本件は、消費税の確定申告において本則課税を適用して申告した法人が、後に簡易課税制度の適用対象であったと税務署の指摘を受けて修正申告した結果、過少申告加算税を課されたことについて、その処分の取消しを求めた事案である(国税不服審判所令和6年9月26日裁決)。

請求人は、簡易課税制度の選択届出書をすでに提出しており、本件課税期間においてもその適用要件を満たしていた。しかし、確定申告時には本則課税で計算を行って申告し、結果として本来より控除額が多くなり、納付税額が過少となっていた。後に税務調査で簡易課税の適用が必要であると指摘され、請求人は修正申告を行った。

請求人は、税務署が申告書の形式から誤りを把握できたにもかかわらず、申告時点で行政指導をせず、調査後に加算税を課したのは不当であると主張。また、課税売上に変動がなく仕入控除方式が変わっただけの修正申告であるため、加重分の加算は不合理であるとした。

これに対し原処分庁は、申告納税制度においては納税者の責任で正確な申告を行うべきであり、加算税の賦課は法令に基づくもので裁量の余地はないと主張。調査前に行政指導を義務付ける法令も存在しないことから、処分に不当性はないと反論した。

審判所は、「処分の不当とは、処分を行うにつき、法の規定から処分行政庁に裁量権が付与されていると認められる場合において、処分行政庁の行った処分が、裁量権の逸脱又は濫用により違法であるとまではいえないが、当該処分の基礎となる法や制度の趣旨及び目的に照らして不合理であることをいうと解されるから、処分が不当といえるためには、その前提として、法の規定から処分行政庁に裁量権が付与されていることを要するものと解される。」という、すっかりお馴染みとなった解釈を示した。

そのうえで、通則法第65条第1項及び第2項において、「過少申告加算税の賦課決定やその額の計算について、原処分庁に裁量権が付与されたものとは解されず、ほかにそのように解すべき法律上の根拠もない。
ハ したがって、本件賦課決定処分をするに当たり、原処分庁に裁量権が付与されていたとはいえず、処分の不当性を検討する前提が欠けるから、本件賦課決定処分は不当ではない。」などと判断して、上記請求人主張を認めなかった。

非常にシンプルな事案ですが、「不当」と「裁量権」の問題、これと過少申告加算税が免除される「正当な理由」との関係といった論点を整理するうえで有益な事例です。

当審判所の判断

(1) 検討

請求人は、・・・本件調査を受け、本件調査担当職員からの指摘に従い、本件修正申告書を提出していることから、請求人には、原則として、通則法第65条第1項及び第2項の各規定に基づく過少申告加算税が課されることとなるところ、請求人は、本件賦課決定処分は不当である旨主張するため、本件において処分の不当性が認められるか、以下検討する。

イ 処分の不当とは、処分を行うにつき、法の規定から処分行政庁に裁量権が付与されていると認められる場合において、処分行政庁の行った処分が、裁量権の逸脱又は濫用により違法であるとまではいえないが、当該処分の基礎となる法や制度の趣旨及び目的に照らして不合理であることをいうと解されるから、処分が不当といえるためには、その前提として、法の規定から処分行政庁に裁量権が付与されていることを要するものと解される。

ロ これを本件についてみると、通則法第65条第1項及び第2項は・・・の規定において、過少申告加算税の賦課決定やその額の計算について、原処分庁に裁量権が付与されたものとは解されず、ほかにそのように解すべき法律上の根拠もない。

ハ したがって、本件賦課決定処分をするに当たり、原処分庁に裁量権が付与されていたとはいえず、処分の不当性を検討する前提が欠けるから、本件賦課決定処分は不当ではない。

(2) 請求人の主張について

イ 請求人は、・・・原処分庁が行政指導を行わずに本件調査を行い、本件賦課決定処分をしたことは不当である旨主張する。
 しかしながら、本件賦課決定処分をするに当たり、原処分庁に裁量権が付与されたものでないことは、上記(1)のロにおいて説示したとおりであり、また、原処分庁が、調査を行う前に行政指導を行うべきとする法令等の規定又は定めは存在しない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。

ロ また、請求人は、・・・仮に、原処分庁が行政指導を行わずに過少申告加算税を課したことが不当でなかったとしても、課税売上高に変動がなく、仕入税額控除の計算方式を本則課税制度から簡易課税制度へと変更するのみの修正申告で、納付すべき税額が本件調査を開始する前から確定しているような場合には、原処分庁の主張する「過少申告による納税義務違反」に該当しないから、過少申告加算税に加重分が加算されることは不当である旨主張するため、以下検討する。

(イ) 過少申告加算税は、過少申告による納税義務違反の事実があれば、原則としてその違反者に対して課されるものであり、これによって、当初から適正に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、過少申告による納税義務違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置である(最高裁平成18年10月24日第三小法廷判決・民集60巻8号3128頁参照)。
 そして、通則法第65条第2項に規定する過少申告加算税の加重分は、同条第1項の規定に該当する場合において、修正申告により納付すべき税額が期限内申告税額に相当する金額と50万円とのいずれか多い金額を超えるときに一律に課されるものであり、法令上、加重分のみが不適用となる場合に関する規定は存在しない。

(ロ) 本件においては、・・・請求人が本件修正申告書を提出したことにより、新たに納付すべき税額が生じたのであるから、請求人には、「過少申告による納税義務違反」の事実があったと認められるのであり、請求人の主張するような事情は、この判断を左右するものではない。
 また、同へのとおり、本件修正申告書の提出による新たに納付すべき税額(○○○○円)は、期限内申告税額に相当する金額(○○○○円)を超えている。
 そうすると、請求人には、通則法第65条第1項及び第2項の各規定に基づき、加重分を加算した過少申告加算税が賦課されることとなるのであり、この点について原処分庁に裁量権が付与されたものではないことは、上記(1)のロで説示したとおりである。
 したがって、請求人の主張は採用できない。

(3) 本件賦課決定処分の適法性について

以上のとおり、本件賦課決定処分は、通則法第65条第1項及び第2項の各規定の要件を充足し、また、本件修正申告書の提出により納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちに、当該修正申告前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、同条第5項第1号に規定する正当な理由があるとは認められない。そして、当審判所においても、請求人の本件課税期間の消費税等に係る過少申告加算税の額は、本件賦課決定処分における額と同額であると認められる。
 また、本件賦課決定処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件賦課決定処分は適法である。

(4) 結論

よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとする。