上の棚卸資産に該当し、同法第36条第5項の規定により本件金地金の取得価額に係る消費税額は本件課税期間の控除対象仕入税額に含めることができないとして、別表の「更正処分等」欄のとおり、本件課税期間の消費税等の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
  • ハ 請求人は、令和5年5月18日、本件更正処分及び本件賦課決定処分を不服として審査請求をした。

2 争点

 本件金地金は、消費税法第36条第5項に規定する「棚卸資産」に該当するか否か。

3 争点についての主張

原処分庁請求人
本件金地金は、次の理由から、消費税法第36条第5項に規定する「棚卸資産」に該当する。本件金地金は、次の理由から、消費税法第36条第5項に規定する「棚卸資産」に該当しない。
(1) 消費税法上の棚卸資産の意義等について(1) 消費税法上の棚卸資産の意義等について
イ 消費税法上の棚卸資産については、同法第2条第1項第15号及びその委任を受けた消費税法施行令第4条に規定があるところ、同条第1号ないし第6号の「商品」及び「製品」等の文言は、企業会計において用いられる用語であるものの、消費支出に担税力を認めて課税することを目的とした消費税法と企業の財政状態や経営成績の開示を目的とした企業会計とでは目的が異なるから、消費税法上のこれら文言を企業会計上の意義と同一に解釈すべき理由がないこと、及び、同条第7号は棚卸資産の範囲について「準ずるもの」という解釈の余地を残した規定ぶりをしていることからすると、これら規定の文理解釈のみから棚卸資産の意義を画一的に確定することはできない。イ 消費税法上の棚卸資産については、同法第2条第1項第15号及びその委任を受けた消費税法施行令第4条が、その範囲を、「棚卸をすべき資産」であって「商品」等に該当するもの及びそれらの資産に「準ずるもの」に限定している。ここに、「棚卸をすべき資産」とは、事業者が営業目的を達成するために所有する資産であり、売却する目的で取得したものをいい(棚卸資産会計基準第3項)、「商品」とは、商業を営む会社が販売の目的をもって所有する物品であって、当該企業の営業主目的に係るものをいう(財務諸表等規則ガイドライン15-5)。また、「準ずる」とは、その性質等が準じられるものと同様又は類似の性質を有することを意味する。
 そして、営業とは同種の行為の反復継続的遂行をいうから、売却する目的で取得する資産が「棚卸資産」に該当するというためには、事業者が当該資産の売買を反復継続的に行っていることを要する。
ロ そこで、消費税法上の棚卸資産の意義は、企業会計上の各規定を勘案しつつも、同法第30条第1項の規定する仕入税額控除の趣旨が税負担の累積排除にある点及び同法第36条第5項の趣旨が、仕入税額控除の上記趣旨を受け、課税事業者が免税事業者となり税負担の累積が生じない場合に、例外的に仕入税額控除を否定して棚卸資産に係る控除税額の調整を図る点にあることを踏まえて決するべきであり、具体的には、消費税法上の棚卸資産とは、事業者がその営業目的を達成するために所有する資産であり、売却する目的で取得したものをいうと解すべきである。
 これは、かかる資産については、取得時にその売却が予定されていることから、取得時に課税事業者であった事業者が譲渡時に免税事業者となっていた場合、税負担の累積の排除は要請されないからである。
 そして、ここに営業目的とは、収益を得るためといった広い概念と解すべきであり、事業者の営業目的を判断するに当たっては、単に定款上の事業目的のみから判断するのではなく、当該事業者が現にいかなる業態で事業を行っているのか、その実態に照らして判断すべきである。また、営業目的の判断に当たり、反復継続性は1つの考慮要素ではあるものの必要不可欠な要素ではないと考える。
ロ 特に、金地金のように市場価格の変動による利益を得ることを目的として取得する資産が、企業会計上、棚卸資産に該当するかどうかは、棚卸資産会計基準第16項が準用する金融商品会計基準における売買目的有価証券に関する取扱いによれば、経営者の意図だけでこれを判定すると恣意的になる可能性があることから、売却益を目的とする大量の取引を行っていると認められる客観的状況を備えているか、具体的には、1金地金の売買を業としていることが定款の上から明らかで、かつ、トレーディング業務を日常的に遂行し得る人材から構成された独立の専門部署によって金地金が保管・運用されているか、又は、2金地金の売買を頻繁に繰り返しているかにより判定するとされている(金融商品会計に関する実務指針第65項及び第268項)。
 ハ なお、消費税法上の棚卸資産の意義をその通常の用法から離れて広く解することは、企業会計上の棚卸資産という概念を用いて適用対象を限定した同法第36条第5項の文理に反するものであり、課税の明確性の確保という消費税法の重要な目的に照らし許されない。また、税負担の累積排除のためには、仕入税額控除は、仕入れた資産等とそれが生み出す収益との対応関係を考えることなく、資産等の仕入れを行った課税期間にそれに係る仕入税額の全額を控除する必要があるというのが消費税法の基本的な考え方であるから、税負担の累積排除や収益との対応という点は、棚卸資産の意義を通常の用法よりも広く解する根拠とはならない。
(2) 本件金地金の「棚卸資産」該当性について(2) 本件金地金の「棚卸資産」該当性について
イ 請求人は、本件金地金の購入代金を課税仕入れに計上することにより、消費税等の還付金を得ることを目的として本件金地金を取得している。そして、定款に事業目的として、消費税等の還付金を得ることという記載がなくとも、請求人は、本件金地金取引によって、定款上の事業目的である不動産事業による収入を主とする売上高よりも多額の利益を得ようとしたのであるから、本件金地金取引に係る消費税等の還付金の取得は、請求人の営業実態からすればその営業目的に沿ったものといえる。
 また、請求人は本件金地金を購入後2日という短期間で売却していること、H社からの借入金を返済する資金は、請求人の財務状況からすると本件金地金の売却代金以外に見当たらず、現に売却代金をもって返済していること、及び、本件金地金の購入時に、J社に金地金を郵送する際に使用するクッション付きの段ボール箱等(以下「買取りキット」という。)を受け取っていたことからすれば、請求人は本件金地金を売却することを予定して取得したものといえる。
 したがって、本件金地金は、請求人がその営業目的を達成するために所有する資産であり、売却する目的で取得したものと認められるから、消費税法上の「棚卸資産」に該当する。
イ 請求人は、定款上の事業目的に金地金の売買を掲げておらず、金地金の売買をする専属の担当者も置いていない。また、請求人が金地金売買を行ったのは、本件金地金取引を除けば、平成29年7月○日の設立以来、平成30年12月の売買のみである。これらの事実からすると、請求人が金地金の売買を反復継続して行うものでないことは明らかである。
 この点、原処分庁は、請求人が平成30年12月に金地金の売買を行っていたことを理由に、本件金地金の売買当時、請求人が金地金の売買を反復継続して行っていたといえる旨主張するが、投機性を有するため、通常は営業の概念になじみにくい金地金取引の性質及び企業会計におけるトレーディング目的で保有する棚卸資産の取扱いに照らせば、単に過去にも金地金を売買したことがあるというだけで、請求人が金地金の売買を反復継続して行っていたとは評価できない。
 このように、反復継続性がない以上、金地金の売買が請求人の営業に当たることはないから、本件金地金は、営業目的を達成するために所有する資産とはいえず、消費税法上の「棚卸資産」に該当しない。
ロ なお、棚卸資産に該当するためには、当該資産に係る取引の反復継続を要するとの請求人の主張を前提としても、請求人は平成30年12月1日から平成31年2月28日までの課税期間において金地金の売買を行っているから、本件金地金の売買当時、金地金の売買を反復継続して行っていたといえる。ロ なお、本件金地金の売買により得た収益は1,105,500円であり、そもそも、請求人にとって金地金の売買は重要な収益獲得の手段とはいえないし、資産の売却による直接の収入でない消費税等の還付金の額によって「棚卸資産」該当性が左右されることもない。

