原処分庁が、審査請求人の帳簿等には、金製の商品の各取引について、真実の仕入先の氏名等が記載されていないことから、消費税の仕入税額控除を適用することができないとして原処分を行ったのに対し、請求人が、当該各取引は売買契約ではなく委託販売契約に基づく取引であるとともに、帳簿等には真実の仕入先の氏名等が記載されているなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案の裁決(国税不服審判所令和5年9月15日)です。
請求人の主張は棄却されています。
審判所は、「たとえ帳簿及び請求書等に記載された仕入先の氏名又は名称が真実のものでないとしても、事業者がこれを真実と信ずべき相当の理由があり、そのため、当該帳簿及び請求書等が消費税法第30条第7項の要件を満たす帳簿及び請求書等として保存されていると認められる場合、又はやむを得ない事情により、同項の要件を満たす帳簿及び請求書等を保存することができなかったことを当該事業者が証明した場合には、同条第1項の規定の適用が認められるものと解する」という解釈を示していますが、詰めるべき点がありそうな解釈です。
裁決書(ダウンロード可)
国税不服審判所令和5年9月15日 消費税仕入れ税額控除否認東裁(諸)令5第15号
裁決要旨(国税不服審判所ホームページ)
○ 請求人は、請求人が行った化粧品等の仕入れ(本件各仕入れ)に係る仕入先(本件各仕入先)について、本件各仕入先は実在するから、A税務署長が請求人の総勘定元帳(本件総勘定元帳)及び本件各仕入先から受領した領収証等(本件各領収証等)に記載された本件各仕入先の氏名が真実のものとは認められないとしたことには疑問があり、仮に、本件各領収証等及び本件総勘定元帳に記載した本件各仕入先の氏名が真実のものでないとしても、請求人には、本件各仕入先の氏名が真実のものと信ずべき相当の理由があるから、本件各仕入れに係る消費税額に、消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》第1項の規定による控除(仕入税額控除)が適用される旨主張する。
しかしながら、本件各領収証等に記載された住所及び電話番号は、本件各仕入先の真実の住所及び電話番号が記載されているとは認められないところ、氏名のみが真実であることを示す証拠もないから、本件各領収書等及び本件各領収証等を基に作成された本件総勘定元帳に記載された本件各仕入先の氏名は真実のものではないと認められ、さらに、請求人は、漫然と本件各領収証等を保存し、これに基づいて本件総勘定元帳の記載をしていたのであり、本件各仕入先の氏名を真実のものであると信じたことについて過失があったことは明らかであるから、本件においては消費税法第30条第7項の要件を満たす帳簿及び請求書等が保存されているということはできない。したがって、本件各仕入れに係る消費税額について仕入税額控除は適用されない。(令5. 9.15 大裁(諸)令5-8)
裁決文
4 当審判所の判断
(1) 争点1 (本件各取引は、委託販売契約又は売買契約のいずれの契約に基づく取引に該当するか。また、本件各取引が委託販売契約に基づく取引に該当する場合には、本件各取引高の税抜金額相当額が課税資産の譲渡等の対価の額から減額されるか否かについて
イ 認定事実
当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
(イ)請求人は、本件各取引に当たり、本件各取引先との間で本件各貿取申込書、本件各買取計算書及び本件各商品の重量を記載したメモ以外の書面は作成していなかった。
(ロ) 上記1の(3)のチのとおり、本件各買取計算書には、買取利用規約に同意する旨の記載があるものの、当該買取利用規約の具体的な内容の記載はなく、請求人は、当該買取利用規約に係る書面について、本件各買取申込書以外には本件
各取引先との間で作成していなかった。
ロ 検討
