概要
国税不服審判所裁決令和6年4月23日は、消費税の確定申告を怠った個人事業者に対する決定処分及び重加算税賦課決定処分は適法であると判断しました(一部取消し)。
審査請求人は電気通信工事業を営む個人事業者で、消費税の確定申告を行わず、課税売上高を仮装・隠蔽したとされました。これに基づき、課税庁は決定処分および重加算税を課しましたが、請求人はこれを不服とし、一部の取消しを求めました。
審判所は、請求人は、基準期間の課税売上高を1,000万円以下に見せかけるため、売上高を過少に集計して確定申告を行っていたとし、特に、収支内訳書には意図的に一部の収入を除外する操作が行われていたことを認め、これにより重加算税の賦課要件を満たすと判断しています。
争点
本件の争点は次のとおりです。
課税事業者該当性
請求人が平成27年から令和元年までの課税期間において課税事業者であったかどうか(基準期間における課税売上高が1,000万円を超えていたか)。
隠蔽・仮装の有無
請求人が課税売上高を隠蔽・仮装した事実があるかどうか。
平等原則違反の有無
課税処分が他の納税者と比較して平等原則に違反していないか。
偽りその他不正の行為の有無
通則法第70条第5項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」があったか。
事実認定と判断
1. 課税事業者該当性
消費税法では、基準期間(その課税期間の前々年)における課税売上高が1,000万円を超える事業者は、課税事業者として消費税申告義務を負います。課税庁の調査では、請求人が基準期間において1,000万円を超える売上高を得ていた事実が確認されました。これに基づき、請求人は課税事業者に該当すると判断されました。請求人は自身の収支内訳書に基づく売上高の計算方法を主張しましたが、実際の売上集計と異なる過少な金額が記載されていたため、この主張は認められませんでした。
2. 隠蔽又は仮装行為の有無
請求人は、基準期間の課税売上高を1,000万円以下に見せかけるため、売上高を過少に集計して確定申告を行っていたとされます。特に、収支内訳書には意図的に一部の収入を除外する操作が行われていたことが認められました。請求人はこれに異議を唱えましたが、審判所は、請求人が基準期間における課税売上高を意図的に脱漏し、課税標準等の計算の基礎となるべき事実を隠蔽し、課税期間において免税事業者であることを装っていたとして、隠蔽又は仮装に該当するとされました。
おおむね次のような判断がなされています。
①自らの判断で行った税務手続とその背景
請求人は、平成19年または平成20年頃以降、税理士に依頼することなく、一人で所得税又は所得税等の確定申告書および収支内訳書を作成していました。また、平成24年課税期間に係る消費税等の確定申告を行っていたことが推認されます。さらに、平成25年課税期間については、その基準期間における課税売上高が1,000万円以下であることを理由に、平成25年3月29日に「消費税免税事業者届出書」を原処分庁に提出していました。
これらの事実から、請求人は遅くとも「消費税免税事業者届出書」の提出時点で、「基準期間の課税売上高が1,000万円以下となれば消費税等の申告納税義務を負わなくなる」という法律上の仕組みを、自らの経験に基づき認識していたと認められます。
②売上金額の把握と意図的な過少申告
本件事業に係る売上金額は全て本件預金口座に入金されていたため、請求人は本件預金口座の通帳を集計することで、容易に年間の売上金額を把握できたものと考えられます。しかし、平成25年以降、請求人の事業所得の総収入金額がいずれも1,000万円を超えていたにもかかわらず、請求人は以下の理由から意図的に過少申告を行っていました。
③将来への不安
請求人は、配偶者の収入減少や子供の教育費などの支出増加、さらに将来の仕事減少への懸念から、消費税等を納税することが困難であると判断していました。
④免税事業者への意識的な転換
基準期間の課税売上高が1,000万円以下であれば消費税の申告納税義務を負わないと理解していた請求人は、この基準を満たすために売上金額を操作することを決断しました。
具体的には、請求人は少なくとも平成25年以降9年間にわたり、事業所得の総収入金額を1,000万円を超えないように調整し、確定申告書および収支内訳書に実際より過少な収入金額を記載していました。その過少申告の態様は以下の通りです。
⑤収入金額の一部除外
請求人は、収入金額を集計する際、一部の取引先からの収入を集計せず、収支内訳書には1,000万円以下の金額を記載していました。
⑥計算ミスの装い
電卓やメモを用いて収入金額を集計する際、特定の収入を飛ばして計算し、誤りがあったかのように装っていました。
これらの行為について、請求人自身も「売上高が1,000万円を超えると消費税の申告が必要になるため、納税義務を負わないようにした」と述べています。これに基づき、請求人の行為は単なる計算ミスではなく、意図的かつ継続的な集計違算であると認められます。
③重加算税適用の根拠
以上の事実から、請求人は基準期間における課税売上高を意図的に脱漏し、課税標準等の計算の基礎となるべき事実を隠蔽し、課税期間において免税事業者であることを装っていました。その結果、請求人は平成25年以降、各課税期間の消費税等の確定申告を行わなかったものと認められます。
これらの行為に基づき、請求人には通則法第68条第2項に規定する「隠蔽」または「仮装」に該当する事実が認められ、重加算税の賦課要件を充足していると判断されました。このように、請求人の行為は所得税等の過少申告の意図や消費税等の無申告の意図を外部からうかがい得る行動と評価するまでもないとされています。
3. 平等原則違反の有無
請求人は、課税処分が他の納税者と比較して不公平であると主張しましたが、課税庁が定めた内部指針(事務運営指針)に基づく処分が公平性を欠くものではないと判断されました。内部指針に挙げられた不正事実の例に該当しない場合でも、隠蔽や仮装行為が認められる場合には重加算税が課されるため、請求人の主張は退けられました。
4. 偽りその他不正行為の有無
請求人が売上高を意図的に過少申告していた行為は、消費税申告義務を回避するための積極的な意図が認められるものであり、「偽りその他不正の行為」に該当するとされました。これにより、7年間の更正決定期間の延長が適用され、課税処分が適法であると結論付けられました。
結論
審判所は、平成28年から令和元年課税期間までの課税処分と重加算税賦課を適法としました。一方で、平成27年課税期間については一部の取消しが必要と判断されました。