企業がスポーツ選手とスポンサー契約を結び、スポンサー料を支払う際の課税関係について解説している遠藤努弁護士「企業によるスポーツ選手とのスポンサーシップ契約に係る課税関係」NO&T Tax Law Update2025年2月号を紹介いたします。なお、同弁護士が寄稿した「外国籍プロスポーツ選手の日本における課税関係の概要」も参考になります。

e-sportsの課税関係を検討する際にも有益な論稿です。

1. はじめに

企業はマーケティング戦略の一環として、スポーツ選手とスポンサーシップ契約を結ぶことでブランド認知度やイメージ向上を図る。スポンサー料は高額になりがちであり、課税関係の正確な理解や適切な契約書の作成が重要。


2. スポンサーシップ契約とは

  • スポーツスポンサーシップとは、スポンサーが、スポーツに関わる個人や団体の活動・イベント等との関連性を商業的に利用して自らのブランド・商品の認知やイメージの向上等を図る権利を取得し、その対価として金銭、物品またはサービスを提供する取引のこと。
  • スポンサーが得る権利には、ロゴ入りユニフォームの使用、肖像権・氏名利用、広告出演などが含まれる。
  • スポンサー料の課税関係は、契約当事者が個人か法人か、居住者(内国法人)か非居住者(外国法人)か、契約内容(特にどのような権利の付与、役務の提供に対してスポンサー料が支払われるか)等によって変わるため、課税関係に与える影響も契約作成時に考慮する必要あり。

3. スポンサーシップ契約の課税関係

日本の企業が、外国のプロリーグのクラブチームに所属しており、日本の非居住者に該当するプロスポーツ選手個人(日本に事務所等は有していない)とスポンサーシップ契約を締結する事例を想定した課税関係。

スポンサーのロゴが掲載されたユニフォーム等の使用

① 所得税
  • 非居住者であるスポーツ選手に対するスポンサー料の支払いは、それが所得税法条項各号に定める国内源泉所得に該当する場合、当該スポンサー料に対して日本で所得税が課されることになる。スポーツ選手がスポンサーのロゴが掲載されたユニフォーム等を着用して競技を行い、その対価としてスポンサー料を受領する場合、当該スポンサー料は通常所得税法条項号イの人的役務の提供に対する報酬に該当すると考えられる。
  • 租税条約による軽減・免税の可能性は低い。
② 法人税
  • スポンサー料は企業の広告宣伝費として損金算入が可能。
③ 消費税
  • スポーツ選手の役務提供が国内か国外かで課税判断が分かれる。
  • 競技が海外のみの場合は国外取引として消費税は課税されない。
  • 日本での競技も含まれる場合は国内取引として課税される可能性があるが、スポーツ選手が日本に事務所を有していない場合は国外取引として課税されない。

(3) 肖像権・パブリシティ権等

① 所得税
  • 企業がスポーツ選手の肖像・氏名を広告で使用し、その対価を支払う場合、国内源泉所得に該当せず、日本での課税はない。
② 法人税
  • スポンサー料は広告宣伝費として損金算入可能。
③ 消費税
  • 肖像権等の提供は資産の貸付とみなされ、提供者の事務所所在地で内外判定。

(4) 広告出演

① 所得税
  • スポーツ選手が広告に出演し、その対価を受け取る場合、所得税法161条1項12号イの人的役務提供に該当し、役務提供が国内で行われる場合には国内源泉所得に該当(源泉徴収要)。
  • 租税条約の適用がある場合も、日本での課税の軽減・免除はなしの場合が多い。
② 法人税
  • スポンサー料は広告宣伝費として損金算入可能。
③ 消費税
  • 国内で広告撮影が行われる場合は国内取引として課税、国外で撮影された場合は国外取引として課税されない。
  • 国内取引に該当する場合、特定役務の提供としてリバースチャージ方式によりスポンサーが消費税の申告・納税義務を負う。

4. 契約上の手当て

  • 課税関係を契約書に明確に記載することが重要。
  • 源泉所得税の処理方法(源泉徴収を行うか、グロスアップするか)を定める。
  • 消費税について、スポンサー料が税込み否かを明示。
  • 課税対象となる役務とそうでない役務を区分し、契約内で明確化することが望ましい。