分掌変更等役員退職給与の損金該当性が争点となった国税不服審判所裁決令和6年5月23日裁決事例集未登載のご紹介です。
- 前代表者は、請求人の代表取締役を退任し、代表権のない取締役に。本件代表者が代表取締役
- H29.9.1臨時株主総会で分掌変更に伴い、前代表者に退職金支給決議
原処分庁は、前代表者は、分掌変更前後で、勤務態様・担当業務がほぼ同じで、常勤役員で、現金管理者で、役員報酬額は変更しておらず、その額は本件代表者の5倍で、発行済株式の過半数を保有し、職務内容が激変したことを証する資料等を提出等していない、経営上主要な地位及び責任を有しており、実質的に退職したのと同様の事情があったとはいえず、退職給与に該当しないと主張しました。
国税不審判所は、本件分掌変更により、本件前代表者の役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情があったとは認められなず、本件金員は法人税法第34条第1項括弧書所定の「退職給与」に該当しないして、納税者の請求を棄却しました。
上記のほか、税理士への質問が反面調査に該当するか、国税庁長官発遣の平成24年9月12日付課総5-11ほか9課共同「調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)」違反などが争われています。
裁決要旨(審判所ホームページより)
請求人は、請求人の前代表者(本件前代表者)が代表取締役から代表権のない取締役となった(本件分掌変更)以前は、本件前代表者が営業に関する業務、金融機関との折衝業務、会計業務など、請求人のほぼ全ての業務を行ってきたが、本件分掌変更後は、会計管理業務のみを行っており、本件分掌変更の前後で本件前代表者の業務内容には大きな変化があり、実質的に退職したと同様の事情があったと認められるから、本件分掌変更に伴って本件前代表者に退職金として支給した金員は、法人税法第34条《役員給与の損金不算入》(平成29年法律第4号による改正前のもの。)第1項括弧書所定の退職給与に該当し、損金の額に算入される旨主張する。しかしながら、本件分掌変更後の請求人の中心的な業務は、資金管理及び経理事務であったところ、本件前代表者は、本件分掌変更後も管理及び経理業務全般について担当しており、本件分掌変更により職務の内容が激変したとはいえない。これに加えて本件前代表者の勤務形態が引き続き常勤であること及び本件分掌変更後の役員報酬も現代表者の5倍の額であることなども踏まえれば、本件前代表者は本件分掌変更後も請求人の経営上主要な地位を占めていたと認められ、本件分掌変更により、役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあったとは認められない。したがって、本件前代表者に支給した金員は、法人税法第34条第1項括弧書所定の退職給与に該当せず、損金の額に算入されない。(令6. 5.23 関裁(法)令5-43)
請求人は、①税務申告を委任した関与税理士からは、請求人の前代表者(本件前代表者)の退職金の損金算入の可否について何ら指導がなく、税務についての素人である請求人に対して法人税基本通達9-2-32《役員の分掌変更等の場合の退職給与》の存在や理解を期待することはできず、また、②請求人は本件前代表者の役員報酬の額を変更せずに支給し、法人税の申告をしていたにもかかわらず、原処分庁からは5年近くも何ら指摘がなかったことを考慮すれば、過少申告加算税を賦課することは、請求人にとって著しく不当かつ酷であり、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項第1号に規定する「正当な理由」がある旨主張する。しかしながら、上記①の事情は、法人税法あるいは法人税基本通達の不知をいうものであって、請求人の主観的な事情にすぎず、また、上記②の事情については、申告納税制度の下では、納税者自身がその責任と判断において適正な申告をすることが求められるのであって、それに加え、役員に対する退職金の支払、役員報酬の支払は請求人自身の判断によってなされるのであるから、請求人が主張する原処分庁の不作為が真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があるか否かの判断を左右するとはいえないから、請求人の主張する各事情は真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情とはいえず、過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になるとはいえない。したがって、請求人の主張する事情に、通則法第65条第4項第1号に規定する「正当な理由」あるとは認められない。(令6. 5.23 関裁(法)令5-43)