4 当審判所の判断

(1) 争点について

  • イ 法令解釈
    • (イ) 消費税法第36条第5項は、別紙の1の(4)のとおり、課税事業者が、免税事業者となる課税期間の初日の前日において、当該前日の属する課税期間中に国内において譲り受けた課税仕入れに係る棚卸資産を有しているときは、当該棚卸資産に係る消費税額は、当該前日の属する課税期間における仕入税額控除の対象とならない旨規定する。
       この趣旨は、消費税法第30条第1項の規定する仕入税額控除制度が、消費税の納付税額の計算に当たって、税負担の累積を排除する観点から、取引の前段階で課された消費税額を控除するものであるところ、課税事業者が免税事業者となる場合、免税事業者となる課税期間の初日の前日の属する課税期間中に取得し、当該課税期間の末日において保有する棚卸資産は、売却を目的として取得・保有される資産であるがゆえに免税事業者となった課税期間に売却される蓋然性が高く、その際には消費税が課税されないことから、この場合の棚卸資産に係る消費税額には税負担の累積排除の趣旨が妥当せず、仕入税額控除をすることは不合理であるから、当該消費税額については仕入税額控除を認めないこととする点にあると解される。
    • (ロ) そして、消費税法第2条第1項第15号は、別紙の1の(1)のとおり、同法における棚卸資産とは、商品、製品、半製品、仕掛品、原材料その他の資産で政令で定めるものをいう旨規定し、消費税法施行令第4条は、別紙の1の(5)のとおり、同号に規定する政令で定める資産は、棚卸をすべき資産で次に掲げるものとする旨規定しているが、商品又は製品(副産物及び作業くずを含む。)など単に棚卸資産の種類が掲げられているにとどまり、消費税法上、棚卸資産として掲げられたこれらの資産について具体的に定義する規定は置かれていない。
    • (ハ) この点、消費税法は、棚卸資産の定義について、税負担の累積排除などの同法の趣旨に反しない限り、原則として、企業会計における定義を採用しているものと解されることから、企業会計上の棚卸資産の定義についてみると、別紙の2の(1)のとおり、企業会計原則注解の注16は、商品、製品、半製品、原材料、仕掛品等の棚卸資産は、流動資産に属するものとし、企業がその営業目的を達成するために所有し、かつ、その加工又は売却を予定しない財貨は、固定資産に属するものとする旨定め、同(2)のとおり、棚卸資産の評価方法等に関し企業会計原則に優先して適用される棚卸資産会計基準第3項は、企業がその営業目的を達成するために所有し、かつ、売却を予定する資産は、棚卸資産に含まれるとし、同(4)のとおり、連続意見書第四の第一の七は、貸借対照表に棚卸資産として記載される資産の実体として、通常の営業過程において販売するために保有する財貨又は用役を挙げている。
    • (二) このような企業会計上の棚卸資産の定義に加えて税負担の累積排除などの消費税法の趣旨も踏まえると、事業者が、通常の営業過程、すなわち、その事業目的に係る業務の過程において売却することを目的として保有する資産は、消費税法第36条第5項に規定する「棚卸資産」に当たると解され、当該資産に該当するか否かについては、会計上の会計処理のみにより形式的に判断するのではなく、判断の対象とされている資産と事業者の属性及び事業目的との関係、当該資産の取得時の使用・収益・処分に係る方針等といった客観的な事実により実質的に判断するのが相当である。
  • ロ 認定事実
    • (イ) 平成31年2月期における金地金の売買等
      • A 請求人は、平成30年12月3日、K銀行からの借入金350,000,000円を原資として、f市g町○-○の土地及び同土地上の鉄筋コンクリート造陸屋根○階建の共同住宅(以下「本件共同住宅」という。)を435,000,000円で取得し、本件共同住宅を賃貸する等の事業を行っている。
         なお、令和4年2月期の期末時点におけるK銀行からの上記借入金の残高は317,414,831円であった。
      • B 請求人は、平成30年12月5日から同月11日にかけて、L社との間で、次のとおり、金地金を売買した。
      • C 請求人は、上記Bの金地金の売買に関し、平成31年2月期の損益計算書上、その取得価額(税抜き)を売上原価中の「当期商品仕入高」に、その売却金額(税抜き)を「売上高」にそれぞれ計上した。
