本記事では、国税庁が財務省主税局に対して提出した「令和5年度税制改正意見」の内容を整理し、主要な改正意見について紹介します。
国税庁では、納税者の利便性の向上や適正・公平な課税・徴収を実現する観点から、制度上の対応(税制改正)が必要と考えられる事項について意見を申入れています。これらの意見は、主税局との事務的な調整を経た後、与党税制調査会で審議され、毎年度の税制改正大綱に反映されます。
本記事では、税務手続の電子化、暗号資産取引に関する調書提出の義務化、無申告者への対応強化、確定申告不要制度の見直し、公益法人等の課税範囲の適正化など、多岐にわたる改正意見を取り上げます。
資料もダウンロード可能です。
(参考1) スケジュール
主に8月下旬主税局に対する当庁意見の提出
9~10月主税局との事務的な調整
11月上旬~ 与党税制調査会(当庁意見を踏まえた改正事項は「納税環境整備」の分野で議論)
12月上中旬与党税制改正大綱
12月中下旬政府税制改正大綱(閣議決定)
(参考2) 当庁意見を踏まえた改正事項(令和4年度改正の主な例)
・各種申請等の簡素化等
納税地の異動、変更に関する届出書について、その提出を不要とした。また、修正申告書等の記載事項から、その申告前に係る更正前の計算の基礎となる税額等を除外するほか、所要の整備を行った。
・記帳水準の向上等に資する施策の導入
事業所得等の収入金額が300万円を超えるものが、隠蔽仮装行為に基づき確定申告書等を提出していた場合、総収入金額を得るために直接に要した費用等の額は、一部を除き、所得の金額の計算上、必要経費の額に算入しないこととした。
以下、主たる改正意見の抜粋です。???は情報公開で入手した資料の黒塗り部分です。
- 税務書類の公示送達手続等の電子化
- 処分通知等の電子交付の拡充等
- マイナンバーカードの機能( 電子証明書) のスマートフォン搭載への対応
- 暗号資産交換業者を通じて行った暗号資産の交換等取引に係る調書提出の義務化
- 悪質な無申告者等への対応
- 確定申告不要制度等の見直し
- 公益法人等に係る課税所得の範囲の適正化
- 一部の相続人等から更正の請求があった場合の他の相続人等に対する除斥期間の延長
- 消費税の輸出物品販売場制度(免税店制度) の適正化
- 滞納処分のための質問検査等の対象の明確化
- 滞納処分免脱罪の適用対象の見直し
- 消費税不正事案に係る国税の保全を図るための関係法令の整備
- 外国子会社配当益金不算入制度の適用対象となる配当等の見直し
- ???に係る取扱いの適正化
- 外国子会社合算税制(租税負担割合の計算方法) の適正化
- 消費税不正還付関係?
- 参考資料(ダウンロード可)
税務書類の公示送達手続等の電子化
現行制度
公示送達(通法14条)は、送達すべき書類について、その送達を受けるべき者の住所及び居所が明らかでない場合又は外国においてすべき送達につき困難な事情があると認められる場合には、税務署長その他の行政機関の長は、その送達に代えて公示送達をすることができることとされているが、その周知方法として、送達すべき書類の名称等を当該行政機関の掲示場に掲示して行うこととされている。
公売公告(徴法95条)は、差押財産等を公売に付するときは、公売の日の少なくと現行制度Iも10日前までに、公売財産の名称等を公告しなければならないこととされており、その周知方法として、税務署の掲示場その他税務署内の公衆の見やすい場所に掲示して行うこととされている。
税理士法その他の国税関係法令に基づく手続(別添一覧)について、納税者等への周知方法として官報により公告することを定めている。
課題
これらの制度について、民事訴訟法等の一部を改正する法律(令和4年法律第48号)が公布され、民事訴訟手続において電磁的記録による公示送達ができることとされたことやデジタル臨時行政調査会による「デジタル社会の形成に関する重点計画・情報システム整備計画・官民データ活用推進基本計画」を踏まえた法令の点検・見直し作業を受け、納税者利便の一層の向上のため、国税関係法令に基づく掲示・公告等の手続全般について、デジタル化を進めていく必要がある。
改正意見