請求人は、上記イの(イ)のとおり、本件各取引に当たり、本件各取引先との間において、本件各買取申込書、本件各買取計算書及び本件各商品の重量を記載したメモ以外の書面は作成しておらず、また、当審判所の調査によっても、本件各買取申込害及び本件各買取計算書のほかには、請求人と本件各取引先との間の合意内容を示す証拠は認められないことから、以下、本件各取引につき、請求人と本件各取引先との間でいかなる合意がなされたかについて、本件各買取申込書及び
本件各買取計算書の記載内容から検討する。
(イ)委託販売とは、一般的な理解として、委託する者と受託する者との間で、受託する者は委託する者の供給する商品を、受託する者の名をもって、委託する者の計算において第三者に販売し、これに対して委託する者は報酬(手数料)を支払うことを約する取引形態であり、委託販売においては、一切の危険は委託する者が自ら負担し、受託する者はあらかじめ定められた手数料を取得するのみであるとされている。
(ロ) 本件各買取申込書は、上記1の(3)の二のとおり、本件各取引先が本件各商品を請求人に持ち込んだ際にその場で記載し、請求人に提出した書面であるところ、その表題は、当該書面の提出者がその提出先に対し、何かしらの物の買取りを申し込むことを意味する「買取申込書」となっている。そして、本件各買取申込書の「確認事項」欄には、買取依頼品は自己の所有物である旨、売却する品物に関しては、売却者の署名又はなつ印をもって、売却者は日本国の諸法に抵触しないことを宣誓する旨及び本件各買取申込書に記載されている文字、内容について、全て理解し、売却者は署名又はなつ印をする旨などの記載があり、そのいずれにも「はい」との回答襴にチェックがなされ、その内容を誓約する旨の記載の後にある「お客様情報J欄に、手書きで本件帳簿氏名、住所などが記載されているとともに、最後尾には不動文字で請求人の商号、所在地などが記載されている。これらの本件各買取申込書の文言からすると、本件各買取申込書は、本件各取引先が請求人に対して本件各商品を第三者に販売することを委託するとの申込みをしたことを示すものではなく、請求人に対して本件各商品の買取りの申込みをしたことを示すものと認められる。
加えて、本件各買取申込書が、本件各取引先と請求人との間の委託販売契約の成立を示すものであるのならば、通常、上記(イ)のように、当事者間で合意されるべき事項である、請求人が本件各取引先から本件各商品の第三者への販売を受託することを承諾した旨の記載、当該受託に対する請求人の手数料報酬額及び本件各商品に瑕疵があった場合の危険負担などの合意事項の記載があって
しかるべきところ、これらの記載はなく、そのほか、委託販売契約の成立を示す事項の記載もない。
(ハ)また、本件各買取計算害は、上記1の(3)の卜及びチのとおり、請求人の商号及び所在地等が記載された請求人の作成した書面であり、表題として「買取計算書」、名宛人として本件帳簿氏名並びに本件各商品の商品名、印紙代金、取引金額及び決済方法が現金払いであること等が記載された上、「買取利用規約に同意し、上記領収しました。」という不動文字の下の「署名」欄には、本件帳簿氏名が手書きで記載されている。
加えて、本件各買取計算書には、上記1の(3)のチのとおり、本件帳簿氏名、本件各商品の商品名、本件各商品の重量、単価及び重量に単価をかけた本件各取引高の金額などの記載はあるものの、本件各取引が委託販売契約に係るものであるのならば、本件各商品の本件売上先への売却代金の額や受託者が受け取る委託販売手数料の金額が、受託者と委託者との間で報告あるいは合意されてしかるべきところ、それらの事項の記載はない。
(二)以上のことから、本件各取引に当たり、請求人と本件各取引先との間において、本件各商品に係る売買(請求人による本件各商品の買取り)の合意があったといえるものの、請求人が、本件各商品の販売を本件各取引先から受託し、本件売上先に対して本件各取引先からの委託に基づいて販売するとの合意があったとは、認めることはできない。
したがって、本件各取引は、請求人と本件各取引先との間の売買契約に基づく取引であったと認められる。