      • D 請求人は、令和元年5月7日、平成30年12月1日から平成31年2月28日までの課税期間の消費税等について、上記Bの金地金の売却金額(税抜き)を課税売上額に含めるとともに、上記Aの本件共同住宅のうち建物の取得価額(税込み)及び上記Bの金地金の取得価額(税込み)を課税仕入れに係る支払対価の額に含めて控除対象仕入税額を算出したところに基づき確定申告書を提出して、確定申告をし、これにより〇〇〇〇円の消費税等の還付を受けた。
         なお、上記確定申告書に添付された「消費税の還付申告に関する明細書(法人用)」の課税仕入れに係る事項を記載する項目中の「(1) 仕入金額等の明細」欄の「商品仕入高等」欄及び「(2) 主な棚卸資産・原材料等の取得」欄には、上記Bの金地金の取得についての記載がある。
    • (ロ) 令和4年2月期における本件金地金の取得
      • A 請求人は、H社から、令和4年2月25日に511,000,000円、同月28日に4,000,000円を借り入れた(以下、これらを併せて「本件借入金」という。)。
         なお、請求人の代表者は、令和4年11月2日、本件調査担当職員に対し、本件借入金に係る利息は年利1%である旨申述した。
      • B 請求人は、令和4年2月28日、J社に対し、本件金地金の購入を電話により申し込むとともに、本件借入金等を原資として購入代金を振り込み、J社がこの振込入金の確認をして請求人の本件金地金の購入を承諾したことにより、本件金地金を523,638,500円(税込み)で取得した。
         なお、請求人は、購入した本件金地金を受け取る前に、J社に対し、買取りキットの交付を求めた。
      • C 請求人は、令和4年2月期の貸借対照表上、本件金地金の取得価額(税抜き)を資産の部の「その他の投資等」に計上していた。
         なお、請求人の代表者及び顧問税理士は、令和4年11月2日、本件調査担当職員に対し、本件金地金を取得した目的については、投資目的で金地金の市場価格が上昇することをもくろみ購入した旨、本件金地金の取得価額を「その他の投資等」に計上した理由については、当該代表者が本件金地金の取得につき投資又は投機目的と考えていたためである旨申述した。
    • (ハ) 令和5年2月期における本件金地金の売却
      • A 請求人は、令和4年3月1日、J社の担当者から、買取りキットを受け取った。
      • B 請求人は、令和4年3月2日、J社に対し、本件金地金の売却を電話で申し込み、同日、買取りキットを使用して、J社宛に本件金地金をゆうパックで発送した。そして、同月3日、本件金地金がJ社に配達されたことを受けて、請求人は、J社に対し、本件金地金を524,744,000円(税込み)で売却した。
      • C 請求人は、令和5年2月期の損益計算書上、本件金地金の売却益1,088,800円を「金売却益」として「営業外収益」に計上していた。
      • D 請求人は、令和4年3月4日、J社から上記Bの売却に係る本件金地金の売却代金の支払を受けると、同日、この金員を原資として、本件借入金をH社に返済した。
    • (二) 請求人の売上高及び経常利益の推移等
       請求人の平成31年2月期から令和4年2月期までに至る売上高及び経常利益の推移は次の表のとおりであり、令和2年2月期以降の売上高は主として本件共同住宅の管理・賃貸による売上げであった。また、請求人の貸借対照表上の純資産額は、令和3年2月期末で〇〇〇〇円、令和4年2月期末で〇〇〇〇円(令和4年2月期の貸借対照表上、資産の部には上記1の(4)のイの本件課税期間の消費税等の確定申告に係る未収還付消費税等〇〇〇〇円が計上されていた。)であった。(平成31年2月期の売上高は、上記(イ)のBの金地金の売却金額を含む。)
  • ハ 当てはめ
    • (イ) 本件金地金と請求人の属性及び事業目的との関係
       請求人は、上記1の(3)のイの(イ)のとおり、不動産管理・賃貸業、不動産に関するコンサルティング、有価証券等の取得・保有・売却、飲食業及びこれらと附帯関連する一切の事業を定款の目的に掲げる合同会社であり、実際にも、上記ロの(イ)のAのとおり、平成30年12月3日に取得した本件共同住宅を賃貸する等の事業を行っており、その不動産管理・賃貸業による売上高は、同(二)のとおり、令和2年2月期以降、毎期〇〇〇〇円前後で推移している。