① 国税通則法に基づく国税に関する書類の公示送達について、電磁的記録をインターネットに掲載する方法により行うとする規定を設ける。
② 国税徴収法に基づく公売公告等について、電磁的記録をインターネットに掲載する方法により行うとする規定を設ける。
③ 税理士法その他の法律において官報掲載により公告することとされている手続につ いて、電磁的記録をインターネットに掲載する方法により行うとする規定を設ける。
処分通知等の電子交付の拡充等
現行制度
① 電子交付の対象となる処分通知等は、税務署長が法令に基づいて行う処分通知等のうち、国税庁長官が定めるものとされている(国税オン化省令9②)。
② 処分通知等の電子交付を受けるための納税者の同意方式は、処分通知等を電子的に受ける旨を、当該処分通知等に係る申請等に併せて入力して送信する方式となっている(国税オン化省令11)。
課題
① 現状、電子交付の対象となる処分通知等の範囲が限定的である。
・処分通知等の書面による郵送については、国税当局の事務負担が大きいほか、納税者の紛失リスクがある。
② 処分通知等の電子交付を受けるためには、納税者が、その処分通知等に係る申請等ことに電子交付の同意に関する意思表示をしなければならない。また、電子交付の対象となりうる処分通知等は、申請等に係るものに限定されることとなる。
改正意見
処分通知等の電子交付に関して、次の措置を行う。なお、処分通知等の電子交付の拡充に際して、処分通知等を確実に納税者が認識できるよう、e-Tax における納税者又は関与税理士のメールアドレスの登録をこれまで以上に強く促す必要がある。
①電子交付可能な処分通知等の範囲について、原則として、税務署長が法令に基づいて行う処分通知等の全てとする。
②処分通知等の電子交付等に係る納税者の同意の方式について、個別の処分通知等ごとに同意を行うものから、あらかじめ一括して同意を行うものへと変更する。
マイナンバーカードの機能( 電子証明書) のスマートフォン搭載への対応
現行制度
e-Taxにおける電子証明書については、商業登記法に基づき登記官が作成したもの、地方公共団体情報システム機構が作成したもの(マイナンバーカード)等とされている(国税オン化省令2①二)。
e-Tax を利用する場合、識別符号(利用者識別番号)、暗証番号、電子署名、電子証明書の送信が必要とされているところ、マイナンバーカードを用いて電子署名を行い、当該電子署名に係る電子証明書と併せてこれらを送信する場合においては、識別符号及び暗証符号を入力することを要しないこととされている(国税オン化省令5①-)。
課題
電子署名等に係る地方公共団体情報システム機構の認証業務に関する法律が改正され、3条の電子証明書に加えて、16条の2に「移動端末設備用署名用電子証明書」に関する規定が新設され、マイナンバーカードの電子証明書機能をスマホに搭載し、利用できることとなる。 (R5.5 施行)
上記のスマホ搭載される電子証明書については、現行のマイナンバーカードに搭載されている電子証明書とは別の電子証明書である( 「デジタル社会の実現に向けた重点計画」(令和3年12月24日閣議決定) 。
改正意見
スマートフォンに搭載された電子証明書も国税オン化省令2①に加える。
国税オン化省令5①-、6①三、8①に規定するマイナンバーカードについて、スマートフォンに搭載されたマイナンバーカードの機能(電子証明書)も加える。
暗号資産交換業者を通じて行った暗号資産の交換等取引に係る調書提出の義務化
現行制度
暗号資産取引については、全ての取引形態について、従来、法定調書の対象とはされていなかったが、金融商品取引法の改正により、「暗号資産」が金融商品として位置づけられたことに伴い、暗号資産デリバティブ取引については、「先物取引に関する支払調書」の提出対象とされた(令和3年1月施行)。【所得税法224条の5、所得税法225条】一方、暗号資産の売買や交換などのいわゆる現物取引については、法定調書の提出対象とはされていない。
課題
上記のとおり、暗号資産デリバティブ取引に係る支払調書の提出については措置されたが、現物取引については現時点において法定調書の提出対象とはされていない。
暗号資産取引の適切申告を担保するため、平成30事務年度において、暗号資産取引業協会に対し、顧客への年間取引報告の交付を依頼し、当該仕組自体は確立しているところであるが、未だに無申告等が散見されている状況であり、当局による取引情報の把握が必要。
改正意見
暗号資産交換業者に対し、利用者(顧客)の暗号資産交換等取引について、税務署へ調書の提出を義務付ける。
悪質な無申告者等への対応
現行制度
次のいずれかに該当する場合には、15% (納税額(増差税額)が50万円を超える部分は20%) の無申告加算税を賦課する(通法66) 。
期限後申告書の提出又は第二十五条(決定)の規定による決定があった場合期限後申告書の提出又は第二十五条の規定による決定があった後に修正申告書の提出又は更正があった場合
課題
所得稼得手段の多様化によって、無申告事案の発生リスクが高まっている。積極的な行為が伴わない等の理由から、仮装隠蔽の事実が認定できず重加算税を賦課できなかった事例の中には、単純な失念等ではなく、申告の必要性を認識しながら故意に申告をしていない者もいると考えられる。
ICTを活用した取引の拡大等によって無申告リスクが増大しており、無申告への重加算税賦課が困難であることを奇貨として意図的な無申告を行う相当悪質な者がいると考えられ、また、「記帳義務や書類保存義務がない所得もあり尻無申告に対する重加算税賦課がさらに困難な場合も存在することは法律でクリアしていくべき課題。」との指摘(R3. 11. 19政府税制調査会における政府税調専門家会合での議論報告より)がされており、社会通念に照らして申告義務を認識していなかったとは言い難い規模の高額無申告への対応が必要。
※ 帳簿の提出がない場合等の加算税の加重措置(令和4年度改正)では、記帳義務のない雑所得に係る利益の無申告(暗号資産の無申告等)は対象外となる。
また、高額無申告でない者についても、申告の必要性を認識しながら申告をしていない者や、調査忌避や検査妨害等により実態解明を困難にし、不当に納税額を減少させようとする者等、現行制度で十分に対応できていない類型に対しては、適切に申告・調査対応等を行っている納税者との間で公平性を損なうことがないよう、制度的対応を検討する必要がある。
改正意見
期限後申告又は決定を行った場合の無申告加算税の税率について、納税額(増差税額)が300万円を超える部分の無申告加算税の割合を30%に引き上げる。
また、単純な失念等ではなく、申告の必要性を認識しながら申告をしていない者や、調査忌避や検査妨害等により実態解明を困難にし、不当に納税額を減少させようとする者等に、現行制度で十分に対応できていない類型に対して、加算税率の加重措置等を設ける。
確定申告不要制度等の見直し
現行制度
給与所得者については、給与所得以外の所得が20万円以下の場合は、確定申告義が免除される(所法 121)。
確定申告書に記載する源泉徴収税額については、源泉徴収をされた又はされるべき所得税の額を記載することとされている(所法120)
課題
現行制度においては、給与所得者の申請誤りに基因した年末調整誤りが散見されるところ、当該誤りの是正は、給与支払者による年末調整のやり直し(再調整)で対応している。
給与支払者の負担軽減の観点から、年末調整の誤りについては、納税者自身が確定申告で是正できるようにする必要がある。
改正意見
確定申告不要制度について、正しい源泉徴収税額が徴収されていない場合には、確定申告不要制度を適用できないようにする。
確定申告書に記載する源泉徴収税額については、源泉徴収された所得税の額を記載することとする。
公益法人等に係る課税所得の範囲の適正化
現行制度
公益法人等については、その行う事業の公益性から、収益事業(法人税法施行令で定める34事業)から生じた所得のみが課税の対象とされ、それ以外の所得は課税の対象から除外されている(法法4、2十三、法令5) 。
課題
① 公益法人等の課税所得の範囲の適正化
公益法人等に対する課税は、公益法人等が法人税法施行令に限定列挙された収益事業を行った場合になされる。収益事業課税の趣旨は、営利法人と公益法人等との間のイコールフッティングであり、その趣旨からすれば、営利法人が適正な対価を取って行うような事業は、全て課税対象とするのが本来の姿であると考えられる。しかしながら、現行制度の下では、営利法人等が行う事業を公益法人等が非課税で行っており(注) 、同ー事業を行う営利法人と公益法人等との間における不公平のほか、収益事業を行う公益法人等とそうでない公益法人等との間にも不公平が生じている。
(注)例えば、公益法人等がスポーツ教室や語学教室、パソコンなどの技能教室を営むことで所得を得ていたとしても、技芸教授業(法令5①三十)に該当せず、課税の対象にならない。
② 請負業の範囲及び非課税要件の明確化
イ収益事業の1つである請負業は「請負業(事務処理の委託を受ける業を含む。)」(法令5①十)と規定されており、請負(民法632) のほか委任(民法643) や準委任(民法656)をも含む広い概念であると解されている。そのため、収益事業として特掲されている事業の中に請負業的な性格を有するものが少なくなく、特掲されている事業に該当しない場合において、請負業に該当するかしないかが明確でない。
(注)例えば、野外で行う保育活動の委託を受けた場合において、それが幼児教育の要素があるときは、技芸教授業として判断するのか、請負業として判断するのか明確でない。
ロ公益法人等が国・地方公共団体から事務処理の委託(請負業)を受ける場合であっても、それが「法令」の規定に基づき、かつ、実費弁償的に行われるなど一定の要件を満たせば非課税となる(法令5①十イ、法規4の2)。しかしながら、事務処理の受託としての性質を有する事業の中には、「法令」の規定に基づかなくても、実費弁償的な対価で行われるものも少なくない。
改正意見
① 公益法人等に係る課税所得の範囲を「対価を得て行う全ての事業から生じた所得」に拡大する。
② 請負業の範囲を明確化するとともに、非課税となる実費弁償的な要件を適正化する。
一部の相続人等から更正の請求があった場合の他の相続人等に対する除斥期間の延長
現行制度
相続等により財産を取得した相続人等に係る相続税額は、その被相続人からその財産を取得したすべての相続人等に係る相続税の総額を、各相続人等の取得した財産の価額(課税価格)の割合であん分して計算した金額によることとされている(相法17) 。
相続税に係る除斥期間は、その法定申告期限(相続の開始があったことを知った日から10月)から5年間とされているが(通法70①)、更正をすることができないこととなる日前6月以内にされた更正の請求に係る更正は、当該更正の請求があった日から6月を現行制度1経過する日まですることができることとされている(通法70③)。
一方、相続税法においては、相続税(又は贈与税)の課税上、特別の事由がある場合に対処するため、除斥期間等に関して国税通則法に定める一般的な規定に対する特例が定められている(相法35)
課題
更正をすることができないこととなる日の直前(除斥期間が満了する直前)に、一部の相続人等から更正の請求がされた場合、当該一部の相続人等(以下「請求者」という。)の除斥期間は、当該更正の請求があった日から6月を経過する日まで延長される。
一方、各相続人等の相続税額の計算上、一般には、請求者の課税価格に異動があった場合に、当該請求者以外の相続人等の課税価格又は相続税額も異動する。そのため、除斥期間が満了する直前に更正の請求がされた場合は、その請求者については、除斥期間が延長された結果、当該更正の請求に基づく減額更正をすることができるが、それに伴って課税価格又は相続税額に異動が生じた請求者以外の相続人等については除斥期間を経過してしまい、減額更正又は増額更正等をすることができず、相続税を適正に課税することができないという事態が生ずる。
改正意見
国税通則法第70条第3項の規定による更正の請求により除斥期間が延長され、当該更正の請求に基づく更正が行われた場合、相続税額の計算上影響する請求者以外の相続人等についても、当該延長された期間まで除斥期間を延長する措置を講ずる。
※ ただし、当該請求者以外の相続人等に係る除斥期間内に更正の請求がされた場合に限る。
消費税の輸出物品販売場制度(免税店制度) の適正化
現行制度
消質税の輸出物品販売場制度(免税店制度)とは、税務署長の許可を受けた輸出物品販売場を経営する事業者が、法令に定める所定の免税販売手続を行うことにより、外国人旅行者等(非居住者)に対して通常生活の用に供する物品(免税対象物品)を譲渡する際に、当該譲渡についての消費税を免除する制度(消費税法第8条第1項) 。
免税対象物品を購入した非居住者は、税務署長の承認がない限り、当該免税対象物品を国内において譲渡してはならないこととされ(同条第4項)、当該承認を受けずに国内において譲渡した場合には、当該譲渡した者(非居住者)に対して、免除に係る消贅税相当額を直ちに徴収することとされている(同条第5項) 。
課題
令和3年10月以降免税販売手続が電子化されたことにより、国内において譲渡されていることが疑われる多量・多額な免税販売の実態が顕在化しており、国税当局においては、輸出物品販売場を経営する事業者のほか、購入側の非居住者に対しても積極的に調査を実施しているところ。
その結果、不正な国内譲渡の事実を認定できた場合には、消贄税相当額を賦課決定しているが、対象者(非居住者)は国外に出国してしまう場合が多く、国内に特段の資産等も有しないことから、その大半は徴収できない状況にある。
こうした状況について執行のみで対応していくことは一定の限界があり、制度的な対応についても検討する必要がある。
改正意見
付加価値税を導入している欧州各国等の制度も参考とじつつ、輸出物品販売場制度の適正化に向けた必要な措置を講ずる。
滞納処分のための質問検査等の対象の明確化
現行制度
徴収職員は、滞納処分のため滞納者の財産を調査する必要があるときは、その必要と認められる範囲内において、次の①~④に掲げる者に質問し、又はその者の財産に関する帳簿書類(電磁的記録を含む。)を検査することができる(国税徴収法第141条)。
① 滞納者(同条第1号)
② 滞納者の財産を占有する第三者及びこれを占有していると認めるに足りる相当の理由がある第三者(同条第2号)
③ 滞納者に対し債権若しくは債務があり、又は滞納者から財産を取得したと認めるに足りる相当の理由がある者(同条第3号)
④ 滞納者が株主又は出資者である法人(同条第4号)
徴収職員は、滞納処分に関する調査について必要があるときは、官公署又は政府関係機関に、当該調査に関し参考となるべき帳簿書類その他の物件の閲覧又は提供その他の協力を求めることができる(国税徴収法第146条の2) 。
課題
令和3年度税制改正における電子帳簿保存法の改正等において、適用要件の大幅な緩和等が行われたことなどから、今後、財産情報や取引記録等を電子保存する納税者等が一層増加することが見込まれるところ、滞納処分のための質問検査規定については、国税通則法第74条の2等の規定と異なり、検査の対象に「その他の物件」が含まれておらず、物件の提示・提出を求める規定もない。
したがって、滞納処分のための調査において納税者等のPCに保存されている記録、データの検査、徴収職員への提供、ダウンロード等を求めた場合、根拠規定が明確でないことを理由に納税者等から拒否され、質問検査に支障をきたすケースがある。
滞納処分の調査のために行う官公署等への協力要請の対象について、国税通則法第74条の12の規定と異なり「事業者」が対象となっていないことから、滞納処分の調査に必要がある場合でも、これらの者に協力を求める根拠がなく、納税者等から協力を拒否される事例もあり、滞納処分の円滑な執行に支障をきたすケースがある。
改正意見
国税徴収法第141 条について、
① 検査の対象に「その他の物件」を加える。
② 検査の対象となる物件について「提示・提出」を求めることができる規定及び提出された物件の留置きができる規定を加える。
③ 第3号の対象者の範囲を明確化する。
国税徴収法第146 条の2 について、
① 協力要請の対象に「事業者」を加える。
滞納処分免脱罪の適用対象の見直し
現行制度
納税者が滞納処分の執行又は徴収共助の要請による徴収を免れる目的でその財産を隠ぺいし、損壊し、国の不利益に処分し、又はその財産に係る負担を偽って増加する行為をしたときは、滞納処分免脱罪が適用される(徴法187①) 。
徴収共助対象者が滞納処分の執行を免れる目的で上記の行為をしたときも、滞納処分免脱罪が適用される(実特法13①) 。
課題
例えば、差し押さえた土地上に多量の廃棄物が持ち込まれると、その差押財産の価値が著しく減少し、又はその除去に過大な費用を要する状態となるため、公売の執行を断念せざるを得ず、又は公売を実施したとしても公売成立が困難となる。
上記の行為に対しては、差押不動産の使用収益を制限する措置(徴法69) を採ることが考えられるものの、同措置になおも従わない者に対しては、滞納処分免脱罪(徴法187、実特法13①)の適用を検討するほかない。
しかし、上記の行為は、差押財産自体に損傷を与える行為とはいえないため、「損壊」(徴法187①、実特法13①)に該当せず、滞納処分免脱罪の適用対象外と解されている。なお、民事における強制執行の場合は、上記の行為は、「その現状を改変して、価格を減損し、又は強制執行の費用を増大させる行為」として、強制執行妨害目的財産損壊等罪(刑法96の2二)が適用されることとなる。しかしながら、刑法96条の2と国税徴収法187条が一般法と特別法の関係にあるため、滞納処分の場合は、刑法の強制執行妨害目的
財産損壊等罪は適用されないこととなる。
改正意見
差押不動産上に廃棄物を集積する等の差押財産の価値を減損し、又はその除去費用を増大させる行為について、滞納処分免脱罪の適用対象に加える。
消費税不正事案に係る国税の保全を図るための関係法令の整備
現行制度
現行制度上、法定申告期限後の国税の早期保全措置として次の規定がある。
納税義務があると認められる者が不正に国税を免れ、又は国税の還付を受けたことの嫌疑に基づき、国税通則法第十一章(犯則事件の調査及び処分)の規定による差押え等を受けた場合において、その処分に係る国税の納付すべき額の確定後においては当該国税の徴収を確保することができないと認められるときは、税務署長は、当該国税の納付すべき額の確定前に、その確定をすると見込まれる国税の金額のうちその徴収を確
現行制度保するためあらかじめ滞納処分を執行することを要すると認める金額(「保全差押金額」)を決定し、徴収職員は、その金額を限度として、その者の財産を直ちに差し押さえることができる(国税徴収法第159条) 。
税務署長は、納税者の財産につき強制換価手続が開始されたときなど、一定の要件に該当する場合には、納付すべき税額の確定した国税でその納期限までに完納されないと認められるものがあるときは、その納期限を繰り上げ、その納付を請求することができる(国税通則法第38条第1項)。この場合、徴収職員は、当該請求に係る期限までに完納されないときは、財産を差し押さえることができる(国税徴収法第47条) 。
課題
消貨税不正還付事案について、課税調査の着手後に納税者が事業を廃止し、課税後、滞納処分に着手できるようになったときには、保全すべき財産がないケースがある。
事業を廃止した場合、債権者から負債の一括弁済などを求められ、納付資金が私債権の弁済に費消されるなど、税務調査による税額確定後では徴収が困難となることがあり得るが、保全差押えは犯則事案に限られているため、仮装・隠蔽行為により不正に消費税の課題還付を受けた事案であっても、税額確定前に財産を保全することができない。また、財産の差押えは、納期限経過後、督促以上を発してから10日を経過した日以後に滞納処分が可能となるが、事実上事業を廃止したことのみでは、繰上請求の客観的要件に該当しないことから、納期限を繰り上げて徴収することもできない。そのため、このような消費税不正事案の調査後に事業を廃止した事案については、現行制度上、早期保全のすべがない。
改正意見
①仮装・隠蔽行為により不正に消費税の還付を受けたと認められるなどの事案について、税額確定後においては徴収確保が困難であると認められるような場合には、納税者に伝えた納付すべき税額又は調査対象期間に受領した還付金額に一定割合を乗じた額を「保全差押金額」として、税額確定前の保全差押えを可能とする。
② 繰上請求の客観的要件に、破産法2条11項の「支払不能」に相当する状態になったことを加え、手形不渡り(電子債権支払不能通知を含む。)により銀行取引停止処分を受けた場合や受任弁護士から債権者に債務整理の受任通知が送付された場合など、納期限まで待っては国税の徴収が困難となるような客観的事実が生じた場合には、納期限を繰り上げて滞納処分ができることとする。
外国子会社配当益金不算入制度の適用対象となる配当等の見直し
現行制度
外国子会社配当益金不算入制度において、内国法人が外国子会社から受ける剰余金の配当等の額の95%相当額については益金不算入とされているが(法法23の2①)、当該外国子会社の所在地国の法令において当該外国子会社の所得の金額の計算上損金の額に算入することとされているもの(以下「損金算入配当」という。)については、益金不算入の対象から除外されている(法法23の2②-)。これは、損金算入配当を受けた内国法人において外国子会社配当益金不算入制度により益金不算入となる場合には、国際的な二重非課税が生じることになり、これを防止するため、OECDの「税源浸食と利益移転(BEPS) プロジェクト」の勧告を踏まえ、平成27年度税制改正において、外国子会社配当益金不算入制度の対象から除外されたものである。
課題
???
改正意見
???
???に係る取扱いの適正化
現行制度
外国子会社配当益金不算入制度において、内国法人が外国子会社から受ける剰余金の配当等の額の95%相当額については益金不算入とされているが(法法23の2①)、当該外国子会社の所在地国の法令において当該外国子会社の所得の金額の計算上損金の額に算入することとされているもの(以下「損金算入配当」という。)については、国際的な二重非課税に対応するために、益金不算入の対象から除外されている(法法23の2②一)。現行制度1 また、外国子会社合算税制において、内国法人の所得の合算対象となる外国関係会社の適用対象金額の計算上、外国関係会社がその子会社から受ける剰余金の配当等の額(以下「孫会社配当」という。)は控除する(合算対象としない)一方で、損金算入配当は適用対象金額から控除するものから除外する(合算対象とする)こととされている(措法66の6②四⑥一⑦、措令39の15①四、39の17の3④)
課題
上記のとおり、国際的な二重非課税に対応するため、外国子会社配当益金不算入制度及び外国子会 社合算税制において、損金算入配当に関する所要の調整規定が設けられている
???
改正意見
???
外国子会社合算税制(租税負担割合の計算方法) の適正化
現行制度
外国子会社合算税制では、特定外国関係会社の各事業年度の租税負担割合が30%以上の場合には、本税制を適用しないこととされている(措法66の6⑤-) 。
この租税負担割合の分子となる「外国法人税の額」について、外国関係会社の本店所在地国の外国法人税の税率が所得の額に応じて段階的に商くなる場合には、これらの税率のうち最も高い税率であるものとして算定した外国法人税の額とすることができる特例(以下「複数税率特例」という。)が設けられている(措令39の17の2②四) 。
課題
今般、実質的に税負担の著しく低い国に所在する外国子会社が外国子会社合算税制の対象とならない次の事例を把握した。
(事例)
???
改正意見
このような事例について、外国子会社合算税制の適用が免除されないよう措置する必要があることから、租税負担割合の計算方法を見直し、複数税率特例を廃止する。
消費税不正還付関係?
現行制度
消費税の不正受還付については、消費税法64条において、偽りその他不正の行為により、消費税を免れ又は還付を受けた者に対して、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する旨の規定が存在する。
課題
???
改正意見
消費税法における還付制度は、多段階課税によって発生することになる累積課税を回避するため、その課税期間において、仕入れに係る税額が課税資産の譲渡等に係る税額を超過する場合(消費税法46①)において、当該超過額に相当する金額の還付を受けるもので、納付すべき税額の有無にかかわらず適用される。また、本制度を前提とすると、消費税法上の不正受還付犯は抽象的租税債権の有無にかかわらず、成立するといえることから、消費税受還付犯に固有の問題であると考えられる。
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