はじめに:リモートワーク時代の新たな税務リスク

日本に居ながら海外企業で働くスタイルが普及する中、意外な落とし穴が浮き彫りになりました。 今回ご紹介するのは、「PCの設定を米国時間にしていたため、日本の申告期限を勘違いした」という納税者の主張が、国税不服審判所でどのように判断されたかという事例です(令和6年3月25日裁決) 。

事案の概要:申告期限を1日でも過ぎたら加算税

本件の請求人(納税者)は、令和4年分の所得税等の確定申告書を、法定申告期限(3月15日)の翌日である3月16日に提出しました 。これに対し税務署は、期限後申告であるとして無申告加算税の賦課決定処分を行いました

請求人は、期限に間に合わなかったことについて、国税通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由」があると主張し、処分の取り消しを求めました 。

納税者が主張した「やむを得ない事情」

請求人が挙げた理由は、現代のリモートワーカーにとって他人事ではない以下の4点です。

  1. PCの時差設定: 米国本社に雇用されており、PCの時計を米国西海岸時刻に設定していた 。
  2. 時差の計算ミス: 特殊な状況と時差により、期限を意識していたものの間に合わなかった 。
  3. 異例の激務: 期限直前に深夜まで働く必要があった 。
  4. 申告作業の複雑化: 米国所在の不動産所得に関する確認作業が煩雑だった 。

審判所の判断:厳格に引かれた「主観」と「客観」の境界線

国税不服審判所は、請求人の主張を退け、審査請求を棄却しました

1. 「正当な理由」の定義

審判所は、「正当な理由」とは、災害や交通・通信の途絶など、「真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情」がある場合を指すと定義しました 。

2. 本件への当てはめ

審判所は、請求人の主張について以下のように結論づけました。

  • PCの時間表示や業務の多忙、作業の煩雑さは、いずれも「単なる主観的な事情」にすぎない 。
  • これらは納税者の責めに帰することのできない客観的な事情とは言えず、加算税を課すことが不当または酷であるとは認められない 。

結論:たった1日の遅れが招くペナルティ

今回の裁決により、たとえ悪意のない「時差の勘違い」や「多忙」であっても、法律上の「正当な理由」としては認められないことが改めて明確になりました

特に海外と取引のあるフリーランスやリモートワーカーは、以下の対策が必須と言えます。

  • 「日本時間」での期限管理の徹底: PCの設定にかかわらず、物理的なカレンダーやスマートフォンの日本時間でリマインダーを設定する。
  • 余裕を持った作業スケジュール: 海外資産が絡む申告は書類の確認に時間がかかることを前提に、3月初旬までの完了を目指す。

無申告加算税は、原則として納付すべき税額に15%(自主提出でも5%)が乗じられる重い負担です 。最新の裁決を教訓に、確実な期限内申告を心がけましょう。

本裁決の詳細はこちらの記事をご確認ください。