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令和2年の税制改正により、居住用賃貸建物に係る仕入税額控除は原則として制限されました。しかし、改正前の「令和2年3月31日までに締結した契約」であれば控除が認められる経過措置が存在します。本記事で紹介する令和6年6月3日の裁決は、この「契約締結時期」が最大の争点となりました。
ケース概要&争点・結論
- 裁決日:令和6年6月3日(国税不服審判所)
- 事案:居住用賃貸建物の仕入税額控除における経過措置適用の可否。2つの争点:契約締結時期および重加算税賦課の適否
- 争点:契約は「令和2年3月31日までに締結」されたか「概算段階では契約締結」と認められるか/重加算税の隠蔽・仮装の有無
- 結論:契約締結時期認めず仕入税額控除は否定。一方で重加算税は隠蔽・仮装の意図なしとして取消
納税者は「3月末までに口頭で契約が成立していた」と主張しましたが、審判所は当時の資料が概算であったことなどを理由に経過措置の適用を否定。一方で、原処分庁が課した「重加算税」については、請求人に隠蔽・仮装の意図は認められないとして取り消すという、異例かつ重要な判断を下しました。仕入税額控除を確実に受けるための要件と、税務調査における重加算税回避のポイントを解説します。
事案の背景:居住用賃貸建物と経過措置
令和2年度の消費税法改正により、金地金を用いた還付スキーム等を封じるため、居住用賃貸建物に係る仕入税額控除が制限されました。ただし、「令和2年3月31日までに締結した契約」に基づく取得であれば、改正前のルールで控除ができるという経過措置(附則44条2項)が設けられています。
本件では、この「3月31日までに契約が本当に成立していたか」が争われました。
争点と審判所の判断:ダブルの争点
本件の争点は大きく分けて2つあります。
争点① 経過措置(仕入税額控除)は適用されるか?
【審判所の判断:適用なし】 請求人は「3月末までに口頭で合意していた」と主張しましたが、審判所は以下の理由でこれを否定しました。
- 当時の提示資料に「概算」「計画変更の可能性あり」との記載があったこと。
- 建築会社側のシステム上の契約書作成日時が「2020年5月」であったこと。
- 建築工事という個別性の高い契約において、具体的な内容の全てが口頭で合意されていたとは認められない。
争点② 重加算税の賦課は適法か?
【審判所の判断:重加算税は取消】 原処分庁は「経過措置を受けるために虚偽の日付で契約書を作った」として重加算税を課しましたが、審判所はこれを覆しました。
- 当時、事業計画は具体的に進んでおり、請求人が「3月末時点で未成立である」という明確な認識を持っていた証拠はない。
- 請求人は「3月末までに成立している」という認識のもとで経過措置を適用したに過ぎず、故意に事実を歪曲した(隠蔽・仮装)とはいえない。
本裁決から学ぶ実務上の教訓
契約成立の「証拠」は客観的資料が不可欠
口頭での合意を主張しても、資料に「概算」という文言があるだけで、税法上の「契約締結」と認められないリスクがあります。特に経過措置を狙う場合は、金額・工期・仕様が確定した状態での書面化が重要です。
重加算税回避のポイント
今回の判決で注目すべきは、「法令の解釈誤りや事実誤認に基づく申告であれば、直ちに重加算税にはならない」という点です。「隠蔽・仮装」と言い切るには、納税者が「事実に反している」と認識していることの立証が必要であるという、納税者保護の観点からも重要な事例といえます。
仕入税額控除の更正処分自体は維持されましたが、重加算税が取り消されたことにより、納税者の過失は「過少申告加算税」に留まることとなりました。居住用建物の取得を検討する事業者は、契約時期の証拠能力を再確認する必要があります。
本裁決の詳細は以下の記述を参照してください。
審判所の判断ポイント
- 争点①契約締結時期:附則44条2項の「契約締結」には金額・工期・仕様が確定した状態での書面化が必要。概算段階の資料では契約締結とは認められない
- 争点②重加算税:請求人に「3月末時点で契約未成立」という明確な認識があった証拠はない。経過措置の適用を受ける契約が成立していると認識しており隠蔽・仮装の故意は認められない
- 実務上の教訓:口頭契約の主張は認められにくい。金額・工期・仕様が確定した書面契約の準備が不可欠
居住用賃貸建物取得時の実務上の注意点
- 経過措置の適用には、令和2年3月31日までに金額・工期・仕様が確定した書面契約を締結することが不可欠
- 重加算税回避のためには、故意的な隠蔽・仮装がないことを示す客観的証拠が重要。事実の記録やメール等を整備する
- 仕入税額控除の更正処分自体は維持されたが、重加算税が取り消され過少申告加算税に留まった。誠実な税務対応がペナルティ軽減に繋がる