       他方で、請求人は、上記1の(3)のホ及びヘ並びに上記ロの(イ)のB、(ロ)及び(ハ)のとおり、平成31年2月期及び令和4年2月期から令和5年2月期にかけて、それぞれ金地金の売買を行っている。
       そこで、これらの金地金の売買についてみると、平成31年2月期では、7日間という短い期間内に、金地金を買って売るという行為が4回繰り返され、これらの売買における金地金の取得価額及び売却金額の合計額は、それぞれ82,669,000円(税込み)及び82,159,000円(税込み)に上るところ、この売却金額は上記ロの(二)記載の請求人の平成31年2月期の売上高〇〇〇〇円の大部分を占めている。また、令和4年2月期から令和5年2月期にかけて行われた本件金地金取引では、上記1の(3)のホ及びヘ並びに上記ロの(ロ)のB及び(ハ)のBのとおり、本件金地金の取得価額及び売却金額は、それぞれ523,638,500円(税込み)及び524,744,000円(税込み)と更に大幅に増えており、本件金地金取引に係る取引額は、上記不動産管理・賃貸業による売上高から想定される請求人の事業規模に比して突出した大きな額となっている。さらに、本件金地金の取得資金は、上記ロの(ロ)のA及びBのとおり、その98%を超える部分が本件借入金によって調達されており、本件借入金515,000,000円は、同(イ)のA記載の本件共同住宅の取得時の借入金350,000,000円を上回る金額となっている。
       このように、請求人が行う金地金の売買に係る取引額が、いずれも、請求人の事業規模に照らして大きなものであり、本件金地金の取得資金の大部分を借入れで調達する等、金地金の売買が請求人の事業全体に及ぼす影響が大きいことからすると、請求人における金地金の売買は、補助ないし付随的な活動とはいえず、定款に明示的に掲げられた事業目的そのものではないとしても、事業目的から離れたところで行われているものとはいえないから、本件金地金は、請求人の事業目的に係る取引の客体にほかならない。
    • (ロ) 本件金地金の取得時の使用・収益・処分に係る方針
      • A 本件金地金の取得から売却に至る経緯
        • (A) 請求人は、上記ロの(ロ)のB及び(ハ)のAのとおり、購入した本件金地金を受け取る前の時点で、J社に対し、買取りキットの交付を求め、その後、買取りキットを受け取っている。
        • (B) そして、請求人は、上記ロの(ハ)のBのとおり、本件金地金を取得した2日後には、J社に対し、本件金地金の売却を申し込むとともに、買取りキットを使用して本件金地金をJ社に発送し、同3日後には本件金地金を売却している。
      • B 本件借入金の返済と請求人の財務状況
        • (A) 請求人は、上記ロの(ロ)のA及びBのとおり、本件金地金の取得価額523,638,500円(税込み)のうち98%を超える515,000,000円を本件借入金により調達しているところ、本件借入金に係る利息が同Aのとおり年利1%であるとすると、その利息金だけでも年額5,150,000円に上るため、経常利益が、上記ロの(二)のとおり、平成31年2月期で〇〇〇〇円、令和2年2月期で〇〇〇〇円、令和3年2月期で〇〇〇〇円及び令和4年2月期で〇〇〇〇円と推移していた請求人において、本件借入金を請求人が定款上明示している不動産管理・賃貸業による利益から返済していくことは相当に困難であったといえる。
        • (B) そして、請求人の貸借対照表上の純資産の額は、上記ロの(二)のとおり、令和3年2月期末において〇〇〇〇円、本件課税期間の消費税等の確定申告に係る未収還付消費税等として〇〇〇〇円を貸借対照表の資産の部に計上していた令和4年2月期末においても○○○○円にすぎず、また、同(イ)のAのとおり、本件共同住宅を取得した際の借入金の残高も令和4年2月期末の時点で317,414,831円あったことからすると、請求人が、本件金地金取引の当時、本件借入金を全額返済できるだけの十分な資産を有していたとは認められない。
        • (C) 上記(A)及び(B)からすると、本件借入金を返済するためには、請求人は本件金地金を売却する必要があったといえる。