ハ請求人の主張について
請求人は、上記3の(I)の「請求人」欄のとおり、本件各取引先に対して、本件各商品の委託販売手数料などを口頭で説明し、合意した上で本件各商品を預かって本件売上先に販売しており、委託販売契約であることの客観的証拠として、本
件各買取計算書に買取利用規約に同意する旨の記載があるなどと主張する。
しかしながら、上記イの(イ)のとおり、請求人と本件各取引先との間で作成された書面は、本件各買取申込書、本件各買取計算書及び本件各商品の重量を記載したメモのみであり、これら以外に請求人と本件各取引先との間の合意を認定できる証拠は認められず、上記イの(ロ)のとおり、本件各買取計算書には、買取利用規約の具体的な内容の記載はないことから、本件各買取計算書の買取利用規約に同意する旨の記栽をもって、委託販売契約の合意があったとは認められない。また、
「買取」という文言からしても、本件各買取計算書のかかる記載が、請求人の主張するような本件各取引が委託販売契約に基づく取引であることの客観的証拠であるとは認められず、本件各取引が売買契約に基づく取引であったと認められることは、上記口の(二)のとおりであるから、請求人の主張には理由がない。
(2) 争点2 (本件各取引に係る消費税額について、仕入税額控除が適用されるか否か。)について
イ法令解釈
(イ)消費税法第30条第7項は、当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿、請求書等が税務職員による検査の対象となり得ることを前提にしていると解される。この趣旨に鑑みると、消費税法第30条第1項の規定は、事業者が、国内において行った課税仕入れに関し、同条第8項第1号所定の事項が記載されている帳簿を保存している場合及び同条第9項第2号所定の書類で同号所定
の事項が記載されている請求書等を保存している場合において、税務職員がこれらを検査することにより課税仕入れの事実を調査することが可能であるときに限り、その適用があると解するのが相当である。
その反面として、事業者が帳簿及び請求書等を保存していない場合には消費税法第30条第1項の規定の適用がないことになるところ、このような法的不利益が特に定められたのは、資産の譲渡等が連鎖的に行われる中で、広く、かつ、公平に資産の譲渡等に課税するという消費税により適正な税収を確保するには、帳簿及び請求書等という確実な資料を保存させることが必要不可欠であると判
断されたためである。
そして、事業者に対し、消費税法第30条第8項第1号及び同条第9項第2号は、帳簿及び請求書等に記載すべき内容として、課税仕入れに係る取引の内容のみならず、その相手方の氏名又は名称を帳簿及び請求書等に記載することを義務付けているところ、これも、上記のとおり、税務職員が保存されている帳簿及び請求書等の記載を前提にその相手方を調査すれば、容易に課税仕入れの取引状況を把握し、適正な申告が行われていたかを確認できるようにするためであり、かかる調査のためには、帳簿及び請求書等の記載に正確性が求められるのは当然である。
(ロ) また、消費税法施行令第50条《課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿等の保存期間等》第1項において、消費税法第30条第1項の規定の適用を受けようとする事業者は、同条第7項に規定する帳簿及び請求書等を整理し、それぞれ定められた日から7年間、これを納税地又はその取引に係る事務所などに保存しなければならないなど、消費税法は、課税庁の課税権限が行使される最長の期間にわたって帳簿及び請求書等の保存を要求している。
(ハ)上記(イ)及び(ロ)の消費税法の趣旨に照らして考えると、消費者からの預り金的な性格を有する消費税は、特に正碓な税額の把握が求められているものと解され、事業者において保存されている帳簿及び請求書等については、課税仕入れの内容等とともに真実の仕入先の氏名又は名称を記載することが要求されており、事業者がその要件を具備した帳簿及び請求書等を保存していない場合には、課税仕入れに係る消費税額について仕入税額控除は認められないと解される。
