従業員に対する未払決算賞与を損金不算入とした更正処分や従業員に横領された自販機設置手数料収入に係る重加算税の賦課決定処分が争われた国税不服審判所裁決令和5年12月3日の紹介です。

そもそも、従業員賞与の損金算入制限に係る政令の規定は委任の趣旨を超えた規定ではないか、従業員による不正行為に対する重加算税の賦課はどのような場合に要件を満たすのかという点は、まだまだ議論の余地があるでしょう。

以下では、①本件決算賞与が法人税法施行令72条の3第2号に規定する未払賞与として令和3年9月期の損金の額に算入できるか否か、②本件決算賞与を損金の額に算入したことについて、請求人に、通則法68条1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する行為があったか否か、という争点に係る審判所の判断を確認します。

事案の概要

本件は、原処分庁が、事業年度末に未払計上した従業員に対する決算賞与は法人税法施行令第72条の3第2号の要件を満たしていないことから損金の額に算入できず、また、従業員に横領された工事現場に設置した自動販売機に係る設置手数料収入及び完成工事原価の減額返金分は審査請求人に帰属するなどとして、法人税等及び消費税等の各更正処分等をしたのに対し、請求人が、任意調査の範囲を超えた違法な税務調査に基づく原処分は違法であるなどとして原 処分の全部の取消しを求めた事案

審判所の判断

本件決算賞与が法人税法施行令第72条の3第2号に規定する未払賞与として令和3年9月期の損金の額に算入できるか否か

「イ 法令解釈
法人税法第22条第3項第2号は、各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額として、同項第1号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費等の額を掲げ、償却費以外の費用の帰属年度についていわゆる債務確定基準を定めている。このように、法人税法第22条第3項第2号が債務確定基準を採用しているのは、債務として確定していない費用については、その発生の見込み及びその金額が明確ではなく、このような費用を損金の額に算入ずることを認めると、所得の金額の計算が不明確となることから、課税の公平を確保するために、このような費用の損金の額への算入を否定したものであると解される。
そして、法人税法施行令第72条の3が、所得の金額の計算の明確及び課税の公平を確保するための規定として、原則として、実際にその支払がされた日の属する事業年度に損金算入を認め、同条第2号の未払賞与については、債務として確定しているといえる時期にあると判断できる状態にあるものに限って、例外的損金算入を認めることとしていることに照らすと、同号イの支給額の通知といえるためには、法人において個々の使用人ごとの具体的な賞与の支給額を最終的、確定的に決定した上、これを使用人に表示することを要するというべきである。


ロ 認定事実
原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、請求人は、令和3年10月25日に本件決算賞与を各社員に対して振込みで支払ったが、その社員の中には、令和3年9月27日付で本件決算賞与の金額が変更された者が存在したことが認められる。

ハ 検討
本件において、 請求人が法人税法施行令第72条の3第2号で要件としている本件決算賞与の支給額を各人別に、かつ、同時期に支給を受ける全ての使用人に対して通知した日は、上記1 (3)口(二)及び(ホ)のとおり、本件通知書を交付した令和 3年10月25日と認められる。そうすると、本件決算賞与の通知日は令和3年9月期の翌事業年度であるから、少なくとも同条第2号イに規定する要件が満たされず、本件決算賞与は、その支払があっ た令和4年9月期の損金の額に算入され、同条第2号イに規定する未払賞与として令和3年9月期の損金の額に算入することはできない。

ニ 請求人の主張について
請求人は、令和3年8月17日の経営会議において、決算賞与は給与等の0. 5か月分を10月に支給する旨を全社員に通知するよう本件社長が通達を出したこと、請求人では長年の慣習により、各社員に対し通常の賞与や決算賞与の支給額は何か月分と説明すれば、各社員は自身の支給額を計算することができ、金額を確定できるようになっていることから、当該通知ば法人税法施行令第72条の3第2号イの要件を満たす旨主張する。
しかしながら、上記イのとおり、法人税法施行令第72条の3第2号イの支給額の通知といえるためには、法人において個々の使用人ごとの具体的な賞与の支給額を最終的、確定的に決定し た上、これを使用人に表示することを要するところ、上記1(3)ロ(ロ)のとおり、本件顛末文書によっても、 「0.5ヶ月分を支給すること を全社員に通知するように社長から指示があった その後、各部門長より全社員に口頭で告知」との記載があるにとどまり、請求人の各社員個別に本件決算賞与の支給金額が確定していたというには疑問が残る。
また、本件取締役副社長は、口頭による通知が令和3年8月末頃までには全社員にされている旨答述するが、上記口のとおり、請求人の社員の中には、口頭による通知の後の令和3年9月27日になってから本件決算賞与の金額が変更された者が存在したことからすると、給与等の0. 5か月分の賞与という通知並びに給与規程及び内規等に上る所定の計算式の周知に上って、支給される賞与の金額を概算で計算することはできても、令和3年8月末頃までに、請求人の仕員ごとに具体的かつ正確な の支給額が最終的、確定的に決定されていたとは認められない。
このほか、請求人が口頭による通知を令和3年8月末頃に加えて令和3年9月末までに再度行った等の事情も認められない。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

本件決算賞与を損金の額に算入したことについて、請求人に、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する行為があったか否か


「イ 法令解釈
通則法第68条規定する重加算税は、納税者がその国税の課税標準等又は税額の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽、又仮装したところ き納税申告書を提出しているときに課されるものであるところ、ここでいう事実の隠蔽とは、故意に事実を隠匿し、あるいは脱漏することをいうものと解され、 事実の仮装とは、所得、財産あるいは取引上の名義等に関し、あたかも、それが真実であるかのように装う等、故意に事実をわい曲することをいうものと解される。

ロ 認定事実
原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
(イ)本件取締役統括部長は、令和3年8年17日から同年9月24日の間に知人から受領した「末払決算賞与が損金算入要件に該当することをどのようにして明らかにするか?」と見出しのある書籍(以下「本件書籍」という。)の写しや令和 3年9月24日にインターネットから出力した「決算月と決算賞与でできる節税対策~決算を黒字するには~」のうち「6 ー4決算賞与の通知」と見出しのあるサイト情報(以下「本件サイト情報」という。)を基に、末払決算賞 が損金の額に算入されるための税法上の要件や各人別の決算賞与の支給額を載した書面の通知書の雛形について調査した。
(口)本件 の写しには、未払決算の法令上の損金算入要件のほか、要旨次の内容の記載がされていた。
A 決算賞与の明細と支払予定日を記載した決算賞与通知書を決算月の給与支払通知書の封筒の中に同封する等して、決算月の月末までに決算賞与明細る全ての使用人に同時期に渡るようにする。なお、その控え
を保存しておく。

B 通知をした使用人に、たとえその後急に退職した使用人がいても必ず期限内に支給する。

C 未払 として必ず損金経理をしておく。

(ハ)本件サイト情報には、通知書の雛形の例示のほか 次のとおり記載がされていた。
A 決算賞与は支給が決定するとそれぞれの対象者に対して通知書が渡される。決算賞与を節税対策として支給される場合にはその証拠として通知書は必ず 発行されなければならない。通知書が渡される時期は決算日の前でなければ ならない。
B 個人により支給されるか否かは、その支給額が異なるために、決算賞与が支給される人には必ず通知されなければならない。税務調査の際にも決算賞与の通知日が、決算日より前かどうかが、よく見られるポイントである。
C 通知書のホイントとしては、①通知日②宛名③支給金額④確認した旨の記載⑤確認日⑥確認の署名などである。

(二)本件担当会計土は、令和3年9月20日頃、本件次長から給与等の0. 5か月分を支給することを全従業員に口頭で伝えれば決算賞与の損金処理の要件を満たすかどうか質閏されたのに対して、各人別に支給額を通知するという税務ヒの要件に該当しない旨同答し、各人別の決算賞与の支給額を記載した書面の通知書を作成し、全従業員にその通知書を決算期末までに交付ずる方法について助言した。

(ホ)本件取締役統括部長は、作成した通知書の雛形が、上記(ハ)に掲載されていた通知書の雛形の例示と比較して、通知書の受領日の記載欄や受領者の署名欄がないことを懸念し、本件次長に対して本件担当会計士に確認するよう指示し、本件担当会計士は、本件次長に対し、通知書の書式として受領日の記載欄や受領者の署名欄がなくても問題ない旨回答した。
(へ)本件次長は、上記(ニ)及び(ホ)に係る本件担当会計士から受けた助言及び回答を本件取締役統括部長に報告した。
(卜)本件通知書の記載内容は、上記1(3)ロ(ホ)のとおりであり、その内容が事実である場合、法人税法施行令第72条の3第2号イの要件を満たす内容である。
(チ)各人別の本件通知書の控えは、 「第■期決算賞与支給通知書綴 令和3年9月30日通知 令和3年10月25日支給日」と記載されたフラットファイルに編綴されていた。なお、当該フラットファイルは、本件調査において本件調査担当職員に提示された。
(リ)本件通知書は、請求人のサーバー内に保存されていた「2021.10賞与.xlsx」と題するデータ(以下「本件支給データ」としヽう、)が、本件通知苔の雛形データである「賞与支給通知書.docx」と題するデータ(以下「本件通知書データ」という。)に反映されて出力されるものである。
(ヌ)本件支給データの作成者は本件人事部長であり、作成日時は令和3年10月14日であった。また、本件通知書データの作成者は請求人の■■人事課に所属する社員であり、作成日時は令和3年9月28日、最終印刷日時は令和3年10月14日であった。
(ル)本件経理課 、本件人事部長から本件決 与に係る資料を受け取り、令和3年10月19日に本件決算賞与に係る会計処理を行い、その仕訳伝票を出力し本件取締役統括部長から決裁を受けた。

