令和6年9月に国税庁で行われた全国国税局長会議資料の内容を抜粋してご紹介します。

国際分野における最近の動向


1 国際会議等を通じた積極的な知見の共有等
⑴ OECD税務長官会議(FTA:Forum on Tax Administration)
FTAは、税務行政上の課題について、知見の共有や意見交換等を行うため、OECD租税委員会の下に設置された税務当局の長官級フォーラムであり、現在OECD加盟38 か国及び非加盟15 か国・地域が参加している。
令和5年10 月には、FTAの全参加国の長官クラスで知見の共有等を行うために令和元年以降毎年開催されているFTAの本会合がシンガポールで開催され、43 か国・地域の長官クラスが参加し、税務行政のデジタルトランスフォーメーションや2つの柱の解決策の実施と税の安定性、税に関するキャパシティビルディング等について意見交換が行われた。
次回は、令和6年11 月にギリシャ(アテネ)で開催予定。


⑵ アジア税務長官会合(SGATAR:Study Group on Asia-Pacific Tax Administration and Research)
SGATARは、アジア太平洋地域における税務行政上の課題について、国際協力及び意見交換等を行うための会合であり、現在18 か国・地域が参加している。
令和5年10 月末から11 月頭には、第52 回SGATAR年次会合がタイで開催され、各国・地域の長官クラス(18 か国・地域)が参加した。長官会合では、各国・地域の長官等が、「『第2の柱』の執行」や「税務コンプライアンスにおけるデータ分析」、「デジタル経済における間接税(GST/VAT)」について議論を行った。また、実務者クラスの分科会では、「移転価格(無形資産の評価)」、「タ
ックスペイヤージャーニーのデジタル化」及び「国別報告書(CbCR: Country by Country Report)の実施と情報の効果的活用」の3つのテーマに関する議論が行われた。
次回は、令和6年10 月に韓国(ソウル)で開催予定。


⑶ 税の透明性と情報交換に関するグローバル・フォーラム(GF:Global Forum on Transparency and Exchange of Information for Tax Purposes)
GFは、OECDにより設置された、税務目的の情報交換の促進や開発途上国向け技術協力等に取り組むフォーラムであり、OECD非加盟国を含む171 か国・地域が加盟し、各国の「要請に基づく情報交換」及び共通報告基準(CRS:Common Reporting Standard)に基づく非居住者金融口座情報(いわゆる「CRS情報」)の「自動的情報交換」の法制・執行両面の相互審査を実施している。
令和5年11 月の年次総会では、相互審査の進展状況と今後の予定、令和7年以降に開始される新たな相互審査制度の枠組み、開発途上国支援の状況と方向性、暗号資産等取引情報報告制度(CARF:Crypto-Asset Reporting Framework)導入に向けた対応を討議・合意したほか、作業部会の成果物承認及び方向性確認が行われた。
次回年次総会は、令和6年11 月にパラグアイ(アスンシオン)で開催予定。


⑷ アジア・イニシアティブ会合
アジア・イニシアティブは、アジア地域における税務当局間の情報交換等促進を目的として、GFにより令和3年11 月に立ち上
げられた枠組みであり、現在、アジア地域の17 か国・地域及びオブザーバー(ADB・世銀等5機関)が参加している。
令和6年6月の第6回会合では、年次報告書が発表され、当該報告書に基づくアジア地域の税の透明性の進捗状況についてパネル討議を実施。更なる情報交換の促進及びキャパシティビルディングの実施継続の必要性が確認された。また、令和7年までの活動計画が承認されたほか、実質的支配者情報の透明性確保、間接税(GST/VAT)目的の情報交換に関する課題への対処、CRS情報の効果的活用、情報交換が歳入に与える影響の効果測定の重要性等について議論が行われた。
次回会合は、上記GF年次総会(令和6年11 月、パラグアイ(アスンシオン))に併せて開催予定。


2 外国税務当局との執行協力の拡充
⑴ 情報交換の状況
我が国は、租税条約等に基づき、多数の国・地域の税務当局と租税の賦課徴収に関連する情報を交換しており、令和4事務年度には、個別事案の情報交換(約900 件)やCRS情報の交換(約305 万件)含め約390 万件の情報の交換を行った。
なお、令和6年7月末時点で、我が国を含む58 の国・地域がCARFの導入及び令和9年の交換開始に向けて取り組む旨の声明を発表しており、我が国も、令和9年以降に報告・交換を実施するべく、令和6年3月に改正法を、同年6月に改正令及び改正省令をそれぞれ公布済みである。


⑵ 徴収共助の状況
徴収共助とは、税務当局にとっては自国の領域外では公権力を行使できないという制約がある中、租税条約等に基づいて各国の税務当局が協力してお互いに相手国の債権を徴収するという仕組みである。我が国は、多数の国・地域との間で徴収共助が可能となっており、積極的かつ効果的に制度を活用している。


3 相互協議事案の適切・迅速な解決
相互協議については、近年、発生件数が増加傾向にあり、それに伴って繰越件数も増加傾向にある。繰越件数のうち7~8割程度が事前確認に係る事案となっており、引き続き、国税局の審査部局と緊密に連携しつつ、処理促進に取り組んでいくこととしている。
繰越件数の増加に伴い、OECD非加盟国・地域の繰越件数も増加傾向にあり、相互協議事案全体の4~5割程度となっている。このため、相互協議事案の適切・迅速な解決に向け、各国税務当局との連携を密にし、相互協議の円滑な実施を図るとともに、FTAの下に設置されたOECD相互協議フォーラム(MAPF:MAP Forum)に参加するなどの取組を行っている。


4 開発途上国に対する技術協力等の推進
開発途上国に対する技術協力については、政府開発援助の枠組み等の下、開発途上国の税務行政の改善、日本の税務行政に対する理解者の育成等を目的として、独立行政法人国際協力機構(JICA)等と連携し、引き続き積極的に取り組んでいく。
また、当該技術協力を国内で実施する場合には、国税局・税務署等の現場視察の要望が多く、こうした要望にも局署の協力を得ながら、積極的に対応することとしている。


5 国際課税制度の見直しに係る議論
経済のグローバル化・デジタル化に伴うビジネス形態の変化が進む中で、経済実態を反映した国際課税制度の見直しが議論され、令和3年10 月、OECD及びG20BEPS包摂的枠組み(IF:Inclusive Framework)で二本の柱について合意が取りまとめられた。
その後、令和5年7月には、同年の後半に多数国間条約の条文を確定させて、同年末までに署名式の開催を目指す旨のIFのステートメントが公表され、令和6年5月には、同年6月末までに署名式の開催を目指す旨のIF共同議長のステートメントが公表された。令和6年7月に発表された、G20財務大臣会合のコミュニケ及び国際租税協力に関する閣僚宣言において、「第1の柱」に関する最終パッケージの交渉を迅速に妥結することを奨励する旨が記載されている。


⑴ 第1の柱(利益A/利益B)
「第1の柱」のうち「利益A」は、新たな多数国間条約の締結により、グローバル企業グループが物理的拠点(いわゆるPE)なしに活動する市場国に対しても新たに課税権を配分する制度である。当初は全世界売上が200 億ユーロ超かつ利益率が10%超のグローバル企業グループを対象とし、条約発効の7年後にレビューを行い、円滑な制度実施を条件に、売上閾値を100 億ユーロに引き下げることを予定している。この多数国間条約については、後述する利益Bを含む第1の柱に関する最終パッケージの交渉を迅速に妥結した上で可能な限り早期に最終化及び署名開放し、令和7年中の発効を目指すこととされている。
また、「利益B」は、「基礎的マーケティング・販売活動」について移転価格税制の適用の簡素化・合理化を目的とした仕組みとされており、合意された利益Bガイダンスに基づき、令和6年2月にOECD移転価格ガイドラインが改定・公表された。これにより、利益Bの適用を選択した国は、令和7年1月以降に開始する事業年度における自国内の適用対象取引に対して、利益Bを適用できることとされている。
今後は、第1の柱に関して、国際的な議論に引き続き参加するとともに、国際的な合意等を踏まえて、執行の観点から検討を進め、適切に対応していく。


⑵ 第2の柱
「第2の柱」のうちグローバル・ミニマム課税は、年間総収入金額が7億5千万ユーロ以上の多国籍企業を対象として、国際的に合意された最低税率(15%)を下回る国における最低税率までの課税を確保する制度である。

イ OECDにおける議論の状況
OECDにおいて、現在、グローバル・ミニマム課税に関する詳細な取扱いについての議論が継続されており、グローバル・ミニマム課税の一部の取扱いを明記した執行ガイダンスが順次公表されている。令和6年6月には、令和5年中に公表された3つの執行ガイダンスに続き、執行ガイダンス第4弾が公表された。
ロ 法制化への対応
グローバル・ミニマム課税のうち、所得合算ルールに係る法制化として創設された各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税については、令和6年4月1日以後に開始する対象会計年度から適用されている(制度創設後も数か月に一度執行ガイダンスが発出され、追加の税制改正等も見込まれる。)。本制度に対応するため、法令解釈通達、Q&A等を公表するとともに、専門的な知識を習得するための職員向け研修を実施してきたところ。令和6年4月の本制度の施行後は、各局における体制を整備した上で、外部からの質疑に的確に対応しており、今後も、積極的な制度の周知・広報等を進めるとともに、執行ガイダンス、追加の税制改正等も踏まえて、適切に対応していく。

徴収部当面の課題


1 キャッシュレス納付の利用拡大に向けた取組
国税の納付については、納税者の利便性の向上と納税事務・税務執行の効率化を図るとともに、現金管理等に伴う社会全体のコストを縮減する観点から、令和7(2025)年度までにキャッシュレス納付割合を4割とすることを目指している。
また、税務行政のデジタル・トランスフォーメーションの推進の観点から、キャッシュレス納付への移行を加速させていく必要がある。
現金による納付の大半を金融機関の窓口納付が占めていることを踏まえ、金融機関、関係民間団体、地方公共団体等とも連携し、特に、納付機会の多い源泉所得税(自主納付分)を納付している納税者に対するキャッシュレス納付の利用勧奨に取り組む。


2 滞納の未然防止及び整理促進
⑴ 滞納の未然防止
適正・公平な課税は、徴収がなされて初めて実現されることから、滞納の未然防止・早期徴収については、国税組織全体として取り組む必要があり、賦課・徴収の緊密な連携の下、積極的に取り組んできたところである。
滞納の未然防止については、令和6年6月の未然防止通達(※)に基づき、賦課・徴収の一層の緊密な連携の維持・強化に取り組んでいるところ、引き続き、次の施策を実施していく。
※ 令和6年6月27 日付徴徴2-28 ほか14 課共同「滞納の未然防止等に関する取組について」(指示)
○ 期限内納付及び納税についての納税者利便の向上に関する広報・周知の充実
○ 納期限前後における積極的な納付指導の実施
○ 滞納整理における納付指導等
○ 調査時における滞納の未然防止等
○ 源泉所得税の未納に対する賦課・徴収の連携・協調


⑵ 滞納の整理促進
令和5事務年度においては、納税者個々の実情を的確に把握した上で、期限内に納税した納税者との公平性の確保を図る観点から、納税に対する誠実な意思が認められない者等については、時機を逸することなく滞納処分を実施するなど厳正に対処する一方、納税の猶予等の法令の要件に該当する場合には、納税緩和措置を適用するなど、適切に滞納整理に取り組んできたところ。
令和6事務年度においても、引き続き、納税者個々の実情に即しつつ、法令等に基づき適切に対応するという基本方針の下、①大口・悪質事案に対する厳正かつ毅然とした対応、②処理困難事案に対する質的整理の実施、③消費税事案の滞納残高圧縮に向けた確実な処理、④猶予制度の的確な周知・広報及び適切な適用等を重点課題として、より効果的・効率的な徴収事務運営に取り組んでいく。


⑶ 徴収事務運営におけるデジタル・トランスフォーメーションの推進への取組
滞納の未然防止及び整理促進の取組に当たっては、経済社会の変化に柔軟に対応しつつ国税庁の使命を的確に果たしていくために、データやデジタル技術の活用を前提とした税務コンプライアンスを最大化するためのビジネスモデルへの移行を念頭に、更なる効率化・高度化を図っていく。


⑷ 専門分野への取組
適正な納税義務の履行を確保するため、詐害行為取消訴訟等の原告訴訟の提起や第二次納税義務の賦課など法的手段を積極的に活用するほか、財産の隠ぺい等により国税の徴収を免れようとする特に悪質な滞納事案については、確実に滞納処分免脱罪の告発を行う。
なお、国際的な徴収回避に的確に対応するため、情報提供要請を積極的かつ効果的に行い、租税条約等の要件に該当する事案については、確実に徴収共助を要請する。
また、年金保険料の滞納処分の委任については、年金保険料の確実かつ効率的な収納体制や組織体制の強化に関する取組の更なる推進のため、滞納処分の委任制度のより一層の活用と、委任を受けた事案の整理促進に向けて取り組む。

国税不服審判所の現状


1 審査請求の状況

国税不服審判所の現状
1 審査請求の状況

2 審理手続の計画的進行
適正かつ迅速な事件処理を通じて、納税者の正当な権利利益の救済を図るため、審査請求については、裁決をするまでに通常要すべき期間(標準審理期間)を1年と定め、これを公表している。なお、実績の評価における測定指標として「審査請求の1年以内の処理件数割合」を設定している。
また、審査請求事件の審理においては、審査請求人、原処分庁及び担当審判官が、簡易迅速かつ公正な審理の実現のため、相互に協力するとともに、審理手続の計画的な進行を図らなければならないとされている(国税通則法第92 条の2)。
【参考:1年以内の処理件数割合の推移】

3 国税審判官(特定任期付職員)の外部登用
国税不服審判所では、平成19 年7月から、弁護士や税理士などの民間専門家を国税審判官(特定任期付職員)として採用する外部登用を開始しており、平成22 年度には、平成23 年度税制改正大綱を受けて、民間専門家等の高度な専門的知識や実務経験を活用するとともに、審査請求事件の審理の中立性・公正性を向上させる観点から、国税審判官への外部登用の拡大についての方針と工程表を策定・公表した。
その後、平成25 年7月には、事件を担当する審判官の半数程度(50 名)が外部登用者となり、現在に至っている。なお、令和6年7月10 日現在の在職者の内訳は、弁護士出身者25 名、税理士出身者19 名、公認会計士出身者6名となっている。

税務大学校当面の課題


1 研修実施に当たっての課題
令和6年度の研修実施状況
税務大学校では、研修の目的及び特性を踏まえ、集合研修を基本としつつ、育児・介護等の事情により集合研修に参加できない研修生に対してはオンラインによる受講を可能とする方針としている。
令和6年度の研修は、上記方針の下、研修施設(教室・学寮)の収容能力等の様々な事情を考慮し、可能な限り集合研修の日数を拡充した。また、集合時期は、研修効果を最大化する観点から、研修開始冒頭や討議が集中する時期を軸に設定した。


簿記会計学の事前学習用教材の積極的活用
簿記は、税務職員に求められる基礎的事項であるところ、近年、専科における簿記会計学の不合格者が増加している。
専科における簿記会計学の講義は、日商簿記2級相当の知識を有していることを前提にカリキュラムが組まれていることから、専科入校前までの間、局署における簿記学習の督励を引き続き行う。加えて、税務大学校では、令和6年8月に新たにスマートフォン等の私物端末でいつでも気軽に学習できる事前学習用教材「簿記事前学習用プラットフォーム」を提供したことから、模擬試験の実施や講義動画の視聴をするなど、自らの立ち位置の把握や苦手分野の学習が可能となるため、令和7年度専科入校予定者に対し、積極的に活用を推奨する。


2 調査研究機能の充実
国民の税に対する関心が高まる中、税務行政の透明性を高め、説明責任を果たすことが一層重要となってきている。この点、税務大学校では「税務行政の現場のニーズに沿って、現場に役立つ研究を行う」との基本的な考え方の下、現場と連携した研究の充実に努めており、引き続き庁主務課等からの要望を受けて、税の執行上・審理上の諸課題につき理論的な研究を実施するとともに、税務データを活用し、統計的な手法や機械学習等により、直面する税務上の課題を解決するための実証研究を実施する。
なお、国・地方公共団体等が公共データの活用に取り組むオープンデータ基本指針を踏まえ、税・財政政策の改善・充実等に資する目的で、令和4年4月から大学の研究者との共同研究を開始しており、研究の成果をディスカッションペーパーとして国税庁ホームページで公表している。


3 国際協力の充実
税務大学校では、政府開発援助の枠組み等の下、開発途上国の税務行政の改善、日本の税務行政に対する理解者の育成等を目的として、税務に関する国際協力及び開発途上国の税務職員に対する研修(国際研修等)を行っている。令和6年度も引き続き、相手国のニーズに合った効果的な研修を的確に実施する。


4 情報発信の強化
税務大学校では、研究の成果を公表し、租税に関する知識の普及や納税意識の向上に寄与することを目的として、税大論叢や税大ジャーナルを国税庁ホームページに掲載するとともに、広く一般の方を対象とした公開講座や租税史料室で収集・保存している税に関する貴重な史料の展示等を行っている。
令和3年度以降は、公開講座をオンライン配信で実施しているほか、租税史料の特別展示の内容を紹介するインターネット番組(Web-TAX-TV)を制作・配信するなど、オンラインを活用した情報発信に取り組んできたところである。
令和6年度についても、オンラインを活用した取組を継続することとしており、国税局及び税務署においても、関係民間団体等に対する計画的な周知広報をお願いする。

査察課当面の課題


○ 令和6年度の査察事績
令和6年度については、4月から6月まで(第1四半期)に査察調査に着手した件数は34 件である。
また、6月までに調査着手した査察事案について、処理(検察庁への告発の可否を判断)した件数は42 件、そのうち検察庁に告発した件数は20 件であり、告発率は47.6%となっている。


【着手・処理・告発件数、告発率の推移】

〇 令和6年度における査察部門の事務運営の基本方針
1 基本的考え方
査察制度は、悪質な脱税者に対して刑事責任を追及し、その一罰百戒の効果を通じて適正・公平な課税の実現と申告納税制度の維持に資することを目的としている。
この目的を達成するため、査察を取り巻く環境が変化する中にあっても、社会的に非難されるべき悪質な脱税を的確に摘発し検察官に告発できるよう、情報事務と調査事務を通じて、組織力を発揮した効果的・効率的な事務運営に努めるとともに、重点事案(注)の積極的な立件・処理に取り組む。
(注)重点事案とは、消費税事案、無申告事案、国際事案及びその他社会的波及効果が高いと見込まれる事案をいう(3 重点事案)。


2 事務運営上の留意事項
⑴ 幹部の果たすべき役割
幹部(部長、次長、課長等)は査察事務の適正・円滑な運営に責任を有しており、適切かつ主体的にその管理を行う。特に、不測の事態に際しては国税庁に早期に報告するとともに、自ら率先して情報収集や対応策等の検討を行う。
また、効率的・効果的な事務処理を推進するため、適時適切に事務の見直しを行う。
さらに、幹部は、査察調査の実施に当たり、大局的な見地から立件・処理の方針等を判断するものとし、その際には、社会的波及効果等についても十分に勘案する。また、事案の円滑な処理に向け、告発要否の早期見極め及び検察当局等との連携において積極的な役割を果たす。


⑵ 事務計画の策定
事務計画に当たっては、情報事務と調査事務を通じて事務の効率化を図りつつ、局の実情に即した適正な立件・処理に向けた事務計画を策定する。
また、適正な立件・処理に向け、査察部門全体における情報事務と調査事務の事務量配分についても併せて検討する。


⑶ 情報事務
悪質な脱税者を的確に立件するため、情報事務を担う各課・各部門等は、自ら果たすべき役割・責務を認識し、以下を踏まえた上で戦略的な資料情報の収集・分析に取り組む。
イ 社会的波及効果が見込まれる事案への取組の充実
査察制度の目的に鑑み、一罰百戒の効果を最大限発揮させることを念頭に、世間の耳目をひき牽制効果が期待できる事案に積極的に取り組む。
ロ 新たな資料情報の収集及びデータ活用の推進
査察を取り巻く環境の変化に的確に対応するため、新たな資料情報の収集に取り組むとともに、各種資料情報の分析を効果的・効率的に行い、データ活用による事案の発掘に積極的に取り組む。
ハ 課税部等との連携の充実
国税組織全体の組織力を一層発揮させるため、課税部・徴収部・調査部等と連携を密にし、経済社会情勢に着目した戦略的な取組に際しての協調を的確に行う。
ニ 資料情報の収集・分析事務量の安定的な確保
個々の事案に関して、今後の調査方針、調査体制、調査継続の要否等を早期かつ的確に判断するなどし、資料情報の収集・分析に必要な事務量を安定的に確保する。
ホ 情報事務の全国一体運営の推進
経済取引の一層の複雑化・広域化や経済社会のデジタル化・国際化等の進展などに効果的・効率的に対応するため、センター局の主導により、全国の情報部門が一体となった広域的な資料情報の収集・分析の取組を推進する。また、センター局のブロック局に対する支援について体制の強化と内容の充実を図る。
ヘ 調査部門との連携等による組織力の発揮
事件着手に当たっての重要事項について、調査部門との緊密な情報交換を行う。また、調査部門と連携した新たな事件の発掘に向けた情報収集にも積極的に取り組む。
ト 関係当局との連携の充実
検察・警察当局をはじめとする他の捜査機関等との連携を充実させ、これらの当局から収集した情報に関する対応に当たっては、機を逃すことなく、的確・迅速に行う。


⑷ 調査事務
イ 厳正かつ的確な手続・管理の徹底
調査事務が刑事公判に向けた証拠収集を目的としていることを念頭に置き、法令等に基づき適正な調査を行うとともに、厳正かつ的確に証拠管理を行う。
ロ 審理の充実等による適正・確実な事件処理の推進
刑事公判を意識した証拠収集など適正・確実な事件処理を推進するため、審理能力の向上や審理体制の強化などによる審理の充実を図るとともに、検察当局との協議・連携を促進する。なお、消費税事案の事件処理に当たっては、法令上の要件に照らし、仕入税額控除の適用要否を的確に判断する。
ハ 効率的・効果的な事務処理の推進
個々の事件に関して、初動調査を充実させ、早期に問題点を把握するとともに、デジタル化・国際化に伴う国外証拠収集やデータ調査の重要性を踏まえた具体的かつ明確な調査方針の策定を行う。
また、部門の枠を超えた人員投入など弾力的な事務運営を実施することなどにより、効率的・効果的な事務処理を推進する。
ニ 局の実情に即した処理計画に基づく進行管理の徹底
年度を通して、処理計画に基づいた進行管理を徹底し、事件処理の平準化を図るとともに、調査状況を十分に把握した上、証拠の有無、犯則の規模、調査事務量及び証拠収集の見通しを総合的に判断することにより告発要否の早期見極めに努め、必要に応じて幹部自ら検察当局と告発に向けた協議を行う。
ホ 調査事務の全国一体運営の推進
着手日の調査応援をはじめとしたセンター局によるブロック局への支援やブロック局間連携の充実により、全国の調査部門が一体となった効果的な事件処理に取り組む。
また、センター局が自局事件の調査のためブロック局管内で捜索を行う場合には、嘱託調査を積極的に活用し、センター局の事務の効率化及びブロック局査察官の調査経験の充実を図る。
さらに、デジタル化・国際化に的確に対応するため、センター局の専門性を生かした効果的なブロック局への支援を推進する。
ヘ 情報部門との連携等による組織力の発揮
個々の事件処理にとどまらず、情報部門と連携した新たな事件の発掘に向けた情報収集にも積極的に取り組む。
ト 徴収部との連携・協調の充実
徴収部と連携・協調し、国税債権の早期かつ確実な保全に向け、犯則嫌疑者等に対し納付の意思確認を行うとともに、納付の意思を示した場合は予納の利用勧奨を行うなど、早期納付による滞納の未然防止に積極的に取り組む。
また、徴収部における保全差押えや租税条約に基づく保全共助の要請、第二次納税義務の追及などの、適切かつ効果的な実施を確保するため、調査の段階から徴収部との緊密な連携を保つとともに、課税情報や財産情報の早期提供に努める。


⑸ 適切かつ効果的な広報
幹部は、租税犯罪の一般予防、納税道義の向上及び税務行政への信頼確保を図るため、犯則嫌疑者等のプライバシー保護等に留意しつつ、告発事案の適切かつ効果的な広報に積極的に取り組む。


⑹ DX・BPRの推進
税務行政のデジタル・トランスフォーメーション(DX)を推進する観点から、情報事務・調査事務の効率化・高度化に着実に取り組む。
また、部内業務のペーパーレス化やリモートワーク環境の活用などによる業務改革(BPR)に積極的に取り組む。


⑺ 人材育成による職務遂行能力の向上
経済取引の一層の複雑化・広域化や経済社会のデジタル化・国際化等の進展のほか、若手等職員の経験不足に対応し、的確かつ効果的に事務運営が行われるよう、職員の経験等を踏まえた計画的な研修やOJTを通じ、実効性のある人材育成に取り組むことで、査察部門全体として職員の職務遂行能力の向上を図る。
また、取組に当たっては、センター局への査察官派遣実務研修(短期・長期)やブロック局ICT調査担当者の他局応援を積極的に活用するなど、全国の査察部門が一体となって推進し、特に、査察経験の浅い職員の指導育成に努める。


⑻ 職場環境の整備等
イワークライフバランス等に配意した職場環境の整備
性別や年代、時間等制約の有無にかかわらず、全ての職員がワークライフバランスを確保しながらその能力を十分に発揮し、誇りとやりがいを持って働けるよう、事務の簡素・合理化による超過勤務の縮減や必要に応じた事務分担の見直しなどによる体制整備を進めるとともに、幹部自らが職場におけるコミュニケーションの活性化やハラスメントの防止に取り組むなどし、明るく風通しの良い職場環境の整備に取り組む。
また、妊娠・出産・育児・介護と仕事の両立支援の観点から、全ての職員が両立支援制度を気兼ねなく利用できる環境の整備及び職場全体の意識醸成を図る。
ロ女性職員の活躍
女性職員の能力と適性を生かせるよう、ライフサイクルを意識したキャリア形成支援に重点的に取り組むほか、女性職員の登用の拡大に努める。


⑼ 綱紀の厳正な保持と事務管理の徹底
査察事務に対する国民の信頼を堅持するため、綱紀の保持と行政文書管理や情報管理をはじめとする事務管理を徹底する。
特に、情報セキュリティを確保するため、情報システム等の取扱いに係る関係訓令等の遵守を徹底するほか、電子媒体により作成・取得・管理することを基本とする政府方針等に基づき、行政文書の電子的管理に向けた取組を推進する。
また、厳格な管理が求められるマイナンバーを含む特定個人情報の取扱いについては、番号法や取扱規程に従い、十分な安全管理措置を講ずる。


3 重点事案
令和6年度においては、査察制度の目的に鑑み、以下の事案の積極的な立件・処理に取り組むこととする。
⑴ 消費税事案
消費税に対する国民の関心が極めて高いことを踏まえ、消費税事案について積極的に取り組む。受還付犯については、いわば国庫金の詐取ともいえる悪質性の高い行為であり、牽制効果を十分に発揮させる必要があることから、特に積極的に取り組む。
⑵ 無申告事案
無申告による税のほ脱は、申告納税制度の根幹を揺るがす行為であることを踏まえ、無申告事案について、積極的に取り組む。
⑶ 国際事案
国境を越えた経済・金融取引の活発化に伴い、海外取引を利用した悪質・巧妙な不正行為が見受けられることを踏まえ、国際事案について、租税条約等に基づく情報交換制度等を活用して積極的に取り組む。
⑷ 上記以外で社会的波及効果が高いと見込まれる事案
上記以外で、時流に即した新たな業種・業態に関連する事案や特定の業界内での波及効果が極めて高い事案など、世間の耳目をひき牽制効果が期待できる事案について、積極的に取り組む。