        • (D) また、実際にも、請求人は、上記ロの(ハ)のDのとおり、本件金地金を売却し、その売却代金を原資として、本件借入金をH社に返済している。
      • C 請求人の会計処理
         請求人は、本件金地金の取得及び売却について、上記ロの(ロ)のC及び同(ハ)のCのとおり、令和4年2月期の貸借対照表上、その取得価額を資産の部の「その他の投資等」に、令和5年2月期の損益計算書上、その売却益を「営業外収益」に計上する会計処理を行っている。
         他方で、請求人は、平成31年2月期における金地金の取得及び売却については、上記ロの(イ)のCのとおり、平成31年2月期の損益計算書上、その取得価額を売上原価中の「当期商品仕入高」に、その売却金額を「売上高」に計上する会計処理を行うとともに、この会計処理を前提として、同Dのとおり、平成30年12月1日から平成31年2月28日までの課税期間の消費税等について、金地金の取得を「商品仕入高等」や「主な棚卸資産・原材料等の取得」として記載した資料を添付して確定申告をしている。
         このように、請求人における金地金の売買に係る会計処理は一貫していないが、これらの会計処理に加え、請求人の代表者及び顧問税理士が、上記ロの(ロ)のCのとおり申述して、本件金地金の取得が投資目的であった旨の説明をしていることからすると、少なくとも、請求人が、いずれの金地金の売買においても、金地金を取得した時点でその将来の売却を予定していたことがうかがわれる。
      • D 以上の各事実を踏まえると、請求人は、本件金地金を取得した時点において、将来、これを売却する方針を有していたものと認められる。
    • (ハ) 小括
       上記(イ)及び(ロ)のとおり、本件金地金が請求人の事業目的に係る取引の客体として取得されたものであり、かつ、請求人は、本件金地金を取得した時点において、将来、これを売却する方針を有していたという事実によれば、請求人は、その事業目的に係る業務の過程において売却することを目的として本件金地金を保有していたものと認められるから、本件金地金は消費税法第36条第5項に規定する「棚卸資産」に該当するものと認められる。
  • ニ 請求人の主張について
     請求人は、上記3の「請求人」欄の(1)及び(2)のとおり、請求人は金地金の売買を反復継続して行うものではないから金地金の売買が請求人の営業に当たることはなく、本件金地金は、営業目的を達成するために所有する資産とはいえず、消費税法上の「棚卸資産」に該当しない旨主張する。
     しかしながら、上記ハの(ハ)のとおり、請求人は、その事業目的に係る業務の過程において売却することを目的として本件金地金を保有していたものと認められ、本件金地金は消費税法第36条第5項に規定する「棚卸資産」に該当するものと認められるから、これと異なる立場に立ち、反復継続性が認められないことをもって、本件金地金が営業目的を達成するために所有する資産とはいえず消費税法上の「棚卸資産」に該当しないとする請求人の主張には理由がない。

(2) 原処分の適法性について

  • イ 本件更正処分
     上記(1)のハの(ハ)のとおり、本件金地金は消費税法第36条第5項に規定する「棚卸資産」に該当するから、同項の規定の適用により、本件金地金の取得価額に係る消費税額は本件課税期間の控除対象仕入税額に含めることはできない。これを前提に、本件課税期間における請求人の消費税の課税標準額及び納付すべき税額並びに地方消費税の納付すべき税額を計算すると、いずれも本件更正処分の金額と同額であると認められる。
     そして、本件更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
     したがって、本件更正処分は適法である。
  • ロ 本件賦課決定処分
     上記イのとおり、本件更正処分は適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、正当な理由があるとは認められない。そして、当審判所においても、本件課税期間における消費税の過少申告加算税の額は本件賦課決定処分における過少申告加算税の額と同額であると認められる。
     したがって、本件賦課決定処分は適法である。

(3) 結論

よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとする。