令和6年9月に国税庁で行われた令和6年9月国税庁・全国国税局課税(第一・第二)部長(次長)会議資料資料 の内容を抜粋してご紹介します。
課税部におけるデータ活用の推進に向けた取組体制の検討
国税組織におけるデータ活用の推進に当たり、平成30 事務年度から令和8事務年度までの9年間を、離陸期(平成30~令和2事務年度)、普及期(令和3~5事務年度)、発展期(令和6~8事務年度)の3期に分け、各期に対応した中期計画を策定し、取組を着実に推進しているところ。
普及期以降は、令和3年7月1日付官参1-45 ほか30 課共同「データ活用推進第二次中期計画について」(指示)に基づき各国税局にデータ活用担当を設置し、全庁的なデータ活用の推進に取り組んでいる。
発展期終了後のデータに基づく事務運営の浸透・常態化に向けては、限られた人材や分析環境を有効活用するための全庁的な取組体制の検討が必要となる。
本会議では、各局取組の現状を踏まえた上で、発展期終了後の課税部におけるデータ活用の取組体制について意見交換を行う。
【意見交換事項】
事務運営の課題をデータ活用で解決する施策の検討は引き続き主務課が担うべきと考えるが、その実現に当たっては、高度なデータリテラシー等が必要となる。
また、人材育成やノウハウの継承という観点でみると、予測モデル・調査選定ツール等の構築や局内データ活用取組の把握・管理などは専担部署(例えば情報システム課や(東京・大阪を中心とした)都市局主務課)に集約することも一案と考えるが、各局課税部における現状の取組及び情報システム課等との連携状況を踏まえ、各局の意見如何。
令和6年分確定申告に向けた取組等
令和6年分確定申告においても、確定申告期前後の外部事務量を確保するため、引き続き、自宅等からのe-Tax を利用した申告の推進や確定申告会場運営の効率化に向けた取組を実施する。
⑴ 自宅等e-Tax の推進
自宅等からのe-Tax を利用した申告へ移行しやすい層へのDM 送付、大口源泉徴収義務者へトップセールスや地方公共団体への働きかけなど、あらゆる施策を実施することにより、自宅等からのe-Tax を利用した申告の促進を図る。
⑵ 確定申告会場運営の効率化
令和6年分確定申告においては、「マイナンバーカード方式を基本とした会場運営」の実施により翌年以降の来場者を抑制するとともに、確定申告会場における相談効率の向上に努めることにより、確定申告事務の効率化を図る。
なお、令和6年分確定申告は、定額減税の実施に伴い、年金所得者を中心に相談・申告件数の増加が想定されるため、確定申告期前における問い合わせ等に適切かつ効率的に対応するとともに、確定申告電話相談センター及び確定申告会場の体制を拡充して適切な相談体制を構築する。
真に調査すべき者への対応
1 消費税不正還付への対応
消費税不正還付への対応については、庁に「消費税不正還付PT」を設置し、関係部署間の情報共有、連携を強化するとともに各局署では、課税部重点課題の1 つとして精力的に取り組んでいる。しかしながら依然として、消費税不正還付事案は絶えず、調査で追徴課税しても徴収困難となり、滞納となる事案が発生している。
このような状況を踏まえ、令和6事務年度においても不正還付を企図しにくい環境整備、不正還付が想定される納税者を早期に把握の上確実に還付保留する体制の構築など、不正還付の未然防止について重点的に取り組んでいく必要がある。
【意見交換事項】
消費税不正還付については、上記のような各施策に部署横断的に取り組んでいく必要があると考えているが、令和5事務年度に各局のボトルネックとなりうる諸課題として挙げていた事項やその他想定される課題・懸念事項を踏まえ、各局の令和6事務年度の取組方針等(課題等に対する取組方針、特に強化すべきと考える取組内容等)如何。
2 重点管理富裕層に係るデータを活用した管理等
重点管理富裕層は、管理対象者のみならず、関係する個人及び法人も含めて継続的・一体的に管理し、情報収集及び複数税目からの多角的な分析に全国で取り組むこととしている。富裕層管理の効率化・均質化を図るため、データを活用した施策として、「富裕層特化型モデル」を令和5事務年度末に各局へリリースしたところ、今後各局の意見を踏まえつつ、継続的に改良する予定である。
3 納税者の保有する国外財産の捕捉
令和5事務年度より、納税者が保有する国外財産を捕捉するための取組について各局と意見交換をしてきたところ、令和6事務年度においては、各局において、どのように国外財産(関連取引を含む。)を捕捉し、課税上の問題点を把握しているかについて情報共有することで、国際事案への対応に係るノウハウの向上を図ることとしたい。
4 租税回避スキームへの対応
租税回避スキームに関しては、令和2事務年度以降、「真に調査すべき者(事案)」の一類型として位置付け、情報収集や事案の蓄積を図った上で税制改正や運用改善につなげる等の対応を行ってきた。今事務年度においても、引き続き、局幹部のコミットメントの下、情報収集等に積極的に取り組んでいくことが重要である。
e-Tax の普及・定着に向けた取組
国税申告手続のオンライン利用率の向上については、「規制改革実施計画」(令和3年6月18 日閣議決定)に基づき策定された「オンライン利用率引上げに係る基本計画」(令和5年10 月20 日改定)において、オンライン利用率の具体的な目標値を定め、オンライン利用率の目標達成に向けて、各種取組を実施しているところである。
また、令和8年度の業務センターの全国拡大を見据えると、内部事務の効率化やICT・データの活用を一層推進することが重要となり、これまで以上に組織を挙げて利用率向上に向けて取り組む必要がある。
1 相続税申告のオンライン利用率の向上に向けた取組
相続税申告のオンライン利用率は、令和6年度以降は更に高い目標値(※KPI⇒令和6年度:48.0%)が設定されているところ、利用勧奨に当たっては、相続税申告の税理士関与割合が高いことを踏まえ、幹部のトップセールスを含め、引き続き、庁局署一体となって、税理士等に対する積極的な利用勧奨に取り組む必要がある。
2 法人税申告におけるALL e-Tax 推進の取組
法人税申告のオンライン利用率は、年々増加しており、既に相当程度高い水準に達しているなか、添付書類を含めたe-Tax 提出(ALL e-Tax)についても、これまでも庁局署が一体となって、その普及・定着に向けて取り組んできたところ。
今後、ALL e-Tax の更なる普及・定着を目指していくためには、個々の税理士等が使用する税務(申告)ソフトに応じた効果的な利用勧奨を実施する必要がある。
インボイス制度の円滑な定着に向けた取組
インボイス発行事業者の登録件数は、令和6年8月末日時点で約458 万件となっているところ、インボイス制度の円滑な定着に向けて、令和6事務年度も引き続き制度の周知を行うとともに、インボイスの登録をするか否かを検討している事業者をはじめ、個々の事業者の立場に寄り添った丁寧な相談対応等に取り組む。
内部事務のセンター化
1 内部事務のセンター化の取組
「内部事務のセンター化(以下「センター化」という。)」は、内部事務について、事務系統横断的な事務処理体制を整備し、署窓口から分離して専担化した組織(業務センター)で、事務と人を集約して処理することで、事務の正確性の確保とともに、事務の効率化を目指すものである。効率化により確保できた事務量については、実地調査や徴収のほか、行政指導やデータ分析など、環境変化に適切に対応するための事務量に充てることとしている。
令和8事務年度には、KSK2の導入が予定されており、各種事務処理が、全面的にシステムでのデータ処理に移行することとなるが、その基盤となる、申告書等の情報の「データ化」や、修正申告や納税地の異動などがあった場合の「データ更新」などは、業務センターがその主体となる。このように、センター化は、国税組織の事務運営をデジタル時代に相応しいものへと転換する上で基盤となる取組でもあり、着実に推進していく必要がある。
2 令和5事務年度の状況
⑴ 業務センター等の機能
業務センター職員数が増加する中、緊急時対応や職員管理、専門的知識を必要とする事務の増加に対応していくため、業務センター等に審理機能や情報化機能等を設置するなどの対応を行った。
⑵ 事務処理体制
業務センターの円滑な運営のため、事務の簡素化・標準化といったこれまでのBPRの取組に加え、事務系統の垣根を越えた既存事務の見直し、類似事務の統合などの取組を実施するとともに、KSK2導入後の通常期及び確定申告期の事務処理体制について検討を進めた。
⑶ 行政指導
業務センターが納税者のコンプライアンス向上の一翼を担う部署として機能していくため、行政指導事務の運営方法や実施体制について検討を進め、その充実を図った。
3 令和6事務年度の課題
⑴ KSK2を活用した事務運営・事務処理体制の検討
KSK2の導入を見据え、KSK2の機能を踏まえた事務処理体制や事務管理等について検討を進める。
⑵ センターの安定的な運営とBPRの推進
事務の共同処理の更なる充実や、BPRの更なる推進を図るとともに、令和8事務年度の業務センターの円滑な全署実施に向けた準備を進める。
⑶ 行政指導の充実
効果的・効率的な事務処理体制や事務処理手順の整備など、行政指導の更なる充実に向けて検討を進める。
⑷ KSK2の導入に向けた準備KSK2を円滑に導入するため、職員研修やテスト運用の準備を進める。
KSK2・GSSの導入
1 GSS(ガバメントソリューションサービス)について
GSS(ガバメントソリューションサービス)は、行政機関の業務用端末やネットワーク環境などの業務実施環境を、政府共通の標準的な環境としてデジタル庁が提供するサービスである。国税庁においては、令和7年7月以降、順次GSS環境へ移行し、令和8年6月に全国運用を開始した後、令和8年9月からはKSK2の運用を開始する予定である。
このため、利便性とセキュリティ確保のバランスを踏まえた上で、引き続き、GSS導入に向けた取組を全庁的に進めていく必要がある。
2 KSK2について
KSK2の開発状況
KSK2の開発は、現在、プログラムの作成やメーカーによるテストを進めている段階であり、おおむね順調に進捗している。
令和7年3月には、機器も設置し、その後は、プログラム、ハードウェア、ネットワーク、利用者端末などを組み合わせ、本番とほぼ同じ環境で動作を確認する「総合運用テスト」工程に入っていく。
KSK2導入に向けた取組
KSK2は、国税の賦課・徴収の基盤となる「基幹システム」であり、導入の成否によっては、職員の職務遂行のみならず、納税者の申告・納税義務の履行に多大な影響を及ぼすおそれがある。
そのため、KSK2の円滑な導入に向けて、開発作業のみならず、「データ移行」・「外部接続先との連携」といった、全庁的な課題については、全庁的な理解の下、各課の役割分担をしっかりと定め、検討を進めていく必要がある。
なお、事務処理手順の確認を目的として、令和7年10 月から令和8年3月の間、4拠点の業務センター(東京局大手町分室、大阪局大手前分室、金沢局業務センター、福岡局春日分室)において「テスト運用」を実施する予定である。さらに、職員の習熟度の向上を目的として、令和8年4月以降順次、全職員(非常勤職員を含む)を対象とした「研修」を実施する予定である。
調査課事務運営
1 事務運営の基本方針
調査課は、大法人の税務コンプライアンスの維持・向上に努めることを通じて、税務行政全体における適正・公平な課税の実現を図ることを使命とし、その果たすべき役割を「署では対応が困難な事案等を担当すること」及び「組織内外に大きな波及効果を及ぼすこと」としている。
こうした役割を果たしていくため、リスク・ベース・アプローチに基づき、実地調査による複雑・困難事案への的確な対応と大法人と協調関係を築いた上で自発的な税務コンプライアンスの維持・向上に導く協力的手法を効果的に組み合わせて所管法人全体を適切に監理することとしている。
2 評価指標に基づく調査事務
調査に当たっては、税務リスクが高い事案に取り組むことはもとより、調査課の役割を踏まえ重点的に取り組むべき分野へ優先的に事務量が配分されるよう促していく必要がある。
このため、新たな評価指標を策定し、調査課職員に当該分野への積極的な取組・事務量配分を促すともに、部次長・統括官等の幹部職員が当該分野への取組状況を適時・適切に把握・確認し、その分析・検証結果を各局の事務運営に反映させていくこととしている。
3 税務に関するコーポレートガバナンスの充実に向けた取組
大法人の税務コンプライアンスの維持・向上のためには、税務に関するコーポレートガバナンス(以下「税務CG」という。)を充実させていくことが重要かつ効果的であり、特別国税調査官所掌法人等に対して、その充実を促すことに取り組んでいる。
同取組をより効果的かつ効率的に実施する観点から、今後の方向性等について検討していく必要がある。
4 調査部事務におけるDXの推進
法人情報管理統合システムを基盤とした全国一体的な調査事務運営に当たり、継続的に当システムの利便性や精度の向上に向けて分析・検討を進めるとともに、ガバメントソリューションサービス(GSS)等導入後を見据えたアプリケーションや調査事務等における生成AIの利活用に向けた検討も進め、より一層データ活用を「実装」させていく必要がある。
5 戦略的な情報企画の取組
産業・経済の成長領域において、各種の課税上の問題・課題が顕在化・拡大する前に、これを的確に捕捉・分析の上、迅速に対応を検討・判断できるよう、より前広な情報収集・分析機能の強化、収集情報の組織的な共有・対応を行うことが必要不可欠である。
調査課においては、業界・地域を代表、リードする大法人を所管しており、調査等を通じて培った先端取引に関する専門的知識、業種ノウハウ及び情報を国税組織全体に還元することが役割として求められていることを踏まえ、将来的な課税リスクを見据えた中期的な観点による情報収集に取り組んでいく必要がある。
6 国際課税の充実
経済社会の国際化に伴う課税上の問題の複雑化など、国際課税を取り巻く環境変化に対して効果的かつ効率的に対応するため、都市4局の国際課税を担当する部署が中心となり、 国際課税リスクの高い海外取引の把握及び実態解明に積極的に取り組み、移転価格調査や複雑な海外取引を行う法人について多角的な観点から調査を実施する必要がある。
全国均質かつ整合的な事務運営を実施するため、都市4局は、センター局(東京局・大阪局)を中心に、リスク・ベース・アプローチに基づきつつ、移転価格等の専門性が高い分野を中心とした地方局調査事案を支援していくこととしている 。
また、令和6年4月に施行された「各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税( 所得合算ルール・ IIR)」に係る対応に関しては、法令解釈通達、Q&A等を公表するとともに、職員向け研修を実施してきたところ。庁局で連携し、外部からの質疑に的確に対応しており、今後も、積極的な制度の周知・広報等を進めるとともに、数か月に一度発出される執行ガイダンス、追加の税制改正等も踏まえて、適切に対応していく。
国際分野における最近の動向
1 国際会議等を通じた積極的な知見の共有等
⑴ OECD税務長官会議(FTA:Forum on Tax Administration)
FTAは、税務行政上の課題について、知見の共有や意見交換等を行うため、OECD租税委員会の下に設置された税務当局の長官級フォーラムであり、現在OECD加盟38 か国及び非加盟15 か国・地域が参加している。
令和5年10 月には、FTAの全参加国の長官クラスで知見の共有等を行うために令和元年以降毎年開催されているFTAの本会合がシンガポールで開催され、43 か国・地域の長官クラスが参加し、税務行政のデジタルトランスフォーメーションや2つの柱の解決策の実施と税の安定性、税に関するキャパシティビルディング等について意見交換が行われた。
次回は、令和6年11 月にギリシャ(アテネ)で開催予定。
⑵ アジア税務長官会合(SGATAR:Study Group on Asia-Pacific Tax Administration and Research)SGATARは、アジア太平洋地域における税務行政上の課題について、国際協力及び意見交換等を行うための会合であり、現在18 か国・地域が参加している。
令和5年10 月末から11 月頭には、第52 回SGATAR年次会合がタイで開催され、各国・地域の長官クラス(18 か国・地域)が参加した。長官会合では、各国・地域の長官等が、「『第2の柱』の執行」や「税務コンプライアンスにおけるデータ分析」、「デジタル経済における間接税(GST/VAT)」について議論を行った。また、実務者クラスの分科会では、「移転価格(無形資産の評価)」、「タックスペイヤージャーニーのデジタル化」及び「国別報告書(CbCR: Country by Country Report)の実施と情報の効果的活用」の3つのテーマに関する議論が行われた。
次回は、令和6年10 月に韓国(ソウル)で開催予定。
⑶ 税の透明性と情報交換に関するグローバル・フォーラム(GF:Global Forum on Transparency and Exchange of Information for Tax Purposes)
GFは、OECDにより設置された、税務目的の情報交換の促進や開発途上国向け技術協力等に取り組むフォーラムであり、OECD非加盟国を含む171 か国・地域が加盟し、各国の「要請に基づく情報交換」及び共通報告基準(CRS:Common ReportingStandard)に基づく非居住者金融口座情報(いわゆる「CRS情報」)の「自動的情報交換」の法制・執行両面の相互審査を実施している。
令和5年11 月の年次総会では、相互審査の進展状況と今後の予定、令和7年以降に開始される新たな相互審査制度の枠組み、開発途上国支援の状況と方向性、暗号資産等取引情報報告制度(CARF:Crypto-Asset Reporting Framework)導入に向けた対応を討議・合意したほか、作業部会の成果物承認及び方向性確認が行われた。
次回年次総会は、令和6年11 月にパラグアイ(アスンシオン)で開催予定。
⑷ アジア・イニシアティブ会合
アジア・イニシアティブは、アジア地域における税務当局間の情報交換等促進を目的として、GFにより令和3年11 月に立ち上げられた枠組みであり、現在、アジア地域の17 か国・地域及びオブザーバー(ADB・世銀等5機関)が参加している。
令和6年6月の第6回会合では、年次報告書が発表され、当該報告書に基づくアジア地域の税の透明性の進捗状況についてパネル討議を実施。更なる情報交換の促進及びキャパシティビルディングの実施継続の必要性が確認された。また、令和7年までの活動計画が承認されたほか、実質的支配者情報の透明性確保、間接税(GST/VAT)目的の情報交換に関する課題への対処、CRS情報の効果的活用、情報交換が歳入に与える影響の効果測定の重要性等について議論が行われた。
次回会合は、上記GF年次総会(令和6年11 月、パラグアイ(アスンシオン))に併せて開催予定。
2 外国税務当局との執行協力の拡充
⑴ 情報交換の状況
我が国は、租税条約等に基づき、多数の国・地域の税務当局と租税の賦課徴収に関連する情報を交換しており、令和4事務年度には、個別事案の情報交換(約900 件)やCRS情報の交換(約305 万件)含め約390 万件の情報の交換を行った。
なお、令和6年7月末時点で、我が国を含む58 の国・地域がCARFの導入及び令和9年の交換開始に向けて取り組む旨の声明を発表しており、我が国も、令和9年以降に報告・交換を実施するべく、令和6年3月に改正法を、同年6月に改正令及び改正省令をそれぞれ公布済みである。
⑵ 徴収共助の状況
徴収共助とは、税務当局にとっては自国の領域外では公権力を行使できないという制約がある中、租税条約等に基づいて各国の税務当局が協力してお互いに相手国の債権を徴収するという仕組みである。我が国は、多数の国・地域との間で徴収共助が可能となっており、積極的かつ効果的に制度を活用している。
3 相互協議事案の適切・迅速な解決
相互協議については、近年、発生件数が増加傾向にあり、それに伴って繰越件数も増加傾向にある。繰越件数のうち7~8割程度が事前確認に係る事案となっており、引き続き、国税局の審査部局と緊密に連携しつつ、処理促進に取り組んでいくこととしている。
繰越件数の増加に伴い、OECD非加盟国・地域の繰越件数も増加傾向にあり、相互協議事案全体の4~5割程度となっている。このため、相互協議事案の適切・迅速な解決に向け、各国税務当局との連携を密にし、相互協議の円滑な実施を図るとともに、FTAの下に設置されたOECD相互協議フォーラム(MAPF:MAP Forum)に参加するなどの取組を行っている。
4 開発途上国に対する技術協力等の推進
開発途上国に対する技術協力については、政府開発援助の枠組み等の下、開発途上国の税務行政の改善、日本の税務行政に対する理解者の育成等を目的として、独立行政法人国際協力機構(JICA)等と連携し、引き続き積極的に取り組んでいく。
また、当該技術協力を国内で実施する場合には、国税局・税務署等の現場視察の要望が多く、こうした要望にも局署の協力を得ながら、積極的に対応することとしている。
5 国際課税制度の見直しに係る議論
経済のグローバル化・デジタル化に伴うビジネス形態の変化が進む中で、経済実態を反映した国際課税制度の見直しが議論され、令和3年10 月、OECD及びG20BEPS包摂的枠組み(IF:Inclusive Framework)で二本の柱について合意が取りまとめられた。その後、令和5年7月には、同年の後半に多数国間条約の条文を確定させて、同年末までに署名式の開催を目指す旨のIFのステートメントが公表され、令和6年5月には、同年6月末までに署名式の開催を目指す旨のIF共同議長のステートメントが公表
された。令和6年7月に発表された、G20財務大臣会合のコミュニケ及び国際租税協力に関する閣僚宣言において、「第1の柱」に関する最終パッケージの交渉を迅速に妥結することを奨励する旨が記載されている。
⑴ 第1の柱(利益A/利益B)
「第1の柱」のうち「利益A」は、新たな多数国間条約の締結により、グローバル企業グループが物理的拠点(いわゆるPE)なしに活動する市場国に対しても新たに課税権を配分する制度である。当初は全世界売上が200 億ユーロ超かつ利益率が10%超のグローバル企業グループを対象とし、条約発効の7年後にレビューを行い、円滑な制度実施を条件に、売上閾値を100 億ユーロに引き下げることを予定している。この多数国間条約については、後述する利益Bを含む第1の柱に関する最終パッケージの交渉を迅速に妥結した上で可能な限り早期に最終化及び署名開放し、令和7年中の発効を目指すこととされている。
また、「利益B」は、「基礎的マーケティング・販売活動」について移転価格税制の適用の簡素化・合理化を目的とした仕組みとされており、合意された利益Bガイダンスに基づき、令和6年2月にOECD移転価格ガイドラインが改定・公表された。これにより、利益Bの適用を選択した国は、令和7年1月以降に開始する事業年度における自国内の適用対象取引に対して、利益Bを適用できることとされている。
今後は、第1の柱に関して、国際的な議論に引き続き参加するとともに、国際的な合意等を踏まえて、執行の観点から検討を進め、適切に対応していく。
⑵ 第2の柱
「第2の柱」のうちグローバル・ミニマム課税は、年間総収入金額が7億5千万ユーロ以上の多国籍企業を対象として、国際的に合意された最低税率(15%)を下回る国における最低税率までの課税を確保する制度である。
イ OECDにおける議論の状況
OECDにおいて、現在、グローバル・ミニマム課税に関する詳細な取扱いについての議論が継続されており、グローバル・ミニマム課税の一部の取扱いを明記した執行ガイダンスが順次公表されている。令和6年6月には、令和5年中に公表された3つの執行ガイダンスに続き、執行ガイダンス第4弾が公表された。
ロ 法制化への対応グローバル・ミニマム課税のうち、所得合算ルールに係る法制化として創設された各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税については、令和6年4月1日以後に開始する対象会計年度から適用されている(制度創設後も数か月に一度執行ガイダンスが発出され、追加の税制改正等も見込まれる。)。本制度に対応するため、法令解釈通達、Q&A等を公表するとともに、専門的な知識を習得するための職員向け研修を実施してきたところ。令和6年4月の本制度の施行後は、庁局で連携し、外部からの質疑に的確に対応しており、今後も、積極的な制度の周知・広報等を進めるとともに、執行ガイダンス、追加の税制改正等も踏まえて、適切に対応していく。
酒税課、酒類業振興・輸出促進室当面の課題
1 日本産酒類の輸出動向、輸出拡大に向けた取組
2023 年分の輸出金額は1,344 億円(対前年比▲3.4%)となり、過去最高となった2022 年に次ぐ水準となり、足元の2024 年1~7月では、累計輸出金額は780.2 億円(対前年同期比▲6.4%)となった。
政府として、農林水産物・食品の輸出金額を「2025 年までに2兆円、2030 年までに5兆円」とする目標を掲げており、この目標達成に向けて、販路拡大支援や認知度向上等の日本産酒類の輸出拡大に向けた取組を加速させていく必要がある。
2 日本酒、焼酎・泡盛等のユネスコ無形文化遺産登録に向けた取組
「伝統的酒造り」は、令和5年3月にユネスコ無形文化遺産登録に向けた提案書が再提出されており、今後は令和6年12 月に政府間委員会において審議・決定が見込まれている。
国税庁としては、引き続き、文化庁等と連携して国内外で登録に向けた機運醸成等の広報活動を行っていくこととしており、各国税局(所)においては、各酒造組合等と連携し、各地域に応じた広報活動の企画・実施する必要がある。
3 地理的表示関係
令和6年9月末現在、日本国内の地理的表示(GI)は、GI日本酒を除き、27 の地域が指定されている(直近では令和6年8月30 日にGI南会津が指定)。
GI指定の申立てに向けた動きが増加してきており、今後輸出を促進していくためにも、迅速に対応していく必要があると認識している。
各国税局(所)においても、自局(所)管内でGI指定を希望している産地の検討状況を正確に把握し、生産基準等の作成に係る進捗状況を庁局間で共有するなど、庁局連携して産地がGI指定の申立てを円滑に行うことができるように対応する必要がある。
キャッシュレス納付の利用拡大に向けた取組
国税の納付については、納税者の利便性の向上と納税事務・税務執行の効率化を図るとともに、現金管理等に伴う社会全体のコストを縮減する観点から、財務省が策定した「オンライン利用率引上げに係る基本計画」に基づき、令和7(2025)年度までにキャッシュレス納付割合を4割とすることを目指している。
また、税務行政のデジタル・トランスフォーメーションの推進の観点から、キャッシュレス納付への移行を加速させていく必要がある。
現金による納付の大半を金融機関の窓口納付が占めていることを踏まえ、金融機関、関係民間団体や地方公共団体とも連携し、特に、納付機会の多い源泉所得税(自主納付分)を窓口で納付している納税者に対するキャッシュレス納付の利用勧奨等に取り組む。