(二)もっとも、その反面、たとえ帳簿及び請求書等に記載された仕入先の氏名又は名称が真実のものでないとしても、事業者がこれを真実と信ずべき相当の理由があり、そのため、当該帳簿及び請求書等が消費税法第30条第7項の要件を満たす帳簿及び請求書等として保存されていると認められる場合、又はやむを得ない事情により、同項の要件を満たす帳簿及び請求書等を保存することができなかったことを当該事業者が証明した場合には、同条第1項の規定の適用が認められるものと解するのが相当である。
ロ 認定事実
原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
(イ)本件帳簿氏名の者について
A 別表1-1の順号1、5、6及び8ないし23の各者は、在留カードの交付記録が存在しない。
なお、本件帳簿氏名のうち、別表1-2の各者は別表1-1の同じ順号の者である。
B 別表1-1の順号2ないし4、7及び24ないし28の各者については、在留カードの交付記録はあるものの、本件各在留カードの写しに記載された在留カードの番号、在留資格及び有効期限等の各項目について、在留カードの交付記録と一致していない。
c 別表1-1の順号1ないし11の各者は、本件各取引の日より前に日本から出国しており、その後、本件各取引の日まで入国した記録がない。
D 別表1-1及び別表1-2の順号12の者は、請求人との間で、本件各課税期間において2回の取引を行っているところ、別表1-2の令和2年3月課税期間において行われた2回目の取引の決済日である令和2年1月14日より前の同月9日に日本から出国しており、決済日である同月14日までに入国した記録がない。
E 別表1-1及び別表1-2の順号22の者並びに・別表1-1の順号23ないし26の各者は、本件各在留カードの写しに記載された住居地に住民登録をした記録がなく、また、原処分に係る調査において、当該各者が当該住居地に居住していた事実を確認することができなかった。
(ロ) 本件各取引について
A 請求人は、本件売上先の代表者から24金製の商品の取引を紹介されたのを契機に、令和元年10月頃から本件売上先との取引を開始するとともに、本件各取引を開始した。
B 請求人は、上記1の(3)のホのとおり、本件各取引を行うに当たり、本件各取引先の本人確諮の資料として、本件各在留カードの写しを徴しているところ、本件各取引先に対して、以下の手順で本人確認を行った。
(A) 請求人の代表者である- (以下「本件代表者」という。)又は請求人の従業員(以下、本件代表者と併せて「本件代表者ら」という。)は、本件各取引先に本件各買取申込書を記入させた上で、本人確認資料として本件各取引先が所持する在留カードを提示させる。
(B) 本件代表者らは、本件各買取申込書と提示された在留カードを並べて、本件各取引先の氏名、生年月日及び本人の顔をチェックし、本件各在留・カードの写しを徴する。
(C) 本件代表者らは、上記(B)の際に、本件各取引先の顔と在留カードの顔写真とを見比べて本人か否か疑わしい場合には、「写真と違いますね」などと質問し、本件各取引先が、例えば携帯電話に保存してある写真を見せるなどの対応をした場合には、その対応によって本人か否かを判断する。
(D)本件代表者らは、上記1の(3)の卜のとおり、本件各取引先に現金を支払うに当たり、本件各取引先から本件各買取計算書の1部に署名をもらうところ、その際にも請求人が徴した本件各在留カードの写しによって、本人確認をする。
なお、本件各在留カードの写しに記載されていた国籍は、いずれも???であった。
(E) 本件代表者らは、本件各買取申込書の「職業」欄を確認する際は、在留カードに記載されている在留資格を確認する。
C 本件各課税期間における本件各取引先ごとの取引回数は、別表1-1及び別表1-2のとおり、それぞれ2回から4回である。
D 本件各課税期間における本件各取引ごとの本件各商品の取引重量は、別表1-1及び別表1-2の「取引重量」欄のとおりである。
なお、本件各取引の取引回数59回のうち、1回の取引につき、本件各取引先が、4キログラム以上の24金製スクラップを請求人に持ち込んだ取弓1回数は48回であり、いずれも約2,000万円から約4,000万円の買取金額で取引していた。
E 別表1-1の順号27及び28の各者は、請求人及び本件代表者並びに本件各取引について知らなかった。
F 請求人は、本件各課税期間において、金を含む貴金属の買取りを行っている旨の広告を出していなかった。
G 本件売上先は、請求人の所在地と同じ???に所在し、自社のホームページにおいて、「???」等、金を含む貴金属の買取りを行っている旨広告している。また、「???」には、自社ホームページで金の買取りを行っている旨の広告を行う多数の事業者が存在する。
H 請求人は、本件売上先の代表者から、請求人に24金製スクラップ等を持ち込む客を紹介されたことはなかった。また、本件代表者は、本件各取引先が次々と来店した理由について、把握していなかった。
ハ検討
(イ)本件帳簿氏名が真実の仕入先の氏名であるか否かについて
上記イの(ハ)のとおり、事業者において保存されている帳簿及び請求書等については、真実の仕入先の氏名又は名称を記載することが要求されていることから、まず、仕入先として本件娠簿などに記載されている氏名(本件帳簿氏名)が真実の仕入先の氏名又は名称と認められるか否かについて検討する。なお、本件帳簿氏名のうち、別表1-2の各者は別表1- 1の同じ順号の者である。
A 別表1-1の順号1ないし11の各者は、上記口の(イ)のCのとおり、本件各取引の日より,前に日本から出国した後、本件各取引の日までに入国した記録がないことから、本件各取引の日において日本国内に滞在しておらず、請求人の店舗において取引を行うことはできない。したがって、別表1- 1の順号1ないし11の各取引に係る本件帳簿氏名の者は、当該各取引をした者であるとは認められない。
B 別表1-1の順号12の者は、上記口の(イ)のDのとおり、請求人と合計2回の取引を行っているところ、2回目(別表1-2) の取引の決済日である令和2年1月14日より前の同月9日に日本から出国し、決済日までに入国した記録がないことから、当該決済日には日本国内に滞在しておらず、当該決済日に請求人の店舗を訪れることは不可能であるため、当該決済日に請求人の店舗に訪れた者は別表1-2の順号12の氏名(本件帳簿氏名)の者と異なる者と認められる。
そして、上記口の(n)のBの(D)のとおり、本件代表者らは、本件各在留カードの写しで本人確認を行った上で代金決済をしており、これを前提とすると、別表1′-2の順号12の者が提示した在留カードの写しである本件各在留カードの写しの顔写真は、別表1-2の順号12の者とは異なる者の顔写真であったと認められるから、2回目の取引と同じ在留カードが使用された1回目の取引(別表1-1) についても、別表1-1の順号12の者とは異なる者との取引であると認められる。
したがって、別表1-1の順号12の取引に係る本件帳簿氏名の者は、当該取引をした者であるとは認められない。
c別表1-1の順号13ないし21の各者は、上記口の(イ)のAのとおり、在留カードの交付記録が存在しないため、請求人は、別表1-1の順号13ないし21の各者の本人確認を在留カードで行うことができず、また、在留カードの写しを徴することはできないから、本件帳簿に記載された当該各者の氏名は、本件各取引に係る真実の仕入先とは認められない。
したがって、別表1-1の順号13ないし21の各取引に係る本件帳簿氏名の者は、当該各取引をした者であるとは認められない。
D 別表1-1の順号22ないし26の各者のうち、順号22及び23の各者については、上記口の(イ)のAのとおり、在留カードの交付記録は存在せず、また、順号24ないし26の各者については、同Bのとおり、本件各在留カードの写しの各項目が当該各者の在留カードの交付記録と一致していないことからすれば、当該各者の本件各在留カードの写しの基となる在留カードは、いずれも当該各者の真実の在留カードとは認められない。また、別表1-1の順号22ないし26の各者は、上記口の(イ)のEのとおり、本件各在留カードの写しに記載された住居地に住民登録がなく、かつ、原処分に係る調査において当該住居地に居住していた事実を確認できなかったことから、本件各取引の日において
当該住居地に居住していなかったと認められる。そうすると、別表1- 1の順号22ないし26の各者が提示した在留カードは、いずれも当該各者の真実の在留カーードとは認められず、かつ、本件各取引の仕入先として本件帳簿に記載された当該各者の氏名は、居住地が不明な者のものであるから、このような者を本件各取引に係る真実の仕入先と認めることは困難である。したがって、別表1-1の順号22ないし26の各取引に係る本件帳簿氏名の者は、本件各取引をした者であるとは認められない。
E 別表1-1の順号27及び28の各者は、上記口の(P)のEのとおり、請求人、本件代表者及び本件各取引について、いずれも知らなかったのであるから、
本件各取引を行ったとは認められない。
また、上記口の(イ),のBのとおり、本件各在留カードの写しの各項目が当該各者の在留カードの交付記録と一致していないことからすれば、当該各者の本件各在留カードの写しの基となる在留カードは、いずれも当該各者の真実の在留カードとは認められない。
したがって、別表1-1の順号27及び28の各取引に係る本件帳簿氏名の者は、当該各取引をした者であるとは認められない。
F 上記AないしEのとおり、本件帳簿氏名の者は本件各取引を行った者であるとは認められず、本件各取引先は本件帳簿氏名の者ではないから、本件各取引の仕入先として本件帳簿及び本件各買取計算書に記載された本件帳簿氏名は真実の仕入先のものであるとは認められない。
(ロ) 本件帳簿氏名を真実の仕入先のものと信ずべき相当の理由の有無について
上記イの(二)のとおり、たとえ帳簿及び請求書等に記載された課税仕入れの相手方の氏名又は名称が真実の仕入先のものではないとしても、事業者がこれを真実と信ずべき相当の理由がある場合には、当該帳簿及び請求書等が消費税法第30条第7項の要件を満たす帳簿及び請求書等として保存されていると認められるから、請求人には本件帳簿氏名が真実の仕入先のものと信ずべき相当の理
由があったか否かについて検討する。
A 請求人は、上記1の(3)のイのとおり、貴金属、.宝石、真珠及びそれらの製品等の輸出入販売等を目的とする法人であり、本件各取引は24金製の商品に係る仕入取引である。
金地金等に関しては、本件各取引が行われた当時、輸入に係る消費税を免れる金の密輸が社会問題となっており、金地金等に係る取引の適正化を図り、より一層の密輸抑制を進めることが強く要請されていることが公知の事実となっていた。
そして、金地金等を含む貴金属等については、一般的に、財産的価値が高く、世界的に流通しており、換金や運搬が容易であるとともに、取引後の流通経路・所在を追跡するための手段が少なく匿名性が高いという特徴を持っているため、貴金属等に係る取引については、密輸に限らず犯罪に悪用される危険度が高いという犯罪情勢において、犯罪や不正を防止するための犯収法等の法令の整備並びに所轄行政庁及び業界団体における措置が請じられていた。
このような貴金属等の取扱事業者を取り巻く取引環境の下で、上記イの(ハ)で述べたように、消費者からの預り金的な性格を有する消費税については、特に正確な税額の把握が求められていることに鑑みると、当該事業者に対しては、取引相手の真実性等、取引全般についての「積極的かつ厳格な確認」を行うことが要求されていると解するのが相当であり、当該事業者に対して上記のような厳格な確認を求めることは、当該事業者における事務上の便宜性等を考慮しても、必ずしも酷とはいえない。
また、犯収法第2条《定義》第2項第43号においては、貴金属等取扱事業者を特定事業者として規定し、同法第4条において当該事業者が一定の貴金属等の取引を行うに際しては、取引相手の「本人特定事項」のほか、「職業」及び「取引を行う目的」の確認を求めている。そうすると、貴金属等の取引については、その取引の慣行上、取引全般に係る積極的かつ厳格な確認として、当該事業者に対して上記の確認を行うことが要求されていると解するのが相当である。
さらに、経済産業省資派エネルギー庁は、「貴金属等取扱事業者における疑わしい取引の・参考事例」を公表し、特に注意を払うべき取引の類型として、①,「同一人物・企業が、短期間のうちに多くの貴金属等の売買を行う場合」等の取引の特異性(不自然さ)に着目した事例及び②「多額の現金により購入する場合」及び「顧客の収入、姿産に見合わない多額の購入又は販売を行う場合」等の現金の使用形態に着目した事例などを挙げている。
B 本件各取引の取引回数は、上記口の(ロ)のCのとおり、本件各課税期間における本件各取引先ごとにそれぞれ2回から4回であり、上記1の(3)の二のとおり、本件各買取申込書の「職業」欄には「会社員」又は「自営業」に丸印が付されているところ、上記口の(ロ)のDのとおり、本件各取引先の多くは、1回の取引につき、4キログラム以上もの24金製スクラップを請求人に持ち込み、約2,000万円から約4,000万円もの代金を現金で受け取って帰るなど、一般的な会社員や自営業者が、単独で所有する貴金属等の売却としては明らかに多量かつ多額であることに加え、上記1の(3)の卜のとおり、その多額の
売却代金の全額が現金で決済されていることからも、上記Aの経済産業省資源エネルギー庁が公表する「貴金属等取扱事業者における疑わしい取引の参考事例」として特に注意を払うべき取引の類型に該当すると認められる。
また、請求人は、上記口の(Ii)のAのとおり、本件各取引を令和元年10月頃から始めているが、同F及びHのとおり、金を含む貴金属の買取りに係る広告を出しておらず、また、本件売上先の代表者から客を紹介されたことはないと認められるところ、同Gのとおり、請求人の店舗がある???には、
顧客誘引の手段として、・自社ホームページで金を含む貴金属の買取りを行っている旨の広告を出している本件売上先を含む多数の買取事業者が存在するにもかかわらず、24金製の商品を扱う事業を始めたばかりで買取りの実綾がなく、広告すら出していない請求人に対し、別表1-1の最初の本件各取引から別表1-2の最後の本件各取引までの約2月の間に28名もの本件各取引先が本件各商品を持ち込むのは不自然かつ不合理である。また、上記ロの(ロ)のHのとおり、本件代表者は、本件各取引先が請求人の店舗に来店した理由について、把握していなかった。
C これらの事情を踏まえると、本件各取引において、本件各買取計算書に記載された氏名が真実の仕入先のものであるか、あるいは、本件各在留カードの写しに記載された氏名が真実の仕入先のものであるかについて、高度の疑いを生じさせる事惜があったと認めるのが相当であり、本件各課税期間において、請求人においてもかかる疑いを抱いていたと解するのが自然である。
D そして、請求人は、上記1の(3)の二のとおり、本件各買取申込審において、本件各取引先に対し、「お客様情報」である本人特定事項等の記載並びに「買取依頼品は、私の所有物です。」及び「密輸.脱税等全ての犯罪に関わらない品物です。」と誓約させており、本件各商品の買取りに際して、本件各商品を請求人に持ち込んだ本件各取引先の身元や本件各商品の出どころの確認が重要であることを認識している。
E それにもかかわらず、請求人は、犯収法第4条の規定により要求される取引相手の「職業」の確認について、本件各買取申込害に記載させてはいたものの、会社員や自営業といった程度の記載をさせていたにすぎず、また、上記口の(ロ)のBの(E)のとおり、在留カードに記載されている在留資格の確認にとどまり、詳細な職業までは確認していなかったことが認められる。