ハ 検討
上記口(卜)のとおり、本件通知書は、法人税法施行令第72条の3第2号イの要件を満たす内容ではあるが、上記口(ヌ)のとおり、本件通知書が最後に印刷されたのは令和3年10月14日であり、その最終印刷物か、上記1 (3)口(ニ)のとおり令和3年10月25日に各社員に交付されたこと、主た、上記(2)ロからニまでで認定判断したとおり、本件決算賞与の支給に関する通知ば令和3年10月25日であって、同年9月末日までに口頭による通知がされていたともいい難いことからすると、本件通知書に記載された通知日「令和3年9月30日」は、事実と異なる通知日の記載となるから、このような本件通知書の通知日の記載やこれに関する請求人の各行為が通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する行為か否かを検討する。
上記ロ(イ)から(ハ)までのとおり、本件取締役統括部長は、未払決算賞与が損金の額に算入されるための税法上の要件や各人別の決算賞与の支給額を記載した面の通知書の雛形について調査し、その調査に当たって参考とした本件書籍の写し及び本件サイト情報には、本件取締役統括部長の調査目的に合致する内容が記載されていた。特に、上記口(イ)及び(ハ)Bのとおり、本件サイト情報は、節税対策を目的としたサイト情報であり、そこには、税務調査の際にも決 与の通知日が主たる確認事項となる旨が記載されているから、本件取締役統括部長としては、決算賞与に係る通知書においては、決算賞与の通知日の記載が重要となることを認識してしていたものといえる。
また、本件取締役統括部長は、上記口(ニ)及び(へ)のとおり、給与等の0.5か月分を決算賞与として支給するとの口頭通知が法人税法施行令第72条の3第2号イの要件を満たさないことについて、本件次長から報告を受けて把握していた上、上記ロ(ハ)、(ホ)及び(へ)のとおり、本件通知書の記載事項について、その雛形と比較 し、同号イの要件を満たすか否かという問題意識を有するに至り、本件次長を通じて本件担当会計士に相談し、本件次長からその報告を受けていた
このような本件取締役統括部長の認識及び行動は、本件決算賞与が、令和3年9月期の請求入の損金の額に算入されるための要件を規定した法人税法施行令第72条の3第2号に対する理解を前提としたものであったということができる。
ところが、実際には令和3年9月30日までに本件決算賞与の支給に関ずる通知がされていないにもかかわらず、請求人においては、上記ロ(卜)のとおり法人税法施行令第72条の3第2号イの要件を満たす外観を有する本件通知書や、上記ロ(チ)のとおり「令和3年9月30日通知」と記載された本件決算賞与に係るフラットファイルが作成され、これが本件調査において本件調査担当職員に提示された。これらの行為は、上記1 (3)イ(ハ)及び上記口(ル)のとおり、本件取締役統括部長が請求人の■■の経理課等を総括する立場にあったことや本件決算賞与に係る決裁をしたことを踏まえれば、経理に関連する業務である請求人におけるこれら各書類の作成は、請求人の役員である本件取締役統括部長が事情を把握した上で行ったものといえる。
そうすると、本件通知書の通知日の記載やこれに関する請求人の各行為は、本件決算賞与の支給に関する通知が実際には令和3年9月30日までに行われていないにもかかわらず、それが同日に行われたことを真実であるかのように装うものであり、故意に事実をわい曲する行為といえ、少なくとも事実の仮装行為に該当する。
したがって、請求人の上記各行為は、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する行為であると認められるこ

国税不服審判所令和5年12月13日-事業年度末に未払計上した従業員に対する決算賞与.pdf