調査課当面の課題


1 事務運営の基本方針
調査課は、大法人の税務コンプライアンスの維持・向上に努めることを通じて、税務行政全体における適正・公平な課税の実現を図ることを使命とし、その果たすべき役割を「署では対応が困難な事案等を担当すること」及び「組織内外に大きな波及効果を及ぼすこと」としている。
こうした役割を果たしていくため、リスク・ベース・アプローチに基づき、実地調査による複雑・困難事案への的確な対応と大法人と協調関係を築いた上で自発的な税務コンプライアンスの維持・向上に導く協力的手法を効果的に組み合わせて所管法人全体を適切に監理することとしている。


2 評価指標に基づく調査事務
調査に当たっては、税務リスクが高い事案に取り組むことはもとより、調査課の役割を踏まえ重点的に取り組むべき分野へ優先的に事務量が配分されるよう促していく必要がある。
このため、新たな評価指標を策定し、調査課職員に当該分野への積極的な取組・事務量配分を促すともに、部次長・統括官等の幹部職員が当該分野への取組状況を適時・適切に把握・確認し、その分析・検証結果を各局の事務運営に反映させていくこととしている。

3 税務に関するコーポレートガバナンスの充実に向けた取組
大法人の税務コンプライアンスの維持・向上のためには、税務に関するコーポレートガバナンス(以下「税務CG」という。)を充実させていくことが重要かつ効果的であり、特別国税調査官所掌法人等に対して、その充実を促すことに取り組んでいる。


同取組をより効果的かつ効率的に実施する観点から、今後の方向性等について検討していく必要がある。
4 調査選定等の高度化・効率化に向けた課題への対応法人の申告・決算内容や過去の調査状況のほか、税務CGの状況など各種データの分析に基づき、調査課の役割を踏まえて個々の法
人の税務リスクを判定し、そのリスクに応じて所管法人全体を適切に監理することとしている。
調査必要度の高い事案を的確に調査選定するための法人情報管理統合システムについては、引き続き、改善すべき課題について見直しを行う必要がある。


5 戦略的な情報企画の取組
産業・経済の成長領域において、各種の課税上の問題・課題が顕在化・拡大する前に、これを的確に捕捉・分析の上、迅速に対応を検討・判断できるよう、より前広な情報収集・分析機能の強化、収集情報の組織的な共有・対応を行うことが必要不可欠である。
調査課においては、業界・地域を代表、リードする大法人を所管しており、調査等を通じて培った先端取引に関する専門的知識、業種ノウハウ及び情報を国税組織全体に還元することが役割として求められていることを踏まえ、将来的な課税リスクを見据えた中期的な観点による情報収集に取り組んでいく必要がある。


6 国際課税の充実
経済社会の国際化に伴う課税上の問題の複雑化など、国際課税を取り巻く環境変化に対して効果的かつ効率的に対応するため、都市4局の国際課税を担当する部署が中心となり、国際課税リスクの高い海外取引の把握及び実態解明に積極的に取り組み、移転価格調査や複雑な海外取引を行う法人について多角的な観点から調査を実施する必要がある。全国均質かつ整合的な事務運営を実施するため、都市4局は、センター局(東京局・大阪局)を中心に、リスク・ベース・アプローチに基づきつつ、移転価格等の専門性が高い分野を
中心とした地方局調査事案を支援していくこととしている。
また、令和6年4月に施行された「各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税(所得合算ルール・IIR)」に係る対応に関しては、法令解釈通達、Q&A等を公表するとともに、職員向け研修を実施してきたところ。庁局で連携し、外部からの質疑に的確に対応しており、今後も、積極的な制度の周知・広報等を進めるとともに、数か月に一度発出される執行ガイダンス、追加の税制改正等も踏まえて、適切に対応していく。

参考資料(ダウンロード可)

令和6年9月全国国税局長会議資料