また、上記1の(3)の二のとおり、本件各買取申込書には、犯収法第4条の規定により要求される「取引を行う目的」を記載させる襴もなく、上記口の(ロ)のBのとおり、請求人における本件各取引に係る本人確認の手順によっても、「取引を行う目的」の確認を全く行っていなかったのであるから、請求人は、貴金属等取扱事業者に対して取引上要求されていた取引相手の真実性等、取引全般についての積極的かつ厳格な確認を行っていたとは認められない。
F したがって、請求人は、本件各取引に際して、取引相手の真実性等、取引全般についての積極的かつ厳格な確認を行わず、漫然と本件各在留カードの写しを保存し、これに基づいて、本件帳簿の記載を行っていたといわざるを得ず、請求人には本件帳簿氏名が真実の仕入先のものと信ずべき相当の理由があったとは認められない。
(ハ)小括
上記(イ)のFのとおり、本件帳簿氏名は真実の仕入先のものであるとは認められず、かつ、同(口)のFのとおり、請求人には本件帳簿氏名が真実の仕入先のものと信ずべき相当の理由があったとは認められないから、請求人は、消費税法第30条第7項の要件を滴たす帳簿及び請求書等を保存していたとは認められない。
また、消費税法第30条第7項ただし書に規定する「やむを得ない事情」も認められないから、本件各取引に係る消費税額について、仕入税額控除は適用されないこととなる。
そうすると、請求人の本件各課税期間の消費税等の計算については、消費税法第30条第7項本文の規定が適用されることにより、本件各取引に係る消費税額について仕入税額控除は適用されないから、同条第10項の規定の適用の有無については判断するまでもない。
二 請求人の主張について
(イ)請求人は、上記3の(2)の「請求人」欄のイのとおり、本件各取引先から提示を受けた在留カードが真実の在留カードであるという認識の下に取引を行い、本件帳簿及び本件各買取計算書を保存’していたから、消要税法第30条第8項及び第9項に規定する帳薄及び請求書等を保存しており、仮に本件帳簿氏名が真実の仕入先のものでない場合においても、同条第7項本文の規定は適用されな
い旨主張する。
しかしながら、事業者において保存されている帳簿及び請求書等は、課税仕入れの内容等とともに真実の仕入先の氏名又は名称の記載が要求されていることは上記イの(ハ)のとおりであるから、請求人の主張には理由がない。
(ロ) 請求人は、上記3の(2)の「請求人」欄の口のとおり、本件帳簿氏名が虚偽のものであったとしても、請求人には、本件帳簿氏名が真実の仕入先のものと信ずべき相当の理由があるから、本件帳簿及び本件各買取計算書が消費税法第30条第7項に規定する要件を具備した帳簿及び諸求書等として保存されていると認められる旨主張する。
しかしながら、上記ハの(n)のBないしDのとおり、本件各取引は、経済産業省資源エネルギー庁が注意喚起する特に注意を払うべき取引の類型に該当し、請求人自身も本件各取引先の身元などの確認の重要性を認識し、本件各買取計算書や本件各在留カードの写し等に記載された氏名が真実の仕入先のものであるかについて、疑いを抱いていたと解するのが自然であるところ、同Fのとおり、
請求人が積極的かつ厳格な確認を行っていたとは認められず、本件帳簿氏名が真実の仕入先のものと信ずべき相当の理由があったとは認められないから、請求人の主張には理由がない。
(3) 本件各更正処分の適法性について
上記(1)の口の(二)のとおり、本件各取引は売買契約に基づく取引に該当し、同(2)のハの(ハ)のとおり、本件各取引に係る消費税額については、仕入税額控除は適用されないことから、これに基づき、当審判所において、本件各課税期間の納付すべき消費税等の額を計算すると、本件各更正処分の金額といずれも同額であると認められる。
また、本件各更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。したがって、本件各更正処分は、いずれも適法である。